表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい  作者: 綴つづか
元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい
112/130

112.元社畜は闇の系譜に連なる

最終章になります。最後までよろしくお願いします!





 はてさて。

 ユエルさんに迎えに来てもらった私は、すったもんだの末にシュヴァリエ侯爵家の娘になっていました。

 ……ナンデェ!?






「いやはや……人生って何が起こるか本当にわかりませんね……」

「私も結構波乱万丈だけど、カナメも相当よねえ」

「初手異世界転移してますからねえ……怖いものなんてないですよ」

「真理」


 豪奢な家具に囲まれた広い部屋で、私はユエルさんと一緒に、改めてわっはっはとヤケクソ気味に笑いを漏らす。でも、心なし小声で。

 というのも、私はちっちゃくてぱんぱんのおててを掴みながら、あぶあぶしている赤ちゃんを抱っこしてあやしていたからだ。


 目の前の赤子はシリウスさんとユエルさんのお子さんで、シュヴァリエ侯爵家次期当主のご嫡男、ディーアくん御年6ヵ月である。お二人のいいところ取りをしたような、黒髪に紫の瞳を持つ、とっても愛くるしくて美しい赤ん坊だ。

 色の特徴はシリウスさんだけど、顔立ちはユエルさん似。めっちゃ可愛いし、ふくふくしている。将来モテること間違いなしだね。

 お名前はリオナさんによる命名で、ユエルさんが月に関係する名前を持っているからと、ローマ神話の月の女神ディアーナから取ったのだとか。リオナさん、意外にセンスあるのでは……?


 てか、いずれリオナさんが私の手で還ることを知っていたユエルさん、リオナさんに名付け親になってもらうために妊娠したとか、なかなかにパワフルだと思います。

 ダンジョンに潜る前、私と一緒にテント作ってる時、既に妊娠してたとか嘘でしょ……はちゃめちゃに動き回ってましたよ、この人。


「なんにしても、だいぶ元気が出てきたみたいでよかったわ。ここにきた当初、しばらく寝込んでいたものね。全く、リオナさんもヒースさんも、カナメをこんなに塞ぎ込ませて」

「その節は、大変ご迷惑をおかけしまして……」


 ぷんぷんと頬を膨らませるユエルさんに対して、申し訳なさに頭を下げると、彼女はふふっと表情を緩ませた。


「いいのよ、貴女は私の義妹(いもうと)なんだから」





 リオナさんとヒースさんと別れ、シュヴァリエ侯爵家にお世話になって、早1カ月ほど。

 リオナさんとヒースさんとの別れのストレスか、シュヴァリエ家に着くなり、私は熱を出して寝込んだ。

 シュヴァリエの皆さんは、それはそれは甲斐甲斐しく面倒を見てくださり、優しさにうるっときたものだ。


 私的には保護対象の居候のつもりでいたのだけど、闇を司る家が、闇の女神の愛し子である私を見逃してくれるはずもなく。

 シリウスさんとお父様の宰相様が根回しをしていて、いつの間にか養子縁組が進んで書類にサインしていた。な……何を言っているのかわからないと思うが以下略。

 中枢にいて国を治めているインテリの巧みな話術、めちゃくちゃ恐い。マジで詐欺に引っかかった気分である。


 貴族間の力関係で、『界渡人(わたりびと)』である私の引き取り先に関して、どうやら一悶着あったらしいのだが(前に、元老院の狸がどうとかっていってたアレだ)、宰相様とシリウスさんがタッグを組んでねじ伏せたらしい。さすが眼鏡、強い。……物理的な意味じゃないよね?何せここ、武闘系宰相家なので。


 つまるところ、シリウスさんは義理の兄であり、ユエルさんは年下だけど私の義理の姉になったのである。

 そして、貴族の令嬢の称号を獲得したわけだ。

 要するに、私、侯爵令嬢になってしまったのだ。

 いやー、根っからの庶民に何が起きた!?と目を白黒させたよね。

 養子縁組がまとまった後、めちゃくちゃ2人ににんまりとした笑顔を向けられたの、忘れられないですね。

 とはいえ、私がやってることに変わりはない。魔石に付与(エンチャント)を行い、薬を作り、時折≪調律(ヴォイシング)≫する日々だ。


 ちなみに、名前はカナメ・シュヴァリエになりました。日本名と仰々しい家名が、全く合わなすぎて笑える……。

 ユエルさんから、一宮の苗字はどうする?って聞かれたんだけど、父の家の名だからと、潔く残すのはやめた。これで、私の気持ちもかなりさっぱりだ。


 こんな得体のしれない『界渡人』にもかかわらず、宰相様、もといお義父(とう)様も私を歓迎してくれて、「お義父様」と呼ぶと、きりりと厳格に整った表情をでれっと崩してくれる。なんかユエルさんとは、また別の娘的感覚が生まれるらしいよ。

 あいにく、シュヴァリエのお義母(かあ)様は既に没しておられるので、お会いすることはできなかったが、まさか異世界に来て、義父(ちち)と呼ぶ人ができるとはなあ。不思議な感覚だ。ちょっと照れくさいけれども、正直なところ嬉しい。


「やー、それにカナメがいてくれて、本当助かるし……。カナメの腕の中にいると、ぐーすか寝てくれるのよね、この子……。おかげで私も乳母(ナニー)も、ゆっくり睡眠がとれるわ……」


