45.元社畜たちはエアスケーターで遊ぶ
「≪盾≫だと物理防御に弱いので、いっそ一枚割られたら≪雷撃≫で反撃するように設定したら、真っ黒焦げになりました」
「何、無差別砲火してんのよ。範囲を考えなさい、このおバカ!」
周辺の草原を若干焼け野原気味にしてしまったら、ごすんと脳天にリオナさんのチョップが落ちた。
というわけで、何がしかの興味を引かれたらしいリオナさんに見守られながら、エアスケーターの最終調整を行っている真っ最中である。
引きこもりのリオナさんが、太陽の下にいるのも珍しい。
いや、こういうの、遊び心をくすぐられるよね、わかる。
魔力の暴発もなく、バランスを崩してウイリー走行することもなく、エアスケーターの試乗は問題なく安全に終わったので、後は肝心の防御部分である。
何せ、私には攻撃手段がない。
防御魔石だと、魔法に対する効果は強いものの、物理に少々弱いので不安が残るとヒースさんから指摘があった。
ヴェルガーの森の前に広がる平原では、そういった突進してくる系の魔獣がそこそこいるのだ。
そこで私は考えた。
攻撃できないなら、反撃すればよいのでは?
そう、ゲームでよくあるカウンター攻撃というやつである。
防御が割られるのをトリガーに、≪雷撃≫が発動するよう、改変を加えてみた。
雷を選んだのは、最悪痺れてくれさえすれば、窮地は脱せるからである。
とはいえ、さすがにぶっつけ本番で、ボア系などの明らかに突進力がヤバい魔獣に挑むのは命知らずすぎる。
なので、その辺にいたホーンラビットさんをヒースさんに煽っていただき、追突してもらった。
ホーンラビットさんを侮るなかれ。可愛い見た目とは裏腹に、尖った凶悪な角から繰り出される突撃で、舐め腐った初心冒険者を返り討ちにする猛者である。あとお肉が美味しい。
おかげで、思惑通り見事≪盾≫を程よく貫通してくれたわけなのだが……。
うん、火力が強すぎて、どかんと辺り一面に落ちた激しい稲妻に、ホーンラビットさんは見るも無残な真っ黒焦げになってしまった。ついでに、ヒースさんも被弾しかけて、冷や汗をかいた。
ヒースさんの≪風刃≫もエグいと思ったけど、私の≪雷撃≫もだいぶアレだな……。
口には出していないものの、ヒースさんのじとっとした目が絶対にそう言っている。いや、本当に巻き込み事故すみません。
とまあ、すったもんだありまして、冒頭のようにリオナさんから説教をくらったのであった。
ただ、手応えは上々。これで身の安全は概ね確保できたにせよ、周囲に無差別に≪雷撃≫をまき散らすのはさすがに危ないので、もうちょっと条件付けをしたほうがよさそうだね……。
「というか、これ目立つでしょ、普通に」
「さすがに街中まで乗り込むわけじゃないですし、街の手前で降りて徒歩れば大丈夫かなあって……。そのために、収納鞄作ってみたのですし!」
そうなのだ!折りたたみ仕様とはいえ、そこそこ大きいエアスケーターを持ち運ぶためには、どうしても収納鞄が必要になる。
なので、以前作った天属性の魔石に、≪空間拡張≫の魔法や≪吸収≫の魔法やらを付与して仕込み、布を合わせてチクチクと慣れない裁縫に勤しんで、自分用のショルダータイプの収納鞄を作ったのだ。ちょっと不格好なのはご愛敬ということで。
これで大量のポーションの納品もバッチリだし、市場の買い物も楽々になった。中身があるよう擬装もできて、ちゃんと荷物も入るよ。
盗まれると非常に困るので(天属性の魔石なんてヤベーもんを使ってるから……)、私にしか使えないよう魔力認証によるセキュリティ設定も施してある。
「うーん。念のため、迷彩というか、周りに溶け込ませるような魔法を仕込んだ方がいいと思うわ。じゃあ、これは課題ということで。あと! 雷の威力! ちゃんと考えなさい! 無差別砲火、危ないったら!」
「はーい、調べてみます。だけど、ヒースさんみたく、おかしな移動方法を駆使する人がいるんですから、これも案外溶け込めるのではと……」
「待て待て、俺だってあの手段は頻繁には使っていないぞ」
「たまには使っているってことじゃないですか。あっ、リオナさんも移動する時、エアスケーター使っていいですよ!」
私が嬉々としてお勧めすると、気まずげにそっとリオナさんの視線が外された。
「ああー……私、転移の魔法陣持ってるし……」
「う、裏切者!!!!」
「いや、だってアンタ、出かけたいとか全然言わなかったから……」
思わず絶叫した。うわー、そういうオチ!?
