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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
調律

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42/130

42.元社畜とミートボールのスープパスタ



「……それでこれ?」

「それでこれです……あいたっ!」


 テーブルに広がった昼食、本日のメニュー、サラダ、ミートボールのスープパスタ、きのことじゃがベーのチーズ焼き。デザートもあるよ!

 我ながらこの短時間でよく作ったと自画自賛しつつ、えへんと胸を張ってみたら、呆れ顔をしたリオナさんから、チョップを食らった。




* * *




 みじん切りして炒めた玉ねぎと、オークとグレートオックスの合い挽き肉、古くなったパンをすりおろして作ったパン粉に塩コショウして、みんな大好きハンバーグのたねが出来上がり!

 それを、小さめにコロコロして丸くまとめ、ミートボールを量産しておく。


 下準備しておいたニンニク、玉ねぎ、キャベツを鍋で炒めると、美味しい匂いが立ち上る。うーん、ニンニクは食欲をそそるよね。

 そこに、ざく切りしておいたトマトを潰しながら加えて、作り置きしてあるガラスープとブイヨンを味見しつつ混ぜ合わせる。

 今日はスープパスタなので、水分を少なくちょっと濃厚目に。トマトスープを作るのも、すっかりお手の物だ。ふふふ〜ん♪

 ヒースさんが美味しいって笑って、たくさん頬ばってくれると嬉しいな。

 鍋の中に、作った肉だねを落としていって、火を入れる。

 あくを取るのって面倒だけど、丁寧に取っておけば、ぐんと美味しくなるのだ。


 煮込んでいる間に、パスタをちょっと短めに茹でる。

 乾燥パスタがあれば欲しいですって、ダメ元でリオナさんにお願いしてみたら、仕入れてきてくれた。生麺ならまだしも、乾麺もあるんだ……。でも、どこから買ってくるんだろう。

 ちなみに、お米は手に入らなかった。ミクラジョーゾーさん、頑張ってくれないかな。


 この間に、スキレットで炒めておいたベーコンとじゃがいもときのこに、たっぷりチーズをかけて、オーブンへイン。

 タイミングよく茹で上がったパスタは、そのままスープに投入して少し煮込み、味が馴染めば出来上がりだ。


 麺をお皿に盛りつけて、ミートボールを積んでいく。

 ヒースさんのは、ミートボールを多めにしてあげたら、タワーみたいになっちゃってちょっと笑ってしまう。お祝いっぽくていいね。

 更にその上に、お湯の中でしばらく放置しておいた卵を、生卵の要領で割る。

 ——そう、温泉卵である。

 とってもワクワクする見た目になった。ミートボールにスープパスタに温玉なんて、欲張りセットみたいなものだ(個人的に)。子ども用みたいなメニューだけど、童心に返るというかさ。


「手伝うよ」

「じゃあサラダお願いします」

「承知した。今日も凄くいい匂いだ」


 そろそろ完成だと察したヒースさんが、手伝いを申し出てくれたので、サラダとカトラリーの準備をお願いした。

 冷蔵箱で冷やしておいたサラダを取り出し、ドレッシングをかけて、ヒースさんは手際よくテーブルに並べていく。

 私がオーブンでのきのこじゃがベーの焼き加減を見ている間に、パスタも持って行ってもらう。


「あ、このいっぱいミートボール積んであるのが、ヒースさんの分です」

「こんなにたくさん……!!」


 ヒースさんの目が、めっちゃくちゃキラキラ輝いていた。やったね!男子ってお肉大好きだよね。まあ、私も好きだけど。

 きのこじゃがベーも、バッチリ焼き上がっていた。チーズのほんのりお焦げが、また美味しいんだよね。

 スキレットごとダイニングに運ぶと、昼食を察したリオナさんが、ちょうど階段から降りてきた。


「……ん? やけに昼食、気合入ってない?」


 そうして、食卓に並んだいつもよりちょっとだけボリュームあるご飯に手をつけつつ、ヒースさんに≪調律(ヴォイシング)≫を行うまでの流れを説明したところ、冒頭に戻るのであった。


「まったく。ヒースの魔力が、そんな大変なことになっていたのはともかくとして、目覚めたばかりのスキルを、私に相談もなく使うのはいただけないわね。まあ、≪調律≫のスキルを一番わかっているのは、要なんだけれど」

「すみません……。"いける"って思っちゃって」


 スキルは身に宿ったとともに、使い方も肌身で理解する。私がリオナさんの真似っこをしただけで、すぐ≪鑑定(アナライズ)≫が使えたみたいに。

 だから、スキルを持っている人が、一番己のスキルについて知覚できている。レアスキルならなおさら。

 技術を突き詰めていくには、当然習練が必要だけどね。

 とはいえ、リオナさんの心配ももっともなので、私は素直に謝った。


「てか、こんなに早く≪調律≫が使えるようになるなんてね。……って、カナメ、まさかまた隠れて何やらしてないでしょうね?」

「してない、してないです、誤解です!」


 私は、首を振って、慌てて否定する。

 前科があるので、リオナさんはじとりと胡乱な目で見つめてくるけど、本当に偶然なんです。

 大丈夫、寝てるし、ホワイト勤務だし、体調もすこぶる良好!


