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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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49/130

49.元社畜と転生魔法師の取引・1



「さて、と。大切な話も上手くまとまったことだし、一息つきましょう。私はクッキーをいただきます。さっきから気になっていたの」

「ああ、どうぞ、召し上がってください。お茶も入れ直しますね」


 結構な時間が経過しており、お出しした紅茶はすっかり冷めきっていた。

 私がお茶を淹れ直している間に、シリウスさんとユエルさんは、クッキーをちょこちょこ食べてくれていた。お口にあったのなら良かった。

 今度のお茶は、濃い目に出して、ミルクティーにしてみた。ユノ子爵領のフレッシュな牛乳は、紅茶にもクッキーにも最適だ。


「美味しい~。これ、カナメが作ったの?」

「はい。お菓子はそこまで作れるわけじゃないんですけど、簡単なお茶うけ程度なら」


 クッキーも、リオナさんとヒースさんが摘むから、常備して作ってあるだけだしなあ。

 ちなみに、今回はくるみを載せたノーマルのと、茶葉を刻んで練りこんだ紅茶クッキーの2種類をお出している。


「……もしかして、料理できる系? あ、そういえば料理スキル持ってたよね」

「リオナさんの面倒をみられるくらいには?」

「謙遜。カナメの料理は旨いですよ。特にスープとか煮込み系が得意です」


 あっ、ヒースさんが余計な事言ったぞ。

 私が口を引き攣らせていると、ものすごく目を輝かせて、期待を含んだ眼差しで、ユエルさんが私の手をぎゅっと握ってきた。


「ねえ、貴女、スパイスから配合して、カレーとか作れちゃったりしない!?」

「はい?」


 ここにきて、飛び出してくる話題がカレーですと!?


「つまり、スパイスがあるんですか?」

「北だとあまり馴染みがないかもだけど、私の実家のレイン侯爵領には港もあって、スパイスの取引をしているから一般的なのよ」


 だけどね、とユエルさんはその美貌に憂慮を載せて、胸の前でぐっと力強く握り拳を作りながら嘆いた。




「異世界転生人のみんながみんな、スパイスからカレーを作れると思うなーー!! カレーには、カレールーしか使ったことがないんじゃーー!!」




 

 美貌の無駄遣いすぎるユエルさん、魂の叫びである。目の前に海でもあったら、夕陽に向かって吠えていたレベルの切実さを感じた。

 美形渾身の内容の酷い罵倒、凄いな。絵にはなるんだから、美人ってお得。

 ちなみに『界渡人(わたりびと)』以外の人たちは、ユエルさんの振る舞いを見なかったことにした。次期侯爵夫人ご乱心である。リオナさんは、めっちゃ笑っていたけど。


 いや、でもこれわかる気がする。カレーのスパイス配合なんて、よっぽど料理にこだわりがない限り、一般的に暮らしているほとんどの人が知らないだろう。企業努力の集合体のルーがあるし、配合済みのスパイスだって、スーパーに売っているのだし。

 クミンとか、カルダモンとか、コリアンダーとか、カレーに使われている一部のスパイスの名前くらいは聞いたことある程度の認識が、ほとんどだと思われる。


 私もいわゆるご家庭のカレーをスパイスからわざわざ作ったことはない。だって、市販のルーを使うほうが簡単だしね。

 が、私は別のものなら作れる。別のものというか、類似品というか。


「スープカレーでよければ、スパイスから作れますよ」

「……スープカレーとカレーって何が違うの?」


 ユエルさんが目をぱちぱちさせながら、首を傾げた。

 作れることより、メニューの差異の方が気になったらしい。


「ルーのカレーは、小麦粉とかでとろみをつけて煮込むんですけど、スープカレーは小麦粉を使わずに、スープとスパイスで作っているんです。だから、スープカレーが作れれば、カレーにもアレンジできるはずです」

「おお!」


 ユエルさんの声が、期待に弾んでいる。

 とろみと水分の粘度とか、具材の大きさとか、そこそこ違いがあるんだよね、スープカレーとスパイスカレー。スパイスのみで作るカレーよりも、小麦粉を入れてとろみを付けたいわゆる日本のカレーほうが、ユエルさんにもなじみ深いだろう。細かな違いは、説明すると長くなるのでカット。


 カレーも当然美味しいけど、スープカレーもまた違った美味しさがあって、私はどっちも好きだ。

 私の母が、亡くなる直前くらいにスープカレーにドハマリした時期があって、私も一緒にスパイスの配合とかを覚えたんだよね。

 まさかそれが異世界で役に立つとは……。


「あー、でも一つ問題が……」

「え、何?」

「スープカレーには、できれば米があったほうがいいんですけど……」


 頬に手を当てて、私は深々とため息をついた。

 私にはどうあっても解決できない、最大の問題。それは米。

 もちろんパンにも合うのだけど、やっぱりスプーンでご飯を掬って、それをスープカレーに浸すのがねー、最強に美味しいと思うんですよね。

 でも、そこは最悪妥協できるラインかな。悩ましいけれども。

 私がさくっと諦めを滲ませたところ、ユエルさんがいい笑顔を見せた。


「あるわよ、お米」

「あああああるんですか!?」


 私は、がたんと椅子を鳴らして立ち上がった。動揺で、思わずドモった。

 ユエルさん、さっきから隠し玉が多すぎません!?


「といっても、やっとうちの領地で収穫できるようになったから、まだまだなのよね。流通できるほどじゃないんだけど……≪収納空間(ストレージ)≫」


 ぱちんと指を鳴らして、ユエルさんはどこからともない空間から、袋を取り出した。

 おお、凄い。上級天魔法じゃないですか。


「少しなら分けてあげられるわよ」

「ユエルさん、貴女が神か」

「ふっふっふ、あがめなさいな奉りなさいな」


 渡された袋の中には、大体5キロ分くらいのお米が入っていた。

 お米の匂いに、ちょっと泣きそうになる。これはまさしく黄金だ~。

 しかも、インディカ米みたいな細長い米じゃなくて、ジャポニカ米に似ている。


 ユエルさんが、豊満な胸を張って盛大にドヤる。いやーもう本当、首を垂れて跪いて、両手を合わせて拝んでも惜しくない。

 てか、実際拝みました。みんなから引かれました。

 でも気にしない。何故なら、米があるからね。凄い、領地で稲作までしているだなんて!


「今後も、継続的な取引をお願いしたいです……!」

「定期的にちょっとずつね。うちもまだそこまで作付けが多いわけじゃないのよ」

「無理を言ってすみません」

「米を欲するジャパニーズソウルは、嫌ってほどわかるから」


 ですよね。

 とはいえ、やった!これでスープカレーだけじゃなく、おにぎりと豚汁の組み合わせとか、炊き込みご飯とか、雑炊とか作れちゃう。

 頻繁に炊けるほどの量はないけど、ある程度定期的に購入ができるのなら、最高じゃないか!






あけましておめでとうございます。

本年も元社畜調律師をどうぞよろしくお願いします!

新年早々カレーの話になるとは(笑)


追記:タイミングの悪い時間の投下になってしまい申し訳ありません。被災された方には心よりお見舞い申し上げます。しばらく様子を見ようと思いますので、毎日更新は数日ストップします。ご理解のほど、よろしくお願いします。

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