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逆転くん

作者: なりた供物

いつもいつも最後の最後に良いところを持っていく、そんなクラスメイトがいた。逆野(さかの) (てん)、だから逆転くんである。

あいつはいつも俺が目立ちたい、そんな所で逆転をかっさらっていく、野球の授業では次の打者の俺の前に逆転サヨナラ3ランを放つし、授業で指された時も毎回「ここ予習してきたので!」とウキウキしながら正解を書く。別に成績が突出してるわけでも無いのに。


だが、俺には1つ目立つための最大のチャンスがあった。そう、体育祭のリレーである。


俺は中学、目立ちたいからという理由だけでサッカー部に入った。しっかし、結構理不尽な練習が多く、新入部員の13人中3人がビビって1週間で辞めた曰くつきの部活だが、とはいえその過酷なトレーニングは俺の肉体を確実に成長させ、100mは14秒で走れるようになった。そのため、優勝するにはお前の力が必要だ!とベタな(素晴らしい)セリフで誘われ、赤組のアンカーになる事ができた。うちの体育祭はアンカーのみ2周走る事ができる。最高じゃないか。

対して、赤組のメンツと比べてやや戦力が劣ると見た白組陣営は、なんかここ1番でやってくれそう、という理由で、それまでの走力では下から数えたほうが早い逆野をアンカーに指名した。

正直、いや、なんでやねんと思ったが、逆に考えればこれで9割9分は赤組の勝ちだ。ちょっと大差がついてしらけるやつもいるかもしれないが、まあ間違いなく目立てる。


そして、当日、他の競技では案外白組が頑張り、このレースで勝敗が決まる点差になった。


さすがだ白組、今日頑張ってるしポテンシャルの差を上手いバトン繋ぎで埋めていた。ただ、単純な走力ではこちらが上。野球部のセンター、バレー部のリベロ、バスケ部のエース、そして!サッカー部のフォワード様がいる。俺の前でもう10mほど差があった。このグラウンドは1周200m、つまり俺が走る距離は400m!楽勝だ、そう考えてアンカーの準備を始めた。


あいつはやけに落ち着いていた。ちょっと怖かった。


「第11走者は赤組バスケ部エースの宮澤くん!白組との差を徐々に広げて2回目のコーナー、最終走者の森本くんに繋ぎます!」


確実に、かつしっかりスタートを切った。


後ろは見ない。後ろをジロジロ見るようではかっこが悪い。とにかく美しく、ゼーゼー言わないように余裕を持って、最後のストレートに到達した。


「勝った!これで俺はクラスのヒーローに…」


そう思った刹那、後ろからの音が急に激しくなる。俺の足音ではない。なんせスタイリッシュに走っている。帽子でも落としたのかもしれない、そう思って一瞬だけ後ろを見た………


いや、後ろなど見れなかった。"逆転くん"はすでに俺の横に、前にいた。


「きたーーーー!!!逆野くん、森本くんを見事抜きました!!!!白組、白組優勝です!!!!!!!」



試合後、俺はさんざん慰められた。配置決めたのは俺だしお前の適正距離でやらせなかった俺が悪い、とか、1周目終わるまでは全く差は変わってなかったよ。怪我とかしてない?とか………ああ……俺が求めていたのは"こういう"のではない……が、ありがとう、と返して、散々うなだれた。


白組陣営では胴上げが行われていた。白組主将、そして、"逆転くん"は3度も胴上げされた。"こういう"のになりたかった。


体育祭が終わった。もう俺のプライドはズタズタだったので、この際"逆転くん"がどんな魔法を使っているのかを知りたくて、本人に直接聞く事にした。


「やぁ。今日の負けアンカーの森本だよ。おめでとう。」

「あぁ、いい試合ができて良かったよ。"逆転くん"として、失敗は許されないからね。」

「ああ、その事なんだが……… なんで君は、いつも、目立つ所で素晴らしい成績を残せるんだ?まだこの前の3ランの時は風が強かったし、そういうのはわかるんだが、、少し失礼なことを言ってしまうが、君は学校の成績だって中の上だし、俺よりも100mの持ちタイムは5秒ほど悪かった。なのに…」

彼は急に、少し不気味な微笑みを見せて、こう話した。

「何言っているんだ?全部計算のうちだよ。」


「え?」


「例えば、クラスで1番成績の良い飯山君とかいるだろう?」

「ああ、すべての教科で3位以内に入ってくる、あの飯山か?」

「あいつが例えば年相応の問題を爽やかに答えたとする、君はどんな感情になる?」

「そりゃあ、あいつは"出来るやつ"だなぁ…と…」

「で?」

「え?」

「いや、それ以上何かある?」

「いや、あいつは本当に勉強ができるやつだな…と…俺とか勉強においては下から数えたほうが早…」


「ごめん、そういうのは置いといて、客観的に見て、、頭のいい奴が頭のいい事を答えても、"やっぱり"あいつってできる奴だなぁ…としかならないだろう。現にあいつは別にクラスで人気者な訳ではない。むしろちょいワルの奴らに夏休みの宿題を押し付けられてる所も、見ただろう?」

「すまん、ちょっと何を言っているの分からない。もう少しわかりやすく説明してくれないか。図々しくてすまないが。」

「そうだな…例えば、高校野球で例えるとしよう。甲子園で優勝候補と目されていた高校が、そんなに出場していないようわからん高校に負けたりすると、興奮するだろう?

今日の俺たちの構図も同じだ。正直君たち赤組の方いいメンバーが揃っている事はみんなわかっていた、だけど、俺の走りで白組が勝ち、あろう事か、俺のことを胴上げまでし始めて、俺はめちゃくちゃ目立てた。」


「俺こと"逆転くん"はそういう目立ちのためなら自分の成績をわざと下げる事だって厭わない、ただ最後は"逆転くんの奇跡"を信じてくれた人間を興奮の渦に導く。俺はこの日のために隠れてトレーニングをした。フォーム改造も行い、みんなに見られる時はわざと"期待できるかできないか際どいが、基本的にはダメ"なフォームで走り、みんなも俺のことを"逆転くん"としてしか期待していなかったし、そういう状況を作り出した。野球の時も同じだし、授業で指される時も同じだ。うちの先生や生徒の特徴はすべて覚えているし、どの方向に打球を持っていけば伸びるのか、こっそり1ヶ月前から計測をした。勉強だって本当はめちゃくちゃやっているし明日はどの授業が行われている可能性が高いか毎日チェックもする。

もちろん、単純な能力検査では、からっきしダメな"坂野転"を演じる。ただ、みんなが注目する状況では自分の本来の力を出す。"逆転くん"になる。

どうだい?かっこよくないか?あ、家庭教師が来ちゃうから帰るよ。こんなに色々話せたのは初めてだ。少し興奮している。もちろん秘密でな。じゃあな。」



帰った後、色々と考えたが、やっぱりあいつの思考回路は理解不能だ。

ただ、あいつは俺以上の異常な目立ちたがりで、これからも"逆転くん"として、みんなの前ではとびきりかっこよく見せるんだろうな、と思った。


秘密は言わない。こいつには才能、何より努力で勝てない。これからはこいつがどう立ち回るのかを観察して、高校では絶対にヒーローになる。そう決めた。

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