 私がシュヴァリエ侯爵家に来た当初、ユエルさんは目の下にクマを飼っていた。

 乳母を雇っていたものの、ちょっと気難しいところのあるディーア君は、夜泣きを繰り返し、なかなか寝てくれず、てんやわんやしていたそうな。

 それがどうしてか私の手の中では、すこんと寝落ちしてくれる。「貴女が神か!?」って、ユエルさんと乳母さんに大感謝されてしまったよね。


「不思議ですよね。私、ディーア君に、ギャン泣きされたことないですもん」

「闇の女神の愛し子パワーか何かかしらねえ?」


 マイナスイオンならぬ、愛し子パワー!?そんな不可思議な力が、私の肉体からほとばしっていたら怖いっていうね。


 さっきまではちゃめちゃにグズっていたのに、私が抱っこしたら秒でスヤァしたディーア君をベビーベッドに寝かせて、私はさてとと立ち上がった。


「今日は、これからどこか出かけるんでしょう? ちゃんと護衛連れて行きなさいね」

「はーい。ちょっと闇の女神の神殿へ行ってみようかと」

「ああ、それはいいわね。まだ参拝してなかったのでしょう?」


 そう。ユノ子爵領にいた頃は、地の女神セレスティの神殿や教会はあったのだが、闇の女神ノクリスの神殿には、ついぞお目にかかれなかったんだよね。穀物や野菜の生産を主としている大地だから、豊穣の神を祀るのはさもありなんなんだけど。オルクス領都はいわずもがな。


 王都なら各神々の神殿があり、己の信奉する神の神殿に巡礼しやすい。

 というわけで、ようやく慌しかった身辺も少し落ち着いたことだしと、今更ながら参拝に行こうと思ったのだ。

 決して忘れていたわけじゃない、決して。

 あと、シュヴァリエ侯爵家に来て、目を疑うようなことがあったから、神官様に確かめられる術があれば……という気持ちもなきにしもあらず。


「ナイスタイミングね。女神に、うちのディーアを寝かせてくれてありがとうございましたと、感謝を捧げておいてね」

「切実が過ぎる……」


 本当にこれが女神パワーゆえんなのかどうかは、謎であるが……。

 そう言って、ユエルさんは奉納品をたんまりと持たせてくれた。まあ、闇の女神の神殿なんて、シュヴァリエ侯爵家からしたら、ある種の総本山みたいなもんか。






 一応対外的にはお嬢様になってしまったので、お付きの侍女さんと護衛さんを引き連れて、私は馬車でのんびり神殿へと向かう。

 一度ユエルさんと一緒のところを襲撃されたことがあるから、護衛さんも必須なのだ。

 その時は、魔女の死を知った他国の貴族が、私を拐うべく仕掛けてきたらしい。ただ、ユエルさんのおかげですんなり解決したけどね。

 てか、ユエルさんの魔法無双(チート)が凄すぎて、確かにリオナさんもヒースさんも後ろ盾に推すはずだと、妙な納得をしてしまった。


 侯爵家から神殿まで、大体1時間程度の道のり。うう、エア・スケーターが恋しい。馬車、結構ガタガタした揺れが腰に響くのよね。

 闇の女神の神殿っていうから、てっきり外壁が黒々しかったり?とか考えていたのだけれども、ようやくたどり着いたそこはパルテノン神殿みたいな白亜だった。ところどころ、差し色に象徴色の紫や黒が使われていて、なかなかに荘厳な雰囲気がする。


 神官様にお布施と奉納品を預け、私は祈りの間とやらへと連れていかれる。

 そこには、闇の女神を模したと思しき像や、神話を描いた絵画などが飾られ、色とりどりのガラスがはめ込まれたステンドグラスが、陽を受けてきらきらと輝いていた。静けさに包まれ、とても神秘的な光景だった。

 祭壇の前に跪き、私は両手を組んで、感謝の祈りを捧げる。


(闇の女神様。ご挨拶が遅くなってしまいましたが、私をこの世界に連れてきてくれて、本当にありがとうございました)


 右も左もわからなかった異世界転移当初は、混乱も多かった。

 けれども、リオナさんとヒースさんに出会えて、たくさんの人からあたたかさや優しさをもらえて、『マリステラ』に来られてよかったと、心から思えた。

 相変らずどうして私が愛し子なのかとか、わからないことはまだまだあるにせよ、私がこの世界で生きていく上で、不便なくやってこられたのは、闇の女神の加護のおかげだ。


 私がお礼(もちろん、ユエルさんの切実なお礼も一緒に)を伝え終わって目を開くと、ただでさえ静かだった部屋が、さらに静かな感じがした。

 外からのかすかな喧騒ですら一切ないし、空間が……真っ白?


 ……って、あれ、なんか目の前の像が光ってない?


 そう思った瞬間、私の耳に突如声が響いた。



「来るのがおっそーい!!」



 何故か怒られたんですけど!?




閲覧、ブクマ、評価嬉しいです。いつもありがとうございます!

当作品は1月中に本編完結、いくつか番外編更新を予定しています。のんびりお付き合いいただけますと嬉しいです。番外編ストック作成と見直しが終わったら、少し投稿ペース上げられると思うのでお待ちください!


ブックマークや感想、↓の☆☆☆☆☆の評価等で応援していただけると連載の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