04.社畜の属性は闇らしい
「さて、じゃあ右手を借りるわね。身体に影響が出るものじゃないから安心して」
「は、はい……」
そうはいうものの、初めてこの身に受ける儀式?である。ドキドキワクワクしないわけがない。私の心臓は、急激に鼓動を速くする。
「じゃあ、行くわよ。――≪鑑定≫」
リオナさんが詠唱すると同時に、ほわんと私の胸元が淡い光を放つ。やがて、その光は、一枚のディスプレイのような形に変貌した。おお、凄い、異世界っぽい!
そこには、いくらかの情報が書かれていたので、私は目を通す。
カナメ・イチノミヤ【一宮要】 24歳 女
種族 :人間【界渡人】
属性 :闇
クラス:付与調律師
魔法適正:付与(全属性・時のみ劣化)
スキル:調律、鑑定、精神耐性、言語翻訳、料理
称号 :社畜、闇の女神の愛し子
ふむ、さっぱりわからん。
いわゆるRPGのステータスみたいに、もっと数値化されているのかと思いきや、よくあるレベルやHPやMPといった項目は、この世界にないらしい。
まず真っ先に目に入った称号社畜は、うるさいやいと反論できないところだ。料理なんて、最近仕事にかまけてあんまり自炊できてなかったから、すっかり錆付いている気もするのに、何故備わっているのだろう。
属性は闇だし、使える魔法も何となく地味っぽい。闇の女神の愛し子とか、ちょっと中二っぽくないか。闇っていいイメージがないから、どうにも悪の称号に見える。
極め付けは、調律師なのに、肝心の《調律》スキルがグレーアウトしている。使えないんかー!
そんな風にツッコミを入れつつのほほんと眺めていたら、リオナさんもヒースさんもどっちも目を剥いていてびっくりした。
「付与調律師……? 闇属性のハイレアクラスだったか? シュヴァリエ侯爵家に即報告案件では?」
「全属性持ち……。しかも、ヒースの目撃情報を鑑みるに、闇の女神案件か……。いや、でも、付与魔法でよかったと言うべき……?」
二人とも額を押さえながら、項垂れてぶつぶつと呻いている。
え、え、もしかして、私ってば相当チートだったりするのかな?
「ええと、なんかマズかったです? 闇ってやっぱりヤバいんです!?」
「マズいというか、国に囲われてもおかしくないレベルのステータスよ、これ。魔力潤沢っぽいなあとは思っていたけど」
「ええええ、そうなんですか!? もしかして、魔王的な何かだったりとか!?」
食い気味に聞いたら、リオナさんはちょっと引いた顔でじとりと半眼にした。
「アンタみたいに人畜無害そうなのが魔王って何よ。確かに魔王みたいなのは、いるにはいるけど……」
「だが、闇の女神ノクリス様の愛し子で、闇の加護があるから、カナメに迂闊なことをすると天罰が下るかもしれないな。これは、カナメなどと軽々しく呼び捨てにできませんね、カナメ様」
「こっわ……。あと態度変えるのやめてください泣いちゃう……。やっぱり魔王っぽいじゃないですか!」
「あはは、すまない、冗談だ。こんなに可愛い魔王がいるわけないさ」
「あと、闇といっても、別に不遇な属性じゃないからね? 安らぎと魔力を司る補助系の属性よ」
「さて、どうしたものか、魔女殿」
「そうねぇ……」
さらりと口説かれて、さらりと流されたような。こっちはイケメンの免疫ないんだから、切実に揶揄う真似はやめて欲しい。
二人は膝を突き合わせて、真面目に今後の方針を話し合い始めた。
「まず、要、貴女の移転は、恐らく闇の女神によるものね。加護つきだし、貴女、何でか相当気に入られているみたいよ」
「そんな怪しげな神様と交流をした覚えは、とんとないんですけど!?」
「神とは、我々常人には思いもよらぬことを、平然とされるからな……」
ヒースさんがしみじみ呟く。何か過去にあったのかな……。
本当に神様とどうこうした記憶、ないんだけど。しかもこっちの世界の神様でしょ?
