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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
誘誘

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69/130

69.勧誘される元社畜



 誘拐騒動から数週間が経ち。

 リオナさんからはお小言と、心配したのよというお言葉をいただき。

 ノーエン伯爵家ご当主直々の真摯なお詫びと感謝と、乳製品やらお肉やらがたんまり贈られたりしつつも、平和に毎日が過ぎている。

 吹きすさぶ風も冷たく、寒さも本格的になってきて、そろそろ雪でも降ろうかという頃。


「そう、そこで慎重に魔法水とハーブエキスと精霊の涙を混ぜて……」

「はい!」

「精霊の涙が溶け切るまで15回しっかり混ぜたら、魔力が固着して色がうっすら変わるから……」

「えええええ、うっすら具合が全然わかりません!」

「ほら、今、今!!」


 てんやわんやした声が、作業室に響き渡る。私はリオナさんから調薬(プレパレ)を習っていた。

 どうにかポーションを安定して量産できるようになってきたので、次はハイ・ポーションねと、リオナさんがしごいてくる。


 基本的な作り方は、ポーションとさほど変わらないのだけれども、使う材料と手間が増え、気を遣う部分が格段に多くなる。

 つまり爆発である。ちょっとやそっとの爆発程度じゃ、そろそろ驚かなくなってきた自分が少し嫌だな。


「精霊の涙を混ぜ込む辺り、魔力視したほうが絶対安定しますよね……」

「鑑定以外の裏技使うなつーの」

「あはは。でもできました! やった、初めてハイ・ポーション作れましたよ、リオナさん」

「おめでとう、要」


 じゃじゃーんと、私はビーカーを持ち上げた。薄っすら紫色を帯びたハイ・ポーション(ぶどう味)は、きちんと≪鑑定(アナライズ)≫でも高品質で出来上がっている。

 いやあ、これを仕上げられるようになるまで、苦節1週間程かかったわけでね……。失敗は成功の母とは言え、無駄にした材料に両手を合わせたいくらいである。


「さすがにハイ・ポーションは、作るのが難しいですね」

「何言っているのよ。それ以上に難しいマナ・ポーションが待っているわよ」

「わはは……。まずはハイポの練習頑張ります。ようやくコツもつかめましたし!」


 話しながら、木蓮印の瓶にハイ・ポーションを詰めていく。1ビーカーで大体2本分作れた。効果は高いものの、ポーションほど量産が楽ではないので、先は長いなあ。

 リオナさんからあれこれ教わりながら作業していると、ふとコツコツと窓を叩く音がする。


「あら?」


 外にいたのは、魔法でできた鳩だった。くるっぽー。


「≪伝言(メッセージ)≫だわ。鳩の形状は確か……」


 苦々しげな顔をしたリオナさんが窓を開けると、鳩が室内に身を滑り込ませてリオナさんの腕に止まった。リオナさんが鳩の頭を撫でれば、魔法は鳩から形状を文字へと変換させる。


『これから行くね☆ ディラン』


 虚空へ描かれた文字が消えて、私とリオナさんは顔を見合わせた。


「確かにアポを取れといいましたけど、これから……?」

「≪伝言≫放ったからいいってもんじゃないのよ、あのボケが」


 作業台の上に置いた魔道具が、きんこんと来客の訪れを伝えた。

 ……これからっつったって、限度があるのでは?




