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14.社畜と野菜ごろごろシチュー



 ≪転換(コンバート)≫の魔法は、日常生活の色々なところで使われている。

 よくよく確認してみると、キッチンに嵌めこまれていた魔石、それに細かな魔法陣が刻み込まれていた。

 魔石に触れると、魔力を≪吸収(ドレイン)≫する魔法陣と、≪転換≫する魔法陣を噛ませてから、コンロや流しが動く仕組みだ。


 魔法陣の起動には、属性関係なく魔力があればいいのだと、リオナさんの講義を思い出す。

 なるほどーこうやって魔石に陣を刻んじゃえば、属性関係なく使えるのか。

 魔力も何もわかっていない私が、キッチンを便利に使えていたのは、このためだった。ありがたや。


 そういえば、魔力が開花し、魔法が使えるようになると、無属性魔法――いわゆる生活魔法も使えるようになる。

 ≪清浄(クリーン)≫とか≪伝熱(サーマル)≫とか≪生成水(ジェネレイトアクア)≫といった、属性魔法に比べると微々たる威力なのだが、これがあまりにも便利。属性魔法なんかよりも、むしろ必需品では?というレベルで便利。

 私も使えるようになったので、特に≪清浄≫は大活躍している。


「さて、と」


 手を洗い道具を清めてから、私は早速夕食の準備に取り掛かった。

 今日は、ポーション類大量納品お疲れ様会を開催する予定なのだ。気合が入る。

 リオナさんが忙しくなると、必然的に薬草採取を依頼されるヒースさんも、慌ただしくなる。

 二人して多忙を極めていたので、今日はゆっくり食事で乾杯しようという話になったのだ。


 たくさんの野菜ときのこを、一口大に切っていく。お肉もぶつ切り。

 先日、ヒースさんからもらったホロホロドリが、大変美味であったので、またリオナさんにもも肉を取り寄せてもらったのだ。

 あと、捨てるって話の骨も、ついでにいただくことができた。骨はガラスープにも使えるのにもったいない。まあ、本日出番はないのだけどね。


 バターを鍋で溶かし、小麦粉と混ぜ合わせて炒めていく。水を加えて伸ばしながら、牛乳を加えて混ぜて、ホワイトソースを作る。

 この間に、フライパンで鶏肉に焼き目を付けてから、ホワイトソースの鍋に投入。

 空いたフライパンに、今度は野菜を軽く炒める。肉の脂が、いい感じに野菜に染みていく。火を軽く通したら、こちらも鍋へ。

 肉と野菜を炒め終えたフライパンには、ぐるりと水を回し入れて、残った旨味を充分含ませてから鍋に注ぐ。

 時間があるときに日々作っているブイヨンも加えたら完璧。


 あとは、美味しくなーれ、元気になーれと口ずさみながら、焦がさないようかき混ぜる。ジャガイモが崩れない程度に、ニンジンが柔らかくなるまで、しばらく弱火で煮込む。

 最後にきのこを加えて、塩で味を調えたら出来上がりだ。

 チーズを入れてもコクが出ていいのだけど、おつまみで出す予定だから、今日はシンプルなクリームシチューにした。


 シチューを煮込んでいる間に、洗い物をしたり、お酒のつまみを作ったりしていると、時間がだいぶ経過していたらしい。数日ぶりに、ヒースさんが顔を見せた。

 しっかり休めたようで、ヒースさんの表情もすっかり生気を取り戻し、明るく輝いている。

 こき使われていた間に納品しにきた際、疲れていたなりの妙な色気が滲んでいたので、イケメン侮りがたしだけど。


「いらっしゃい、ヒースさん」

「お疲れ様、カナメ。何か手伝おうか?」

「あ、じゃあ買ってきてくださったバゲット、薄切りにしてこれ塗ってオーブンで焼いてください」

「了解。デザートもあるから、食事を終えたら食べよう」

「わーい、ありがとうございます!」


 渡された箱を開けたらプリンが入っていた。

 わー、異世界にもあるんだな、プリン。


 冷蔵箱にプリンを収めている間に、ヒースさんは手際よく薄切りのバゲットにすりおろしたガーリックを混ぜたオリーブオイルを塗りつけ、オーブンに放り込んでくれた。

 刻んだトマト、オリーブオイル、リオナさん特製のハーブを混ぜて、カリカリに焼けたバゲットの上に載せれば、ブルスケッタの完成だ。

 シチューに付けても食べたかったから、普通のバゲットも準備して、ヒースさんにダイニングに運んでもらう。


「これは豪華だな。うまそうだ」

「温かいうちに、いっぱい食べてくださいね」

葡萄酒(ワイン)葡萄酒(ワイン)♪」


 ダイニングテーブルには、主食からつまみから、一緒くたに乗っかっている。

 張り切ってそれなりに品数作ったので、結構豪勢だ。

 用意したグラスに、リオナさんが葡萄酒を注いでいく。淡い金色が、凄く綺麗だ。フレッシュなアルコールの芳醇さが、鼻孔を擽る。

 そういえば、お酒をたしなむのも久しぶりだなぁ。移転の直前、ビールが飲みたかったのをふと思い出してしまった。結局、飲めなかったんだよね。


「「「乾杯!」」」


「やー、お互いお疲れ様でした、魔女殿」

「ヒースも、こき使って悪かったわね。でも、おかげ様でがっぽりよ」

「あっちにこっちに、薬草の群生地を回りに回らされたからなあ。先々でついでに討伐もしてきたけど、それより報酬のいい採取って、一体どういうことなんだか。カナメが時折持たせてくれた焼き菓子が、心の拠り所だったよ。ありがとう」