道理でリオナさんがこんな辺鄙なところに住んでても、問題なかったわけだ。
とはいえ、魔法陣による転移は、使用者が訪れたことのある場所にしか行けないみたいだし、魔力を大量に消費するし、結構な費用がかかるため、コスパがあんまりよろしくない模様。
単独転移ならともかく、複数人の転移はだいぶ大変なのだとか。
比較的近郊のクラリッサにしか行ったことのない私が使うには、だいぶ勿体無い感じだ。残念。
「でもまあ、いいじゃないこれ。魔力の消費重いけど楽しいわ。魔法塔辺りに見つかったら、研究材料にされるわねえ」
「遊び道具のつもりはなかったんですが……。まあ、どのみちクラリッサくらいにしか行きませんからね〜見つかりませんよ」
クラリッサまで辿り着けば、そこから各地に向かう馬車の定期便が出ているから、移動手段に問題はないのだ。
そのクラリッサまでが若干遠いってだけで……。
リオナさんは、さっきからエアスケーターを颯爽と乗りこなしている。ヒースさんみたく常日頃馬に乗っているわけじゃないのに、適応能力高いな。この人も何だかんだいいながら、魔力爆裂だよね。さすが魔女。
ヒースさんも風属性だし、かなり魔力の器が大きくなった上に回復が爆速なので、短時間ではあるもののエアスケーターに乗れる。
というわけで、さっきからみんなして交代しながら、きゃっきゃと遊んでいる。童心に帰ってる感じがして、とっても楽しい。
魔力量の枷はあるものの、私以外にもこの二人が乗れるなら、魔石周りの効率化とかを計れば、案外実用化もいけるんじゃないのかなあとか思ったり。
これだけ大人三人ではしゃいでいるのを鑑みると、普通に遊具として名物にしてもいけそうだよねこれ……。
——とかなんとかビジネス的なことを考えていたら、不意にキィン……という甲高い音が耳に響いた。
何だ何だ。
思わず顔を顰めて、私は周囲を見渡した。リオナさんとヒースさんには聞こえていないのか、突如不審な動きを見せた私をきょとんと見ている。
周辺の魔素が、徐々に歪みを帯びていく場所に目を向ける。私たちから少し先にある、何もない草むらの辺りだ。
魔力で地面に陣が描かれていき、それを起点にして、人が数人入れそうな大きさの円柱状の結界が張られた。
誰もいないのに、一体何が起きているのだ!
それは、あっという間の出来事だった。
私が瞬きをした次の瞬間、何もなかった結界内の空間に、突如人が二人中空へふわりと出現する。
黒髪眼鏡の、きちっとスーツを着こなした男性と、銀色の長い髪とデイドレスを靡かせた女性。
男女の二人組は、手慣れた足取りで地に降り立った。
それと同時に、結界はすっと解けた。
私は、思わず目を剥いてしまった。
「えっ……!? あ……転移魔法、とか……?」
「ああ、来たのね。不意打ち。思ったより早かったじゃない。しかも、大物が来たわねぇ。これは予想外」
「うげ……」
今まさに話題に上がっていた転移魔法が、実際にお目見えである。
三者三様の声が出た。
私は困惑。
リオナさんは、にやあと目を細めて楽しげに喉をくつくつ鳴らし。
意外にも、ヒースさんは心底嫌そうに唸って、そそくさと私たちの背後に移動し背を向けた。
「あ、の……彼らは一体誰なんです?」
「中央からの監査人員よ。ずっとカナメが不思議がっていたでしょ。アレが闇魔法の大家、シュヴァリエよ」
「えええええ!?」
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次回、とうとう名前だけはちょこちょこ出ていた人たちが出ます。
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