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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
クラリッサの街の冒険者ギルド

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31.元社畜によるサプライズ・本番



「ヒースさん、今更!って感じですが、これ、受け取ってください」

「うん?」


 無事魔獣を討伐し、戻ってきたヒースさんと夕飯を取ってから、少し時間をもらって招いた宿の部屋で、私はずずいと包みを差し出した。善は急げである。


「今までずっとお世話になっていたので、心ばかりのお礼です」

「そんなの気にしなくていいといっているのに……君は律儀だな。でも、ありがとう。一体何だろう。開けてもいいかな?」

「はい」


 予想外だったのだろう。

 ぱちくりと目を瞬かせたヒースさんは、苦笑を見せながらも、丁寧に包みを開けてくれる。


「魔石の……ペンダント? いや、これは……」


 ころりと掌に転がったペンダントのチェーンを摘んで、ヒースさんは光に掲げわずかに目を眇めた。

 ランプの光を受けて、ペンダントヘッドに使った魔石が、輝きを放つ。


「……また表に出しづらい凄いの作った? もしかして」

「あははは……本当にすみません……」

「込められた魔法は、初級の≪(シールド)≫と……≪回復(ヒール)≫か?にしては、量が……」

「ええ、時と天魔法を除いた全部を、オートで発動するように付与しました。発動のための魔力は、周辺の魔素から自動的に取り込むようにして、負担少なくしています。ええっと、ちゃんとグランツさんに太鼓判押してもらってます、よ?」

「あの人は……人が討伐に出ている間に勝手に何を……」


 言葉を紡ぐたびに、ヒースさんの眉間のしわが増えていく。

 角度によって魔石がわずかに異なる色を帯びるのは、内包されている魔法の多さの影響だと思われる。いや、今まで複数属性を入れ込んだとて、こんなことにはならなかったのだけれども。

 ベースはヒースさんの風属性を元にしているので、一見エメラルドのよう。もらったクズ魔石の中でも、親指の爪先くらいの大きいものを選んだので、拡張性が高く魔力は豊富に収めてある。