* * *




「来ちゃった☆」

「来ちゃった、じゃないわよ。可愛い子ぶるんじゃないわよ。しかも、何でヒースと一緒に!?」

「いや、たまたまタイミングがかち合っただけで、別に一緒に来たつもりでは……」


 店舗に下りると、相変わらずにこにこと胡散臭い笑みを浮かべながら手を振るディランさんと、苦笑いしているヒースさんと、困ったような顔してるどなたかさんがいらっしゃった。ディランさんと服装が一緒だし、お連れさんかな?短い金髪の精悍な印象の方だ。

 てか、確かにすぐ会おうねとは言われていたけれども、こんなに早くやって来るとは正直思っていなかったのでびっくりだ。


「で? 今日はどういった用件なわけ?」


 リオナさんが、面倒くさそうに水を向ける。

 ほぼノーアポの突然の訪いである。特別約束をしていたわけじゃないし、前の時だって遊びに行こうと思っていたなんて言っていたからなあ。

 相変わらずディランさんは神出鬼没というか……。こっちの都合お構いなしなのは、どうにかしてほしいけれども。


「ちょっと前にお願いしておいたポーションあったでしょー。本格的に雪が降る前に引き取りにきたのと、ついでにカナメの手料理が食べたいなあって」

「堂々とタカりにきましたよ、この人」

「塩撒いてやろうかしら」

「ひっど、一応大口の客なんだけど~、僕」


 ケラケラ笑うディランさんは、ただのタカり野郎だった。

 作業にもキリが着いたし、そろそろ昼食の準備にとりかかろうかなとは思っていた頃合いだけれども。


「駄目~? うちの領の今年の初葡萄酒(ワイン)とデザート、持ってきたんだけどなぁ」

「カナメ、丁重におもてなしなさい」

「リオナさんの掌返しが早すぎるんですけど……」

「魔女サンにはお酒ってね。いや、でもちょうどよかったよ~。ヒースクリフさんも含めて、カナメにもお願いがあってね」

「お願い、ですか?」

「俺にも?」


 料理を食べに来ただけではなく?

 私と名指しされたヒースさんが怪訝げに首を傾げると、ディランさんはにやーっと不敵に唇を歪めた。


「そう。春になったら、僕と一緒にダンジョンに行ってくれないかな?」


 ……ダン、ジョン?

 って、ダンジョンあるんだ、この世界!?







 広くもない店頭で立ち話しているのも何なので、私たちはリビングに上がる。

 昼食を作る前に、とりあえずお茶とクッキーで一息。外は寒かっただろうしね、身体を温めてもらわないと。


「シラギ・アーベラインと申します。ディランダル様の副官を仰せつかっております。よろしくお願いします」

「シラギくんはねー、僕の頼れる従者なんだよね」


 ディランさんと同じ、オルクス家私設騎士団のブルーグレーの軍服を身にまとったシラギさんは、胸に手を当てて丁寧に頭を下げてくれた。がっしりとした身体つきをしているからか、ひょろっと長身痩躯のディランさんよりも騎士っぽい。

 オルクス家の代々の家臣で、アーベライン子爵家次男で、ディランさんとは生まれた頃からの付き合いなんだそう。それはそれは……。


「いつも思っていたけど、ディランダル・オルクスに振り回されて、凄く苦労してそうなのがにじみ出ているわよね……」

「わかっていただけますか、魔女殿」

「こら、シラギくんてば!」


 私があえて言わなかったことを、リオナさんはずけずけと言う。いや、多分みんなそう思っているよね。この自由人なディランさんに付き合うのは、大変そうだ。


 こんな感じで、互いにちゃんと名乗り合い、改めて挨拶を交わしたんだけど、家名での呼び方はディランさんが頑として嫌がり、みんな名前で呼び合うことになった。

 オルクス公爵令息様とか、めちゃくちゃ長いしね……。貴族って大変。リオナさんは、何故か相変わらずフルネームで呼んでるけど。


「で、ダンジョンっていうのは、数か月前に突如オルクス領に出現した、ランク未定のダンジョンのことでね」

「ああ、あの、【狂乱】の駄々で出来た」

「駄々でダンジョンができるんだ……」


 ディランさんが春先に、例年起きる魔獣・害獣被害の討伐でオルクス領の西の国境付近に向かったのだが、その際、プチスタンピードみたいな状態になっていて、討伐がかなり長引いてしまったのだとか。

