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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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46.元社畜とシュヴァリエ家の人たち



 すっごい美形とすっごい美人が、優雅にこちらへとやってくる。語彙力をくれ。

 え、何、これは現実か。この草だらけの一角で、そこだけやたらと空気がハイソで輝いている。

 うわー、目の保養が過ぎる。

 って、いやいや、よく考えたら私の周り、顔面偏差値高すぎでは!?前門の美人、後門の美形みたいな。平凡な私が、居た堪れなさすぎるんですけど。


 襟足だけ長い黒髪に、アメシストのような紫目。シャープさのある顔立ちをした長身痩躯の超絶美形は、メガネの智を軽く上げて目を細め、胸に手を当て、私へ軽く会釈をしてきた。


「アイオン王家より、『界渡人(わたりびと)』保護の報告を受け派遣されて参りました。シュヴァリエ侯爵家次期当主、シリウス・シュヴァリエと申します。初めまして、貴女が『界渡人』ですね?」


 すらりと姿勢良く、指先まで洗練された立ち居振る舞いが格好良すぎる。

 そして、シリウスさんの隣に立つのは、背まで伸びたストレートの銀髪に青い瞳。お人形さんみたいなクールビューティー系超絶美人が、ふっと柔らかく顔を綻ばせた。

 あ、笑うと親しみやすくなる愛らしさだ。ギャップが推せる。あわわ、気分は芸能人に笑いかけられた一般人である。

 シンプルだけど質の良さげなドレスを摘み、彼女は腰を落とした。初めて見た。いわゆるカーテシーというやつだろう。


「私は特級魔法師ユエル・シュヴァリエと申します。こちらのシリウスの伴侶です。『界渡人』、貴女の名を伺っても?」


 動揺しまくりの私は、慌てて頭を下げた。

 悪いことをしてるわけじゃないけど、心の準備なくお役所サイドの人に突撃されたら、緊張の一つもしてしまう。


「は、初めまして。カナメ・イチノミヤと申します」

「カナメ、ね。突然通達もなく訪れてごめんなさい。リオナさん直々の連絡だったから、こっちもてんやわんやしちゃって。しっかし、相変わらず草ぼうぼうね。もっと軽装にすればよかったわ。うっかりしてた」


 挨拶は形式ばっていたけれども、ユエルさんの口調は、だいぶ貴族らしからぬ柔らかさでほっとする。

 出で立ちだけで圧倒されるもんなあ。装飾品などは最低限なのに、顔面が強すぎる。これで着飾ったら、ご両人とも傾国もかくやなのでは。


「久しぶり。よもや、貴方が直々にくるとは思わなかったわ、宰相補佐。……まだ宰相補佐でいいのよね?」

「ええ。お久しぶりです、魔女様。闇の女神案件だと伺いましたので。私とユエルが出向くのが最適かと」

「まあ、ユエルはともかくね。宰相補佐は仕事大丈夫なの?」

「急ぎの案件だけは、片付けました。あとはまあ、父に投げてきましたよ」

「うわ、また閣下こき使われてカワイソー。そろそろ世代交代しなさいよ」

「お義父様、まだまだ引退しそうにないのよねえ。それにしても、魔石と言い、早速面白そうなことやってるわね。キックスケーターだったっけ?」

「私の時には、なかったものだからねえ……。風魔法を使うから、要はエアスケーターって言ってる。先日完成したばっかりなのよ。今試運転してたところ」

「わー私も欲しい! 楽しそう!」

転移(テレポート)使える人間が言う言葉じゃないわね……」

「それはそれ、これはこれ」


 うわ、なんかやばい肩書きの人がきた。

 こういうのって中堅の文官みたいな人が来るのがセオリーじゃないの!?宰相補佐て、相当偉い人なんじゃ!?震えてしまう。

 平然と二人と話しているリオナさんは、会話の内容から察するに、この人たちと顔見知りなのだろう。だいぶ仲が良さげだ。

 すると、リオナさんから視線をついと上げて、シリウス宰相補佐さんが眉根を顰めた。

 険しい視線のその先は、私の後ろに注がれている。


「それで? 挨拶もなく、そこで後ろ向いているお前。こんなところにいたのか。何も言わずに出奔した不義理なお前だ、あ? ヒースクリフ・ミスティオ」


 ヒースさんは気まずげに苦々し気な顔をして、観念してこちらへと振り返ると、丁寧な仕草でお辞儀をした。


「……お久しぶりです、シリウス先輩。いえ、シリウス様。長らくご無沙汰しており、申し訳ございません」


 ……へ?まさかの知り合い!?

 ていうか、ヒースクリフ・ミスティオって、一体どういうことなの!?




