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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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61.薬の魔女と転生魔法師の密談



「……よかったんですか? あんな風にカナメと仲良くして」


 要とヒースが、王城に出かけた日の夜のこと。

 王太子の意向で、王太子宮に少しの間滞在する旨を、伝達係代わりにユエルが伝えに来た。

 尋常じゃない魔力量を誇っているとはいえ、相変わらず規格外に転移魔法をホイホイ使う女だ。


 そのまま彼女は、キッチンで勝手に茶を淹れわざわざ給仕してから、ソファに腰を下ろして心配げに私に尋ねた。私の茶の淹れ方が適当だということを知っているので、紅茶好きとしては我慢ならなかったのだろう。


「貴女なら、突き放すんじゃないかなって思っていました。だって、その方がお互いのためじゃないですか」

「そのつもりだったんだけどね……」


 要が『マリステラ』に墜ちてきた時の、あの顔色の悪さをみたら、そんな気持ちも吹っ飛んだわよ。

 ヒースには魔力慣れって誤魔化したけれども、それだけじゃ決してなかったから。


「リオナさん、お人好しだから。放ってなんておけないですよね」

「アンタだって」


 当てが外れたと私がため息をつくと、にしししとユエルは猫のように笑う。

 そう。当初の予定では、要にそこまで関わり合うつもりはなかったのだ。これでも。

 私の目的は、後世まで調薬技術の継承をさせること、ただ一つ。

 だから、よっぽど人格がアレじゃなければ、確定で≪鑑定(アナライズ)≫が使える『界渡人(わたりびと)』なら、誰でもいいとすら思っていた。

 その点に関して、真面目な要は、私の希望を叶えられる最適の人材だったわけなんだけど。


「……アンタが、私を殺せたらよかったのに」

「何て酷い言い草!」

「はぁ、わかってるわよ。アンタは転生型だし、聖女は【嘆き】を還しちゃうし……。これだけ長らく生きていても、なかなか上手く行かないものよね」

「そりゃあねえ。今の聖女は特にイレギュラー召喚でしたから、しょうがないじゃないですか」


 ユエルは、肩を竦めた。

 5年前に起きた事件、【嘆き】の魔女討伐の真相を詳しく知る……というよりも当事者として、世界と聖女と魔女の因縁を理解している稀有な存在であるユエルは、苦笑するほかない。


 ユエルでは、どうあっても私を還せないとわかっているから。私を解放する唯一の方法を知っているから。

 私の葛藤も、要が抱くであろう苦しみも見透かして、いずれ訪れる選択を静かに見守ってくれるだろう。


「だけど、今は、絆されて、カナメでよかったなって思っているわ」

「……カナメが泣いて嫌がるのが、わかっていても?」

「心残りにはなるでしょうけどね。ヒースもアンタもいる。要なら、きっとわかってくれるし、乗り越えられるって思ったのよ」

「……リオナさんもカナメも、巻き込まれただけなのに、世界は残酷だわ」

「それでも、私は魔女で良かったとすら思うわ。魔女にならなかったら、アンタたちと出会えなかったもの」


 ――要が調薬を覚えきったら、時は満ちる。


 私は、そんな要に、笑顔で終わりを告げるのだ。

 きっと酷いって責められる。絶対に拒まれる。泣かれる。縋られる。そんな未来を予想できる程度には、要のことをわかっている。優しいあの子が心を痛め引きずるのは、罪悪感も心苦しくもある。


 彼女は私の思惑を知ることなく、せっせと楽しげに調薬に勤しんでいる。

 知っていたら、きっと子供のように駄々をこねて、覚えたくないって言うに違いない。


 気が遠くなるほど長い時間の中で、たまたま縁を得たカナメとヒースの存在は、久しぶりに私の無聊を慰めてくれている。

 日々の暮らしが色づいて、他愛のない会話が届いて、良い匂いが漂って、笑い声が響いて、温もりがあって。

 そんな人として当たり前の時間を、私にくれる。


 ただ、それ以上に私は、すでに飽いて、渇いてしまっているから。

 この胸に、慈悲の水を与えてほしいのだ。


「だからさ、エゴだと言われようと、最後を見送ってもらうのは、どうせなら家族とがいいじゃない。要もヒースも、私のことを忘れないでいてくれるでしょう?」

「……私だって、シリウス兄様だって、ずっと覚えていますからね!」


 私の言葉が気に入らなかったのだろう。ユエルがぷくっと頬を膨らませて、肩を怒らせる。そちらこそ忘れるなと言わんばかりに。

 私は、くすりと喉を鳴らした。

 こうやって、死なない私の存在を、大事にしてくれる人がいる。心配してくれる人がいる。さほど多くはなかったけれども、なんだか胸がほっこりする。悪くないとすら思う。


 悠久にも思える終わらない不死において。

 無感動に見送るだけだった生において。

 【怠惰】なまま、自分の研究にしか興味のなかった私が。

 そんな人らしい感情を抱けるようになったのは。

 ――欲しいものを見つけてしまったから。


(全部、全部、貴方のせいよ、マグノリア)


 だから、私は、手を伸ばした。

 届かないとわかっている夜空に浮かぶ星々に、それでも手を伸ばすように。

 それがたとえ残酷だと、身勝手だと謗られようと。

 要に絶望を与えるのだと、分かっていても。



「なら、きっと、私は凄く幸せな魔女なのよ。【嘆き】に負けないくらいね」





ご覧いただきありがとうございます。

これにて3章終わりです。引き続き木曜日から4章になります。

リオナさん周りは設定をカナメとのお話に組み込むのがなかなか難しく幕間的に…。


ブクマ、評価ありがとうございます(*'▽'*)

少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

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