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元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
クラリッサの街の冒険者ギルド

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23.元社畜と魔石付与



 さて、改めて魔石の話をしよう。


 魔石とは、魔物の心臓たる核であり、魔力の凝縮されたエネルギーの塊である。

 7つの属性の色と無色透明、虹色をしたそれらは、魔物や魔獣を倒すことでドロップする。

 そして、それぞれ魔石が持つ属性の魔力でキックすることで、内包された魔力を利用できる。


 様々に回路を組み込める魔法陣とは異なり、今までの魔石は、そうやって個々人が持つ魔力の代替エネルギーとして利用するしかなかったらしい。魔道具しかり、マナ・ポーション代わりの魔力回復しかり。

 故に、弱く未熟な個体からドロップしやすいが、小さく容量も多くなく、元々使い勝手やコスパの良い無属性魔法にわざわざ魔石を使う必要なんてなく、無属性魔石は使い道のないクズ石扱いされていたのだ。


「魔石って、容量の拡張までできるんだな……」

「そもそも、付与魔法も、適性の問題でどちらかといえば取得できる人がそうそう多くないですし……盲点だらけですね」

「直接的に魔法が使えないカナメならではの発想だな……」

「話には聞いていたが、実際目の当たりにするとヤベぇな、『界渡人(わたりびと)』……」

「てか、この尋常じゃない魔石の数……。魔女殿が怒るわけだ」


 三人とも、額に手を当てて唸っている。

 私が問題児みたいで、ちょっと理不尽な気がするぞ。

 付与魔法(エンチャント)は、前提として属性に闇を持たないと得られない分野である。

 闇魔法の一部ではあるものの、やはり武器や自己への補助・強化的な使い方が圧倒的すぎて、魔石にどうこうしようという思考が一般的になかったらしい。

 まあ、魔石にわざわざ魔力だの魔法だのを埋め込んで使うのは、普通に考えて迂遠だし、ぶっちゃけ魔法を放った方が手っ取り早い。

 それができるのであれば。


「私の考えとしては、魔石に魔法陣刻めるなら、魔法付与だってできるじゃんってところなんですが」

「いや、あれもシュヴァリエ家とオルクス家がタッグ組んで、最近ようやく普及してきたやり方だぞ。魔石に魔法陣を刻むのに、地魔法にも精密な技術がいるからな」

「また出た、シュヴァリエ! リオナさんちのキッチン、もしかして最新鋭だったんだ。それじゃあ、魔石に属性違いの魔法とか複数の魔法を付与して、発動するのもご存じない?」

「待って、待ってくれ、カナメ、情報が多いから!」

「まずもって、そこまで一人であれこれ属性付与できる人がいないですから!」


 わあわあと、立て板に水の如く怒涛の会話をしているうちに、実際にどこまで付与できるのか見たいとグランツさんに乞われた。

 どこからともなく無属性のちっちゃな魔石をゼルさんが持ってきてくれたので、私はぱぱぱっと付与してみる。

 まずは風の魔力を与えて、魔石の属性を変える。

 今のところ停止する手段がわからないので、容量増幅はしない。

 からのー、部屋全体に広がるイメージで、≪舞風(ウィンドダンス)≫≪加熱(ヒート)≫≪(ミスト)≫をセットして、風の魔力で早速起動!


「おお、部屋が暖かくなっていく……」

「しかも、ちょっとしっとりしますね」

「加湿性能を加えた暖房機能、ってところですかね。この辺の寒い地域で使うには、最適かと。乾燥している場所向けに、加湿中心の魔石を作ることもできます」

「陣を敷かずに、本当に複合属性が動いているんだな」


 うまくいった。魔石は、湿気を載せた温風を吐き出している。

 先日作った加湿器もどきを、より暖房機能に寄せたものだ。

 この辺りは雪が降るから、湿度は高い分芯から冷えそうだし、暖房機能が強いほうがいいかと思ってアレンジした。

 相変わらず石から蒸気が出てくるの、私からすると妙な感じ……。こっちの人たちは、大して気にしていないみたいだけど。個人的に、せめて外見をもうちょっとどうにかしたいな。


「魔石の属性に合致する魔力の持ち主でないと、起動できないっていうのが難点ですけどね。ただ、魔道具を初めとして、多分複合の攻撃魔法とかも生み出せるんじゃないかと」

「おいおい、魔法利用の幅が広がるぞ……!」


 今は魔法を並列でほぼ同時に起動させているけど、直列で順番に魔法を起動させるよう組み込めば、水を撒いてから雷で感電させたり、炎と氷の温度差によるヒートショックを与えたりも可能になるんじゃないかな。試していないから、確証まではないけど。

 グランツさんの目が、愉しげに、それでいて真剣さを帯びて、私を貫いた。


「カナメ……一部秘匿事項があるが、俺たちクラリッサのギルドと、魔石納品の定期契約をしてくれ。まずは、増幅させた各種魔石を卸してほしい。付与の元になる無属性魔石は、こちらが用意する。冒険者ギルドで使えそうな魔法を組み込んだ魔石については、あー……後々相談させてほしい。頭が追い付かん!」

「これは商業ギルドが横やりを入れてきそうですね……」


 グランツさんは髪をぐしゃっと掻き回し、ゼルさんは頭痛を堪えるような表情をしている。仕事を増やしてごめんなさい。

 というわけで、当面はギルド側の要求する魔法を付与した魔石を小出しにしつつ様子見、ということでお互い合意した。

 私もまだまだ、この世界の常識を理解していないしね。

 それ以上に、心強く頼れる味方ができた、それが最大の収穫だと思う。


 報酬等々、ヒースさんにアドバイスをもらいながら、ギルドと契約を交わす。結構な収入になるぞ。ほぼタダの無属性魔石が化けた。懐が潤えば、心もホクホクしてしまう。

 出した魔石も引き取ってくれることになり、当座の資金もばっちり確保。

 懐があったかい!やった、これで早速、ヒースさんにお金を返せるぞ!


「魔石といい、料理への魔法付与といい、知っていたけど、カナメは規格外すぎる……」


 というヒースさんの一言で、また一悶着あったりしたけれども、どうにかこうにか太いお取引先ゲット。

 定期収入は、家計の要です。




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