* * *




 微妙な空気の中、草むらで立ち話も何だからと、我々は魔女の屋敷に戻ってきた。

 エアスケーターに、シュヴァリエの二人は興味津々だったけれども、それは後だ。


 私がキッチンでお茶を淹れている間、ヒースさんはシュヴァリエの2人に囲まれ、借りてきた猫のように身を縮めている。

 事情があるって言っていたしなあ……。まさかこんな形で、事情の片鱗を知る羽目になろうとは。


 アイオン王国には、建国の勇者と聖女とその仲間たちの血筋から、それぞれ各種属性を元に家を分かった3つの公爵家と5つの侯爵家が、現在も血脈を繋いでいる。

 光属性と9属性に含まれない聖女固有の聖属性のシノノメ公爵家。

 天属性のルフト公爵家。

 地属性のオルクス公爵家。

 水属性のレイン侯爵家。 

 火属性のギア辺境伯家(侯爵相当)。

 雷属性のローズマリー侯爵家。

 闇属性のシュヴァリエ侯爵家。

 ——そして、風属性のミスティオ侯爵家。


 つまり、ヒースさんは貴族だったというわけだ。

 元々、全体的に仕草に品があってが綺麗だし、どちらかというとディランさん側っぽいなとは思っていたから、納得といえば納得。

 だからといって、何が変わるわけでもないけれども。ヒースさんはヒースさんであり、ヒースクリフ・ミスティオさんではないのだ。少なくとも、私にとっては。


 ティーカップを各人の前に出す。ついでのお茶うけに、私が焼いたクッキーも。貴族の方が、素人クッキー食べるのかなあとは思いつつ、何もないのは味気ないしね。

 ベルガモットの香りが微かに立つ紅茶は、ミクラジョーゾーで仕入れたものだ。

 ユエルさんが、くんと鼻を鳴らした。


「あ、うちの茶葉を使ってくれているのね。アールグレイ」

「……うちの、ですか?」

「そう。私、元々レイン侯爵家の人間で、シュヴァリエに嫁いだのよ。この茶葉、レイン侯爵家とお隣のフェラ—伯爵家で一緒に作っているものなの」


 ああ、水の。確かミクラジョーゾーのリュウさんが、醤油を作るのに協力してくれたのが、レイン侯爵家だとか何とか……。

 ——ん? んんん??


「さて、色々と話さなければならいことはたくさんあるでしょうが、まずは『界渡人』について確認をさせていただきましょうか」


 シリウス宰相補佐さんが、銀縁の眼鏡をすっと上げる。

 頭の片隅に何か引っかかることがあったのだけれども、シリウス宰相補佐さんの一言で、私の意識はふっとそれてしまった。


 リオナさんとヒースさんが、私を保護した経緯を詳細に話していく。そこに、私が移転で抱いた感覚について、補足していく形で話は進んだ。

 そして、ユエルさんの手で、改めて≪鑑定(アナライズ)≫もなされた。「ステータス、尖ってるわね」って笑われた。私もそう思います。


「ありがとうございます。おおよそ、事情は察しました。我らが闇の女神の思惑まではわかりませんが……この相当強い闇の気配で、相当お気に召されていることだけはわかります。何らかの結びつきが……うん……?」


 シリウス宰相補佐さんは、私の顔をまじまじ見つめると、顎に手を当てて、どこか考え込む仕草を見せた。

 闇の女神との結びつきを示唆されたが、思い当たる節でもあったのだろうか。


「シリウス宰相補佐さんは、私の魔力がわかるんですか?」

「シリウスで結構ですよ。一応、これでもカナメ嬢と同じ『付与調律師(ヴォイサー)』ですから、魔力を視させてもらいました」


 嬢だって!そんな風に敬称つけてもらう身分でも歳でもないので、少し気恥ずかしいな。こちらは呼称が長いから、お言葉に甘えてさんづけにするけど。

 シリウスさんは、わずかに苦笑をしながら打ち明けてくれた。あっ、噂のもう一人のハイレアクラス持ち!


「それで、何故連絡までに半年近くかかったのか」

「ごめんねー。連絡するつもりはあったんだけどさあ。要が『界渡人』だってわかるまでに、ちょっと時間がかかっちゃって。要もここにいたいっていうから」


 じろりというシリウスさんの睨みを、リオナさんはあっさりと流す。

 うっわ、白々しいほどの棒読み。拾ったときの情報を事細かに開示しておきながら、凄くいい笑顔でゴリ押しする気だこの人。

 諦めたように、シリウスさんがため息をついている。苦労しているんだろうなあ。お疲れ様です。


「保護してくれていたのが、薬の魔女でよかったというべきね。国が引き受けるよりも、断然安心できるんじゃない? 変に担がれたりしないし、政治に巻き込まれることもないし、自由がきくし。その分、アレなことやらかす可能性高くて、実際、既にしてるっぽいけど。どの道、うちがいただくわけだし」

「ひえっ……いただくとは」

「カナメ嬢は、≪闇の女神の愛し子≫ですからね……。我がシュヴァリエ侯爵家が、最終的に後見につくのが落としどころかと」

「まあね。結局、シュヴァリエが一番要にとって、そういう意味での居心地が良いと思うのよ」


 不穏な言葉が聞こえたので、思わずおののくと、予想だにしなかった提案が耳に入った。

 貴族の後見……。私の保護者は、あくまでもリオナさんとヒースさんだと思っていたから、リオナさんがあっさりと同意したのに、何だかもやもやしてしまう。


「闇を担う家門だし、付与調律師の先輩もいるし、金も権力もあるし、同類がいるし……いや、ほんっとズルい家になったわね……」

「我が家がこんなことになったのは不可抗力ですし、大体がユエルのせいですから。お間違えなく」

「あっ、私のせいにする!? シリウスったら酷いわ!」


 むっと唇を尖らせるユエルさんの頭に手をやって、なだめるようにぽんぽんと撫でるシリウスさん。表情は無表情に近いけれども、目線と手つきが甘やかで、お互いに対する信頼みたいなのが垣間見えてご夫婦なんだなあって実感してしまう。いいなあ……。

 っと、まあそれはともかくとして。


「あの、同類……とは?」


 リオナさんから、いささか聞き捨てならない単語が飛び出してきて、私はおずおずと口を挟んだ。

 同類。それは、ミクラジョーゾーのリュウさんも使っていた言葉だ。


「ああ、私も、『界渡人』なの。転生型の」


 私の問いに反応したユエルさんは、にこっと笑ってあっさりと爆弾発言を投下した。





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