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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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43/130

43.元社畜と冒険者の魔法検証

※若干の流血表現があります。




 普段、一人では絶対に奥に立ち入るなと言われているヴェルガーの森の結界の先だが、ヒースさんと一緒なら問題ない。さくっと魔獣を倒してくれる。わーい、お肉ゲットだぜ。


 人の手が入っていない道なき道なので、ちょっとごつごつとして歩きづらい。見かねたヒースさんが、手を引いてサポートしてくれる。

 うう、お世話になります。子ども扱い再び……のはずなんだけど、私が木の根っこに躓くたびに、くすりと笑うヒースさんの表情が優しくて、やたら甘く見えるのは何でかな。さっき色気を浴びてしまったからだろうか……。


 そんなこんなどぎまぎしつつ、お昼ご飯を食べ終えた私たちは、えっちらおっちら森の奥の開けた場所までやって来た。


「さて、一度魔力の状態を視ますね」


 その場に立ってもらい、私はヒースさんの魔力を確認する。

 器からの漏れなし、魔素(マナ)の吸収はそこそこしているけど、上限にはまだ余裕ありって感じだ。回路(パス)を巡る魔力の流れもスムーズ。

 時間経過で再度穴が開いたということもなさそうだ。


「身体がおかしいとか、気になるところはありますか?」

「ない。むしろ、カナメのスープを食べたからか、さっきまでの気怠さがだいぶマシになったな」

「あっ、そういう効果あります!?」


 うっかりしてた。

 どういう影響が出るかわからないから、ポーション類を使うのは少し様子をみたほうがいいと、リオナさんからアドバイスがあったんだよね。魔法草を使っているので、魔力にも作用があるから。

 だけど、特に料理については触れられなかったな、そういえば。

 効果薄め、ドリンク剤的な私の付与料理なら、体調を整える程度には効いてくれるっぽい。

 うーん、今後≪調律(ヴォイシング)≫の後に、スープを飲んでもらうのは、ありなのかな?

 私の魔力を混ぜたり、弄ったりするので、魔力が一時的に荒れてしまい、負担かかってぐったりするんだよね。ヒースさんは体力あるし、魔力の回復が早いから、気怠い程度で済んだのだろうけど。