 魔石に乗っている魔法を感知したヒースさんが、ううむと喉を鳴らし額に手を当てた。


「実は……」


 私は、ヒースさん不在の間に起きた経緯を語った。




* * *




 魔石に付与する魔法の構想はあったものの、いざ初めてみたら一部どうにもうまくいかず、早速頓挫してしまった。

 困った私は、何種類かの属性を付与した魔石を作り、納品を口実に再度ギルドへと訪れることにした。

 今までの私だったら、きっと一人で悪戦苦闘して、図書館とかで魔法書を借りて、わからないながらに時間をかけてどうにかしていたと思う。

 だけど、ヒースさんに言われた一言が、私に勇気をくれた。君は一人じゃない、と。誰かを頼っていいのだと、教えてくれた。

 まだ、魔法に関して、私はお尻に殻をつけたままのひよこ、初心者なのだし。


 外で軽く昼食を取った後、再びギルドに足を向けると、ゼルさんが窓口に座っていた。

 まだ冒険者はまばらで、比較的空いている。夕方になれば、報告に訪れた冒険者で賑わうだろう。

 私は、これ幸いと声をかける。


「こんにちは〜」

「あれ、カナメさん。また何かお困りですか?」


 ゼルさんは嫌な顔一つせず、にこりと笑ってくれたから、私はほっと胸を撫でおろした。


「そうなんです。あと、例のものの納品を……」

「はいっ!? 早すぎでは!? 私もせかしたつもりはなかったのですが……」


 申し訳なさそうに眉根を下げるゼルさんに、私は両手をぶんぶんと振った。


「いえいえ、こういうの作るの楽しいし好きですし、ほとんど趣味なので問題ないんですけど」

「趣味の領域越えてますけどねぇ……」


 ひそひそと声を交わすと、ゼルさんは窓口から立ち上がって、私を二階に促してくれた。

 昨日の会議室で待っていると、ゼルさんと共にグランツさんが顔を出してくれる。


「よ! 早速第二弾の納品たぁ、嬢ちゃんは仕事が早いなあ」

「はい。指定がなかったので、適当な属性で魔力付与と拡張をしておきました」

「助かる助かる。マナポーションだと腹がタプタプになっちまうが、魔石からだと魔力回復が楽なんだわ」


 私が取り出した魔石に、グランツさんが、ホクホクと顔をほころばせた。

 なるほど。お高いのに各種属性魔石に人気があるのは、そういう理由もあるのか。確かに重く嵩張る瓶を運ぶよりも、圧倒的に持ち運びしやすいしね。

 機動力が大事な冒険者にとって、荷物の大きさ、重さと収納限界は重要になる。だから、なりたての冒険者は、まず収納鞄(アイテムボックス)の購入を目標とするらしい。


「で、これは手土産のつもりで。実は本題がありまして……」

「手土産なんて遠慮、するんじゃねぇよ。協力できることならするぜ? 嬢ちゃんの話は、商売のタネにもなりそうだしな」

「そうですよ。先ほども言いましたが、こちらも貴女に期待しているんですから」


 うう、グランツさんもゼルさんも頼もしい。

 私は、先ほどゼルさんにも話したヒースさんにお守りのペンダントを作りたい旨を、改めてグランツさんにも伝えた。


「だけど、私まだ起動させた魔法を止める方法とか、自動起動とかの方法が全然わからなくて……」


 何せ、私の付与魔法(エンチャント)は、起動させたら魔力が切れるまで垂れ流しだからね!

