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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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58.元社畜と参鶏湯風スープ・1



 時間はかかったけれど、治療はつつがなく終わった。肩の荷が降りた気分だ。

 私は、ほっと息を吐く。ヒースさんというレアケース中のレアケースを最初に引き当てたからか、スムーズに処置できた。

 本人は大丈夫だと気丈に微笑んでくれたものの、レオニード殿下はくったりとベッドに沈んでいる。魔力の急激な変化で、身体が重怠くなっているのだろう。


「お腹が空きました……」


 ただ、そう呟いてへらりと笑ってくれたので、ご飯を食べたいという気力があるなら問題なさそうだ。

 大人のヒースさんとは、体力も精神力も異なる。まだ成人すらしていない子どもだから、経過観察は慎重にしないと。


「……レオは大丈夫なのだろうか?」

「≪吸収(ドレイン)≫や≪調律(ヴォイシング)≫で、魔力が荒れているために起きる症状かと。馴染んでいけば治まると思います。ただ、辛そうだからと、ポーションとかは飲ませないようにしてください。代わりに症状が楽になるようにと、こちらを作ってきたのですが……ええっと、毒見とか必要ですかね……?」


 そういって、持参してきた収納鞄から、私はおずおずとスープボトルを取り出した。

 皆が何だろうという顔をする中、ユエルさんが反応してくれた。


「それって、スープボトルよね?」

「はい。実は……どうやら私、何故か汁物にも付与ができるっぽくて……こう栄養ドリンク的なものになってしまうみたいなんです」

「栄養ドリンク!! だけど、この間のスープカレーには、そんな効能なかった気が」

「歌わないと付与されないっぽいんですよ~」

「歌」


 ユエルさんをお招きしたときは、バタバタ作っていたから、そんな暇なかったんだよね。

 吹き出しそうになっているのを、ユエルさんが扇を広げて必死で我慢している。でもプルプルしているのが丸わかりだぞ。


「ふふふ……貸して。大丈夫でしょうけど、私が≪鑑定(アナライズ)≫をかけます」


 なるほど、鑑定にはそういう使い方も。確かに、いちいち魔法で解毒をかけずとも、一発でわかるよね。

 ユエルさんにスープボトルをお渡しして、害がある物質が入っていないことを確認してもらう。


「てか、結構な量を持ってきたのね?」

「だって、後で食べたいって言う人が絶対に出ると思ったので……」

「まあ。王太子殿下の御前でしてよ?」

「じゃあ、ユエルさんはいらないということで」

「食べます」


 私たちの会話で、ラインハルト殿下が吹き出した。結構フランクに話をしちゃっていると思うのだけど、お咎めもなく耳を傾けてくれて気さくな方だ。


 無事ユエルさんの≪鑑定≫をクリアしたので、私は蓋を開け、レオニード殿下の前にスープをお披露目した。

 昼前の、ちょうどお腹が空いている頃合い。スープボトルからほのかに広がる香りは、食欲を刺激する。

 レオニード殿下の喉が、こくんと鳴った。


 今回私が用意したのは、とろみと白さが特徴の、参鶏湯(サムゲタン)風スープだ。薬膳料理としても有名だと思う。

 といっても、丸鶏や高麗人参、棗とか、きちんとした材料と手順で作られているわけではないので、あくまでも「風」なんだけど。

 それでも、身体を暖めたり、滋養によかったりする。体調を崩しているレオニード殿下に、ぴったりの一品だ。


 手羽先とももの2種類の鶏肉と、ネギ、しょうが、にんにく、きのこ、かぶと玉ねぎを、ひたすら煮込んで作ってある。

 お米はふやけすぎないようタイミングを見て投入し、スープボトルの保温機能に任せて柔らかくした。

 鶏から出た出汁たっぷりのスープに、ほろほろのお肉、そしてお粥状になったお米が、胃にも優しい。

 レオニード殿下用のには、食べやすいよう手羽先をいれずに、もも肉だけにしてある。あと子どもはネギもだめかもなーと思って外した。


「どうでしょう、食べられそうですか?」

「わ……いい匂いがする……! 父上、僕、食べてみたいです」

「そうか。最近食も細かったからな。食べたい気持ちは大事だ」


 そろそろと上半身だけ起き上がった殿下に、スープボトルとスプーンを渡す。

 まずは温かいスープを一口。瞳が幸せそうに緩んだ。まだ少し怠そうだったけれども、ぱくっと肉の塊を載せたスプーンを頬ばってくれる。やっぱり男子、可愛い顔をしていても、肉が好きか。


「美味しい……鶏肉がほろっと崩れるよ。この白いのは何ですか?」

「米という穀物を煮込んだものです。胃に優しいんですよ」

「ふぅん。スープを吸って味が染みて、柔らかくて食べやすいですね」


 どうやらレオニード殿下にも、参鶏湯はお気に召してもらえたようだ。

 ふうふうと息を吹きかけて冷ましつつ、笑顔でパクパク食べてくれる。

 ずっと寝ていたのだろうし、食欲も減退気味だったようだから、まろやかな塩気のあるスープは、身体に染み渡ることだろう。

 ほっぺたも赤くなっていて、だいぶ体温も上がったみたいだ。よしよし。


 こう美味しそうに食べてもらえると、他の人も気になってくるのが性だろう。

 相向かいでレオニード殿下を安堵の表情で見ていたラインハルト殿下も、やがてじーっと私に視線を流してくる。麗しいご尊顔で、じーっと……圧が……凄い……。


「……え、と、ラインハルト殿下もいかがでしょうか?」

「是非いただこう」


 待ってましたとばかりに、ラインハルト殿下が表情を輝かせた。うおっ、眩しい!






 ……そんなわけで、レオニード殿下の部屋は、すっかりスープ試食会の様相を呈してきてしまった。

 ほらー!!朝、ヒースさんがくれた助言通り、スープボトル複数持ってきて正解だったよ。完売ですよ、完売。


 しかし、とうとう王族の方にまで、私のスープをお出しすることに……。ははは、これでもう恐いものなしですよ。ラインハルト殿下がフランクすぎて、良いのかなあってなる。

 もちろん、レオニード殿下も王族なんだけどね、それ以上に患者という印象が強かったのでね。


 それにしても、この後昼餐があるって話なのに、何でみんな勢い込んで食べようとしているんだ……食いしん坊かな。少なめによそっておいてよかったよ。



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