「じゃあ、いつも通り魔法を使ってみるよ」

「はい。モニタリングしておきます」


 一つ息を吸い込んだヒースさんが、何もない空間に向けて手を掲げる。


「――そよ風よ、軽やかに踊れ。≪舞風(ウィンドダンス)≫」


 込めた魔力によって威力の差はあれど、風を起こす初級魔法。普段であれば、まるで風の精霊が踊るみたいに、柔らかな風が吹くはずだったのだが。


 ——それは、あたかも暴風のようだった。

 ごうっと強い音が、耳をつんざいた。荒々しい突風に煽られ、周囲の木々ががたがたと梢を鳴らし、落ちた葉を巻き上げていく。


「うおっ!?」


 ヒースさんも、思いもよらぬ反動をくらって、たたらを踏んだ。

 すぐに魔法の効果は切れ、森の中は何事もなかったかのように静寂を取り戻す。

 ただ、地面の上には、蹂躙の痕の如く、舞い散った葉がひらひらと積み重なっていった。


「…………」

「…………」


 唖然として、思わず無言のままヒースさんと顔を見合わせる。


「……びっくりした。大丈夫だったか? カナメ」

「私はヒースさんの影にいましたから。てか……凄い。これが、本来のヒースさんの魔法威力なんですね」

「ここまで変わるとは……。微調整の感覚が慣れないな……」

「今までは、詰まりのせいで自動的に魔力放出量が少なくなっていたので、今まで通りの感覚で行使すると、逆に流れがスムーズになりすぎて、過剰になっちゃうのかも」

「もっと魔力を絞らないとってことか……」


 ふむと頷いたヒースさんは、身体と剣も交えて、魔法を連打する。

 私は、それを静かに見守った。

 あっ、見たことない初級攻撃魔法だ。かっこいい。てか、風の槍が、あっさりと木を薙ぎ倒しちゃったよ……。

 凄いな。連続でこれだけ魔法を発動できているなんて。しかも、魔力が少なかったとは思えないほど、堂に入った行使だ。


「うーん、まだ出力過剰だな……」

「ただ、魔力が漏れる様子もないし、回路も正常に動いていますね。いきなり溢れたり、暴走したりという感じもなさそうかな……?」

「まあ、初級魔法しか使っていないからね。中級以上の魔法は、魔力的に使えなかったから」


 どうもしっくりこないのか、ヒースさんは首を傾げている。きっちり魔力の量を絞っているように見えたが、なかなか程よく制御というわけにもいかないらしい。

 この辺の感覚は、もうひたすら使って埋めていくしかないのだろう。


 それにしても、漏れなくなったせいもあるのか、ヒースさんの回復早いなあ。≪舞風≫一回分くらいの魔力なら、さくっと取り戻せている。

 だから、今思うと、魔力が少ないという割に、魔法をあれだけ連発できていたのだろう。例の風魔法脳筋人力ジェットコースターの時の話ね。


「——。 カナメ、後ろに下がって」


 すると、不意に、ヒースさんがすっと剣を構え、腰を落とした。辺りにぴりっとした緊張感が走る。そのまま、一点を険しい表情で、じっと見据える。

 やがて、木々の先からクレストヴォーグという狼の魔物の上位種が、数匹姿を現した。先ほどまで繰り返していたヒースさんの魔法の音に引かれて、やってきたのだろう。

 ぐるるると唸りを上げて、威嚇する狼たちは獰猛だ。鋭い牙や爪で、私などたちどころにやられてしまうだろう。


 でも、ヒースさんが慌てた様子がないので、私も冷静でいられた。

 私の位置からわずかに覗くヒースさんの口角が、ふっと上がる。余裕のある笑みだ。


「カナメ。そこから絶対に動かないでくれ。ちょうどいい、中級魔法の試し打ちといこうか」

「はい」

「風よ、鋭き刃となりて、目の前の敵を屠らん——≪風刃(ウィンドカッター)≫」


 牙を剥いたクレストヴォーグが、一斉に地を蹴る。

 ぶわりと、風が大きく動いた。ヒースさんの亜麻色の髪を巻き上げる。

 魔法の発動と共に、獣たちの四肢は、鋭利な風の刃で一瞬にしてずたずたに引き裂かれた。あっという間の出来事だった。地面が、すっかり肉塊と血に染まっている。

 ヒースさんが手にした剣の出番は、一切なかった。

 うわぁ……えっぐい……。殲滅力が、中級魔法っていうレベルじゃないと思う……。


「まだまだ余力があるな。戦闘が楽になる」


 血の海から小さな魔石をいくつか拾い上げた後、ヒースさんは手慣れた様子で、収納袋から取り出した火の魔法陣を起動させた。クレストヴォーグの遺骸を燃やして、処分する。あれだけズタズタだと、素材にもならないからね。

 血や死臭は、≪清浄(クリーン)≫にて辺り一面綺麗にした。

 死体を放ったままにしておくと、他の強力な魔獣が、血の匂いに惹かれてやってきてしまうのだそうだ。


 この後も定期的に経過観察は必要だろうけれども、ある程度魔法の見極めと成果が出たので、私とヒースさんはさっさと引き上げることにした。

 これ以上、面倒な魔獣に襲われたら、たまったもんじゃないしね。






 こうして、魔女の家に無事戻ってきた私たちは、お茶を淹れて一息つく。


「あまりにも急に俺の魔法能力が上がると、何かあったのかと話題になって、いずれカナメに繋がってしまいそうなんだが……。これは、もはや隠せそうもないな」


 ヒースさんは、魔力量が多くないながらも、圧倒的な剣技との組み合わせでランクを上げてきた手練れとして、そこそこ名をはせている。

 たとえ、メインで利用している≪舞風≫の威力を調整し一時しのぎしたとして、身の危険が迫った時に、とっさに細やかな配慮ができるかといわれたらノーだ。

 いつだって死と隣り合わせの冒険者。強敵が出たら、ピンチに陥ったら、使えなかったはずの上位魔法の利用だってためらわないだろうし、私としてもためらってほしくなかった。


「どの道、そろそろ潮時かなとは思っていたのよね」


 ヒースさんからの報告を受けて、リオナさんはふうっとため息をついた。

 潮時という不穏な言葉に、私は顔を青くするが、リオナさんは安心させるようににこっと微笑んだ。


「いい加減、中央に連絡をしましょうか」





のんびり更新で申し訳ないですが、誤字報告やブクマ、評価、閲覧いつもありがとうございます〜!励みになってます。

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