 停止とか自動起動の魔法イズ何って感じですよ。

 そもそも属性も何に該当するのかすら、さっぱりわからない。一般的に時なのか?とも思うが、時魔法はおいそれと使えないのだ。

 心底困惑する私に、グランツさんは盛大に噴き出した。


「ふはははははっ。あんだけ凄い付与魔法を簡単にこなすくせに、そこはできねぇのか!」

「ぐぬぬ……。教えてもらう前に、無理しすぎてぶっ倒れて、リオナさんに追い出されたというか……」

「ああ……その結果があの大量の魔石ってことですか……」

「それで、ここに来ても仕事してんだから、そりゃあ魔女殿もお冠になるわけだ」

「仕事じゃないです、趣味です、趣味ですから! 無茶はしてません!」

「これは、ヒース君と魔女様が心配されるのも、無理はないですねぇ」

「ううう、すみません……」

「何故謝る? どえらい能力を持つ『界渡人(わたりびと)』といえども、ただ一人の人なんだとわかって、逆に親近感がわいたさ」


 グランツさんとゼルさんが、微笑ましい顔で見てくるのがいささか気恥ずかしかったけれども、何となく胸が暖かくなる。


 その後、ゼルさんが私の躓きに対して、丁寧に指導をしてくれる。

 なんと、自動起動は、魔法を紡ぐ際に、条件を込めればいいのだそうだ。時魔法とか使わないとダメなのでは?とか難しく考えすぎていた。

 言われてみれば、加湿魔石を作ったときに、温度は何度くらいと無意識に付与していたなあ……。なるほど、想像力がものをいうとはこれいかに。

 魔法の停止も同様。

 ただ、今回は発動をわざわざ停止させる必要がないから、無問題。

 私の疑問は、ものの半刻程度で、あっという間に解決してしまった。

 うんうん唸って考えを巡らせていた、宿での私の時間とは一体。拍子抜けである。


 そこから、三人寄ればなんとやら。私は戦闘の素人だからと二人を頼り、好奇心からの悪ノリが始まった。

 果たして、どこまで魔法防御を埋め込めるのか?から始まり、どういった条件で発動させるのが良いのか、究極、物理は回復魔法があればどうにかなるまで話は飛躍した。

 そうして最終的に、ヒースさんに差し上げた、一回こっきり、使い捨ての防御魔道具(?)が爆誕したのである。


 魔法自体はポピュラーに、攻撃を防ぐ≪盾≫と、傷を癒す≪回復≫の二段構え。

 ≪盾≫は、属性毎に相性の良し悪しにも左右されるので、とにかく全部詰め込みつつ、身体へかかる衝撃の大きさを割り出し瞬時に発動する。

 ≪常時感知(パッシブ)≫は、周辺の魔素を吸収して魔力を補い、メインとなる魔法の起動を妨げないように設定してある。

 ただ、魔法攻撃は7種の≪盾≫のどこかでしのげるが、物理攻撃には少々脆いため、そこを補うべく≪回復≫もつけた。

 とにかく、致命傷を避けることに特化している。さすがに首を切られるレベルだと難しいけど。


 正直、お守りなんて域は越えているとはゼルさんの言だが、あくまでもお守りを貫き通したい。過剰というならいうがいい、命には代えられないのだ。


「しっかし、これは想像以上に使えるぞ。ここまで大掛かりなのはさすがに無理だが、1、2属性、最悪回復だけでも持ってりゃ、緊急時のお守りとして十分有効だ」

「ええ。元はクズ魔石ですからコストも落とせるでしょうし、不用意に命を落とす初心者が減ります」


 こういうお手軽なの、意外にありそうでなかったらしい。

 魔法陣による自動発動は、魔石と違って魔力の融通が行えないため使えない。

 最近出てきた土魔法による魔石刻印技術だと、そもそもコストも時間もかかりすぎる。

 その点を魔石付与は、すべてクリアしているのだ。

 利用する魔法はたった4つ。増幅(ブースト)感知(パッシブ)吸収(ドレイン)、メインとなる盾ないしは回復である。すべて初級魔法で構成されており、付与を使えるのならばお手軽に作成できる。


「……おい、カナメ、魔石の納品だけではなく、この技術をギルドに売って欲しい」

「ひえっ!? ちょ、ちょっと待ってください、ヒースさんと! 相談させて!!」


 人の命が救えるならば、もちろん提供はやぶさかではないのだけれども。

 そこから流れるままに商談に持っていかれそうになったのは、まあ、うん、想定外すぎたわけで。




* * *




「いざというときに頼もしい限りだが、素直にえげつないな……」

「サプライズっていって、ヒースさんをびっくりさせたかっただけなんですけど……。まあ、お守り替わりということで。見せびらかすものじゃないから、大丈夫かなあって……」

「はは……随分強力な加護のあるお守りだ。色々な意味でびっくりしたはしたけど、カナメの想いが伝わってきて嬉しいよ。ありがとう。早速明日から身に着けるよ」

「発動しなければ、しないにこしたことはありませんからね」


 手練れのヒースさんには、正直必要のないものかもしれないけれども、それでも万が一がないとも言い切れない。

 冒険者とは、命をかける可能性のある職業だ。心配はつきない。

 組み込んだ魔法は、ほぼ初級だから大丈夫だろうと気軽な気持ちで作ってみたら、予想以上にキラキラしく出来上がってしまったのは想定外だったが……。いや、ほんっとう、申し訳ない……。


「そんなわけで、ヒースさん、明日ギルドに一緒に来てください……」

「あはははは。やはりカナメは規格外だなあ。二人で魔女殿に怒られよっか」

「うわあああああ、仕事の、仕事のつもりはなかったんですよぉ!!」


 ですよねー。

 わっとテーブルに私は突っ伏す。

 やっぱり、リオナさんに怒られちゃうよねえ。

 でも、無理はしていないんだ。毎日ぐっすり寝てるし、家事は一切していないし、きっちり3食、栄養たっぷりの食事をとっているし、あちこち出歩いてリフレッシュし、きっちりお休みを満喫している。


 ……はずなんだけど、どうしてこうなった。


 深々と頭を下げる私の頭頂部に、ヒースさんの大きな掌が、ぽんぽんとなだめるように当たった。

 重ね重ね、ほんっとうに申し訳ない……。




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