 いくら何でもおかしいということで、調査をしたところ、フェーン山脈の山際に未発見のダンジョンが発生していたのだそうだ。


 リオナさんの補足によると、山を越えた北側に位置する国に君臨している【狂乱の魔女】が、気まぐれで作ったダンジョンじゃないかとのことらしい。

 そういう嫌がらせをアイツはするのよ、とのことだ。


「他の冒険者にでも依頼すれば、手っ取り早いのに」

「とはいうけど、結構面倒くさそうなダンジョンでさあ。北にわざわざ呼ぶのも手間だし、それなら僕が出ようかと」


 リオナさんの発言に、ディランさんは肩を竦めた。

 冬の間、オルクス公爵領近隣のダンジョンで稼ぐタイプの冒険者は、南に拠点を移すのだとか。

 もちろん、北側も、氷や雪属性の魔獣や魔物が出るから、討伐依頼がなくなるわけじゃないんだけれどもね。

 こっちは雪に覆われるのもあって、冬場は少々稼ぎが悪くなるらしい……。その分、珍しい素材を取れたりするので、とんとんとはヒースさんの言だ。


「あらら。ディランダル・オルクスが直々に? それは相当厄介そうね。【狂乱】もまた酔狂なことを」

「せっかくうちの領地にできたダンジョンだし、たまには僕も遊びたくてねぇ」

「ディランダル様、遊びではないのですよ」

「シラギくんってば、かったいなあ」

「ごほん。ダンジョンに関してですが、10階までの傾向からしてCからBランク下位の手応えと、報告が上がっておりました。しかし、どうにもそこから先の傾向が、中堅ランクとは言い難いようで」

「わー、ヤラシー。セオリー外すあたり、いかにも【狂乱】っぽいわ」

「つまり、最低でもCか、下手をするとAか……変則的だと、難易度がかなり高いですね。パーティとしても、念のためAランクが数人が欲しい……なるほど」


 長年の研究で、出てくる敵の傾向によって、ダンジョンにはランク付けがなされる。

 それと冒険者ランクの適性を合わせながら、無理なく自分で挑戦できそうなダンジョンに潜るのが一般的なのだそう。

 だから、一番最初に行うダンジョンの調査が、かなり重要な指標になるわけだ。


 ダンジョン自体は、オルクス私設騎士団が管理を行い、この数か月で現在10階までは調査が進んでいる。

 ただ、その先にたち憚る敵やトラップのせいで、生半な騎士だけでは手に負えなかったのが、今回の話の発端に当たる。

 本来、ダンジョンのランク付けは、大概10階からせいぜい15階くらいまで潜れば行えるらしいのだが、どうにも内部の生態が妙なので、オルクス公爵領としては、20階まで踏破を試みるつもりらしい。


 ダンジョンの正しいランク付けを行えないと、それに即した街づくりや、各種ギルド招致ができないのだとか。

 大昔にその辺りの調査を怠って、スタンピードを起こし、多くの犠牲を出した領地があったそうでゾッとしてしまう。

 ダンジョンは適切な管理ができれば財の宝庫にもなるのだが、うまくいかなければ魔物の温床となってしまう。諸刃の剣でもあるのだ。


「そんなところに、どうして私を? 足手まといにしかならないですよ?」


 益々解せない。ヒースさんの呟きを受けて、私は困惑しきりだ。

 冒険者としてぶいぶい言わせているヒースさんならともかく、私は戦闘能力皆無だし、役に立てるとは思えないんですが。


「≪予兆(オラクル)≫がね、降りてきたっていうのもあるんだけど」


 だけど、ディランさんは余裕気な表情で、両手を唇の前で組んだ。


「カナメには、付与魔法(エンチャント)とポーション管理の荷物運び(ポーター)として、そして何より料理を作って欲しいんだ。あの時ちょっとだけ飲ませてもらったスープ、めちゃくちゃ美味しかったからね」








メンテの影響で投稿が遅れてすみません。

次回はまた木曜日更新です( ´ ▽ ` )


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