「ヒースは? 違和感とか、おかしいところはないの?」

「ああ、おかげさまで。魔女殿、あまりカナメを叱らないでやってくれ。俺がやってくれと頼んだんだ」

「……なんにせよ、大事に至っていないようでよかったわ」

「ご飯を食べたら、森で魔法の威力を確認したり、魔力の流れを追ったりして、異常がないか経過観察をしてきます」

「そうね。それがいいわ。ま、お説教はこのくらいにするとして」


 リオナさんが食べる手を止め、腰を浮かせた。


葡萄酒(ワイン)欲しいわ。この昼食に酒を合わせないなんて、冒涜」

「わかる」

「ヒースも飲む?」

「この後があるから、少しだけいただこう。確かに、酒が進みそうだ」

「昼間から酒宴……」

「えー、だってお祝いなんでしょう。めでたいんだから酒よ、酒。ヒース、快癒おめでとう」

「棒読みが過ぎる。かこつけすぎじゃないですか……」


 ヒースさんは苦笑している。

 因みに、さっきからずっと話をしているけれども、この間、我々の食べる手は一切止まっていなかった。

 真剣な顔して、モリモリパスタや副菜を頬ばっている図、なかなかにシュールである。


「このチーズ焼き、酒のつまみに絶対に欲しい一品ねえ……。定番にラインナップしてほしいくらい」

「はいはい、了解です。簡単に作れますからいいですよ。材料を色々変えられますし、飽きもきにくくて良いですよね」

「はぁ、濃厚なトマトスープに絡んだパスタはもちもちだし、何よりミートボールが旨い。パスタとミートボールを一緒に食べると、更に幸せが倍。そこに黄身を割った温泉卵を絡めると、まろやかさが広がって、口の中にハーモニーをもたらしている。こんな何度でも楽しめる味わい、豪勢が過ぎるのでは? 」

「食レポみたいなこと言っている……」


 だんだん力説するヒースさんの表現力が上がってきていて、面白いんだけど……。私は、ふはっと吹き出してしまった。

 リオナさんがいそいそと持ってきたグラスに、葡萄酒(ワイン)を注いで、二人は乾杯している。


「"しょくれぽ"が何なのかはわからないが、本当カナメが来て以来、俺の舌が贅沢になって困る。もう遠征に行きたくない。貧相な飯は嫌だ……」

「幸せな悩みねぇ」

「大げさだあ」

「それが、大げさじゃないんだよ。カナメも一度、携帯食がどれだけ味気ないかを味わってみれば……」


 大好きな人たちと一緒の、笑いのある明るい食卓。私が欲しかったもの。

 作ったものを、美味しい美味しいといっぱい頬張ってもらえて、幸せな悩みだなんて言ってもらえたら、それはもう作った者冥利に尽きるというものだ。




 さて。お祝いと言ったら、やっぱりケーキでしょう。異論は認める。

 といっても、急にケーキは作れない。当たり前ですね。

 あと私にケーキを作る能力が、残念ながらなかった……無念!

 ケーキって本格的に作ろうとすると、難しいし手間がかかるので、時短をこよなく愛する社畜が手作りするには、最初から縁遠い代物だ。

 でも、ヒースさんの喜ぶ顔は見たいわけで。甘いもの好きだしね。


 というわけで、できるものでどうにかする。

 元々、今日のお昼は、水切りヨーグルトを使って、フルーツサンドでも作ろうかなーとか思って準備していたんだよね。タイミングがよかった。

 水切りヨーグルトなかったら、私の手腕じゃ、あとはもう蒸しパンとかクレープをどうにかアレンジするくらいしか思いつかなかったよ……。

 フルーツサンドも見栄えがいいから、お祝いって感じはするけど、ケーキっぽいほうがより良い気がして方針転換。

 こっちの世界に、ケーキでお祝いっていう風習があるのかどうかはわからないけど……転生者がちらほらいるなら、どこかしらやっているでしょう。


 作り方は至って簡単。

 作り置きのプレーンクッキーを砕いて、溶かしたバターを加え合わせ、ココット皿の底に敷き台座にする。

 水切りヨーグルトとレモン汁、はちみつを混ぜ混ぜ。

 それをカップに三等分し、飾りのブルーベリージャムをたっぷり載せ、冷蔵箱で冷やす。

 たったこれだけで出来上がり。ゼラチンもいらないし(そもそもゼラチンがないんだけど!)、混ぜるだけで簡単にレアチーズケーキもどきができる、お手軽デザートなのである。


 冷蔵箱からサラダを取り出したときに見つけてしまったヒースさんが、ずっとソワソワしていて、いざ提供したら盛大に喜んだのは言うまでもない。

 やー、よかったよかった。



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