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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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54/130

54.元社畜とスパイスパラダイス



 何はなくとも夕食を作らねば。

 キッチンで隣に立つヒースさんをわずかに意識しながらも、私は手を動かす。

 久しぶりにスパイスを扱える嬉しさが勝っていて、助かった感じだ。


 ホロホロドリのもも肉を大きめに切り、軽く塩コショウを振る。

 スープカレーといったら、手羽元をどーんと入れるのが一番いいのだけれども、デイドレス姿のユエルさんもいるので、今回は食べやすさを重視だ。

 まあ、それでもお肉の塊は、結構ボリュームあるけどね。


 野菜をヒースさんに茹でてもらっている間に、私は順番に肉をフライパンで焼いたり、薄切りして冷凍してあった玉ねぎを鍋でじっくりと炒めたりする。

 弱火であめ色にするの、少し時間がかかるよね。塩入れたり、差し水したり、手間もちょいかかる。でも、きっちり炒めたほうが絶対においしいので!ちなみに、冷凍玉ねぎを使うと、細胞が破壊されて火が通りやすくなるから、かなり時短できるよ!

 3つあるコンロが、フル稼働だ。こういうとき、レンジがあったらいいなあとつくづく思う。身体も足りない。忙しい忙しい。


「私が提供したキッチン製品は、綺麗にカナメが使ってくれているのね」

「この魔導コンロと流しは、ユエルさんのご提供だったんですか。すっごく助かってます!」

「そうなの。魔石刻印周りのモニターお願いって導入してもらったんだけど、リオナさんの使い方が基本お湯を沸かすとかそういうレベルでね、一応頑張ってはみてくれていたんだけど、ふふ……」

「魔窟……腐海……」

「焦げた鍋、芽の出たじゃがいも、うっ、頭が……」


 三人とも、薄ら笑いをして目から光が消え失せた。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのである。あの惨状を、思い出してはいけない。SAN値が減る。


 なお、魔石に土魔法で魔法陣を刻む手法は、ユエルさんが確立したそうな。魔法陣に≪転換(コンバート)≫を組み込むことで、属性関係なく自動で魔石をキックできるような設計にしたのだとか。だから、使うたびにわずかに魔力が抜ける感覚があるのか。

 コストの高さがやはりネックだったけど、充魔のおかげでコストカットが可能になったと大喜びされた。


 玉ねぎをヒースさんに任せ、私はもう一つ鍋を用意して、たっぷりの湯を沸かす。

 ついでに、キッチンでふらふらしているユエルさんに、湯取り法によるインディカ米の炊き方を実演して見せる。

 基本、熱湯にインディカ米を入れて、時折混ぜながら茹でるだけだ。事前に米を洗ったり、研いだりもしない。

 米が透き通って、軽くふくらむ程度になったら、ざるにあげて湯切り。

 水を捨てて洗った鍋に再び米を入れて、弱火にかけて水分が飛ぶまで加熱する。音がしてきたら火を止め蓋をして、蒸らせばオッケー。

 うーん。お米の香り、懐かしくて泣けてくる。なんだかんだあったから、まだお米を炊けてなかったのだ。


「思ったより簡単だった。私のこの数年の苦労は一体……」


 ユエルさんが、シンクに手をついて、がっくりと肩を落としていたけれどドンマイ。

 米そのものが悪いのか?とか、水が合わないのか?とか、炊飯器しか使ったことのないユエルさんは、だいぶ苦労してあれこれ試していたみたい。

 日本の美味しいお米を覚えていたら、食べられなくはないけどイマイチって味と食感と匂いじゃ、突き詰めたくもなるよね。


 米を茹でている間に、炒め終わった玉ねぎに刻んだトマトを加えて水分を飛ばした後、お待たせしましたのスパイスを合わせる。

 ターメリック!クミン!コリアンダー!カルダモン!レッドペッパー!スパイスパラダイス!

 スパイスはいっぱいあるので、お好みで種類や量を調整するのがコツである。ナツメグとか、シナモンとかもいいよね。

 ガラムマサラがあったら便利だったんだけど、ミックススパイスは見当たらなかった。ないならないで仕方ない。


 すりおろしたしょうがやニンニクも入れつつ、しっかりスパイスと混ぜ合わせたあと、味を確かめてスパイスの調整。

 焼いた鶏肉と、茹で上がって大きめに切られたじゃがいも、人参を加えて、いつものコンソメストックと一緒に煮込む。

 あれこれ野菜をきっちり下ごしらえしてくれているのだから、ヒースさんもすっかり手慣れたものだ。

 具材は大きいのが、スープカレーの醍醐味、ジャスティスである。


「空腹にずどんと来る匂いだな……。だいぶアレな色をしているけれど……」

「ううう、念願のカレーだぁ! いい匂いだよぉ……!」


 スープのアクとりは、ユエルさんが買って出てくれた。懐かしいカレーの匂いを、たくさん吸い込みたいのだとか。クンカクンカしている。そこまで……。

 鍋に頬ずりでもしそうな勢いだが、火傷したらあかんのでやめてくださいね。

 私の予備のエプロンを貸したはいいものの、ユエルさんの素敵なドレスに、カレー匂ついちゃうけど大丈夫なのだろうか。あっ、≪清浄(クリーン)≫の魔法で綺麗にできるから、気にしていないのかもしれない。


 この間にブイヨンを加えた卵液を作り、じゃがいも、みじん切りのたまねぎ、ベーコン、昨夜のリオナさんの残したつまみの枝豆を合わせて、塩コショウ。スキレットに流し込んだらオーブンへ!チーズを上に乗せると美味しいんだよね。


 空いたコンロを使って、ちょっと多めの油でパプリカやナスを焼き揚げする。素揚げするほどの時間はないし、揚げ焼きでも充分美味しいので。


 これで、概ね夕食の準備ができた!

 ヒースさんとユエルさんが手伝ってくれて大助かりだ。一人だったら、ここまで手際よくできなかっただろう。


 あとは、蒸らし終わったお米をさっくりとまぜて、ユエルさんとつまみ食いしつつカップによそったり。

 スープカレーに、揚げ焼きした野菜と、事前に作っておいたゆで卵を半分に切ったものを載せたり。

 スパニッシュオムレツのスキレットを取り出して、ざっくりと切り分けたり。

 冷蔵箱で冷やしてくれていたカプレーゼには、オリーブオイルをかけたり。

 手分けして作業をし、ダイニングテーブルの上には、ボリュームある食事が次々と並べ得られていく。


 バタバタしていたし、急遽だったからサフランライスまでは手が出なかったのだけれども、全体的な色合いも案外悪くない。

 ふふん。デザート代わりに、ヨーグルトと牛乳、はちみつでラッシーでも作ったら完璧だね!ヒースさんがかなり頑張ってくれたから、甘いもので労わってあげないと。


 こうして、スパイスの良い香りが部屋中に漂い、とっても食欲が刺激される食卓が出来上がった。





スパイスパラダイスの元ネタは、あっとまーくのつくアイドルのアレです。


誤字報告ありがとうございます!助かります。


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