「あ、また作りましょうか?」

「いいのか? 頼む!」


 みんなでグラスを掲げて労をねぎらい、わいわいと食事を進める。

 気の置けない人たちと他愛のない話に興じながらの食卓は、賑やかで温かい。

 口につけた葡萄酒は、コクと酸味のバランスがちょうど舌に合って、飲みごたえがある。ついつい杯を重ねてしまいそうだ。

 リオナさんなど頬に手を当てて、うっとり陶酔していた。赤く染まった頬がちょっとえっちだ。


「はぁ、高いお酒最高……上品な香りがいいわぁ。ブルスケッタも美味しい」

「柑橘系みたいな、すっきりした酸味がいいな。カナメのシチューも、野菜と肉の旨みがぎゅっと詰まっていて凄く旨いし、酒が進むよ」

「そう! お野菜美味しいし、ミルク味がまろやかで食べやすいの!」

「ありがとうございます! お二人とも、あんまり積極的にお野菜食べてないみたいですからねー」

「あははははは」

「はははははは。魔女殿は、これを毎日食べているのか……はぁ、羨ましい」

「ふふーん、いいでしょ」

「店が出せる味だぞ、カナメ。料理スキルがあったが、あちらでは料理人か何かだったのか?」

「料理人だなんてとんでもない、普通に働いていただけです。私これでも、技術者だったんですよ」

「この腕で!?」


 ヒースさんは驚いていたけど、やたらと食に意欲を燃やしすぎな民族なだけです。

 私の場合、高校生の頃に亡くなった母が煮込み料理が好きで、一緒に作っていたら自然な流れで覚えただけだ。


 私もシチューを口に運ぶ。まろやかで優しい味わい。

 久しぶりにルーから作ったけど、やっぱり手間がかかっている分、美味しく感じられる。懐かしい、お母さんの作る味だ。

 だから、みんなの口に合って、いっぱい食べてもらえて、凄く嬉しい。


 ヒースさんもリオナさんも、モリモリ食べて飲んでいる。

 やはり男性がいると、料理の減りが物凄い早い。特に、ヒースさんなんて肉体第一の職業だからなぁ。

 気持ちの良い食べっぷりに、にっこりしてしまう。


「それにしても、こんないい酒、どうしたんだ? 魔女殿、随分奮発したな」

「んー、貰い物だからねえ。多分、オルクス家の秘蔵酒。王家献上の銘柄じゃない? なかなか手に入らないって言う幻の……」

「ごはっ……」

「あっはは。今回の急ぎの報酬だから、アンタも飲む権利あるわよぉ」


 けらけらと笑うリオナさんに対して、ヒースさんはむせていた。

 いやはや、そんなたいそうなお酒をがばがば飲んでいたのだとわかれば、びっくりするよね。


 主食を綺麗に片付けて、リオナさんとヒースさんは、すっかり飲む体制に移行している。

 2本目は、甘めの葡萄酒が出てきた。鮮やかなルビーレッドが目にも美しい。

 こっちもフルーティで、凄く口に合った。油断してかぱかぱ飲んじゃうと、酔い潰れそうだ。

 ディランさんは、種類豊富にお酒を取り揃えてきたらしい。気に入ったら買ってねってことだろうか。


 とりあえず1杯だけで我慢して、チェイサー代わりに、私はプリンと紅茶のデザートモードに移行。

 プリンはちょっと硬めのレトロプリンで、甘さ控えめ。カラメルの苦みが、美味しい。

 プリンすらもつまみに葡萄酒を呑んでいる2人は、なかなかにのんべえである。


「ところで、さっきから地味に気になっていることがあるんだが」

「何?」


 プリンもしっかり腹に収めたところで、ダイニングからソファに移動したヒースさんは、膝の上に両肘を立て、口元で手を組み真剣な表情を見せる。


「……飯を食ったら、身体の疲れが吹っ飛んだ気がするんだが」

「わかるわ」

「ええ……? どういうことです」

「要、シチューに付与魔法(エンチャント)使ったでしょ?」

「はっ!? いやいや、そんなことしていないですよ!? 私、今日魔法の付与の仕方を覚えたばっかりなんですけど!?」

「つまり、無意識か……」

「てか、そもそもシチューに魔法付与できるんです!?」

「実際できちゃってるんだから、できるんでしょうよ」

「嘘だぁ……」


 魔石とか、武器への付与ならわかる。

 なのに、どうしてシチュー。締まらなさすぎでは。


 言われて、鍋にわずかばかり残っていたシチューに≪鑑定(アナライズ)≫をかけてみたところ、確かに体力回復の効果がついていた。光魔法の≪回復(ヒール)≫に似たナニカが付与されているっぽい。少し元気が出るとか、ちょっとした疲れに効く的な程度の薄いものだけど。栄養ドリンクじゃないんだからさあ。

 どういうことだってばよ……。思わず、シンクに手をついて項垂れてしまった。

 検証の結果、美味しくなーれ、元気になーれと、鼻歌混じりに鍋をかき混ぜていたのが悪かったらしい。あれが、詠唱と手続きになってしまったのだとか。そんなことある!?


 ただし、魔法を付与できるのは、何故か液体だけ、ということも判明した。魔法効果が溶け込むらしい。

 追加のつまみとして作ったピンチョスには、それっぽい効果は発動されなかったのだ。≪鑑定≫で確認しても、普通のピンチョスだった。普通のピンチョスって何……。ますます謎だ。

 一体どういう理屈なんですか……。魔法、奥が深すぎる。


「美味しくて回復もできるなんて、最高じゃないか!」


 何にせよ、ヒースさんには非常に好評だったので、これからもスープには付与を施していく所存である。






いつもご覧いただきありがとうございます!少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

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