それこそ思い当たることなんて、移転に当たって2度ほど聞いた女性と思しき幻聴くらいで……。
あー、もしかして、あれが闇の女神ノクリス様とやらだったのだろうか。
それにしたって、気に入られる道理がさっぱりわからない。
「要を拾ったことは、いずれ国にもきちんとあげなくてはならないわ。ただ、ガチの女神案件なんつーレアものだと考えると、要がこの世界に慣れて生活基盤を築くまで、当面騒がしくなるのはやっぱり避けたいし、今すぐとはいかないわよねぇ?」
「そうだな。中央からの派遣要員がくるまでの時間は、ある程度稼ぎたいところではある。なぁに、カナメが『界渡人』だと発覚するまでに、少々時間がかかってしまっただけだ」
「大体、シュヴァリエには、頼れるけど面倒なのがいるからね……」
にやりと、ヒースさんが意地悪く口角を上げる。それにリオナさんも眼鏡をきらめかせ目を細めて、満足げに応じる。美男美女、悪だくみでも凄く絵になる。
私は二人の応酬をぼんやりと聞きながら、お茶を飲んでいるだけである。目の保養、目の保養。
「魔法の素質があるようだし、予定通り私が手ほどきしましょう。あと、どうせなら、薬の知識も授けたいわ。というわけで要、しばらく貴女はここに住んでもらうわよ。闇の女神が墜としてきた場所なんだから、辺鄙だとか文句言わないでよね」
「はいっ、ありがとうございます。お世話になります」
「概ねを魔女殿に任せてしまうことになって心苦しくもあるが、俺もできることはするよ。冒険者ならではの、世界のあれこれを教えたりできると思う。そこそこ稼いでいるし、生活の心配はしなくていい。頻繁に顔を見に来るよ」
「ヒースさんも、ありがとうございます。あのっ、お金はいずれ絶対にお返ししますので……!」
「出世払いを期待しておく」
二人とも神か。拝みたいくらいの好待遇に、後光が差して見える。
異世界転移なんて与太話、正直わけわかんなくて不安混じりではあったものの、とにかくどうにかなりそうだという光明が見えただけでも、精神の安定に繋がる。
「とりあえずは、こんなところかな。後は臨機応変においおい。わからないことがあれば、いつでも聞いてくれ、カナメ」
「わからないことだらけで、もう頭がパンクしています!」
「あはは。それよりも、俺としては、怠惰の魔女殿の生活がどんなものかのほうが、すこぶる不安でもあるんだが……」
「怠惰って言うな、うっさいわね。一人暮らしじゃなくなったんだし、どうにかするわよ。要もまだ魔力慣れして間もないのだから、きっちり休みなさいよね」
当惑混じりのヒースさんの声に、リオナさんは苦虫を噛み潰したような顔で、唇を尖らせる。
早速わからない言葉が出てきたぞ!
「ええと、魔力慣れとは?」
「ああ、貴女、元々魔力のない世界にいたでしょう? 身体がこの世界と魔力に順応するために、眠りを欲するのよ。3日寝ていたって言ったでしょ? 普通そこまで時間がかかるとか、ありえないのだけど。貴女、ヒースに担ぎ込まれたとき、随分と顔色悪かったし、目のクマも酷かったし、やつれてたし、相当界渡りの影響があったと見受けるわ」
「あ、あははは……おかげさまでだいぶすっきりしました」
連勤社畜生活をしていたせいで、食生活を疎かにしてた上に、睡眠時間が短かっただけです。
ーーとは正直に言えないなあと、私は曖昧に笑って誤魔化すほかなかった。
ブクマありがとうございます!頑張ります(´∀`*)
本日は2話更新予定です。まずはひとつめ!
追記:ファイル管理を誤ってしまっていたらしく、いつの間にか調律のスキルが使えないという記述が抜け落ちていました。すみません。まだ使えないです。