8 岡田
小鳥のさえずり、窓から差し込む光。眩しすぎる光が俺の顔を照らし、太陽に起こされるようにして俺は目覚めた。置時計へ目を移すと、時計は十時と示していた。俺は重い体を起こして、活動を開始させた。外へ出て、いつも通りに郵便受けから新聞を取った。奥には、まだ何か入っているようだった。中を覗くと、また封筒が入っていた。
「またか……」
俺は半ば呆れていた。最早、嫌がらせに他ならない。今となっては家族がどうなろうと俺の知った事ではないと思っていた。手紙の内容は、親父のことだろうか。部屋へ戻ると封筒の封を切り、中身へ目を通した。
『あなたのお姉様の事は誠に残念でした。それと言うのも、あなた様が実行されなかったためです』
お姉様の事は誠に残念でした? 俺の知らないところで姉の身に何か起きたのは安易に想像できた。どうせ馬鹿親父の事でも書かれているのではないかと予想していた俺の想像を見事に裏切った。そう思うと、俺は急に姉の事が心配になっていた。姉は、いつでも俺の味方をしてくれた。瞬時に幼い頃の思い出が頭を過ぎった……。
学生の頃、姉と同じぐらい勉強の成績は悪くはなかったが、なぜか俺だけ両親に叱られた。なんで俺だけが、なんて何度も考えた。そんな俺をいつでも優しく支え、慰めてくれたのは姉だけだった。姉の事を疎ましくも思った事もあったが、姉は、それ以上の優しさで包んでくれた。今、仕事にしているカメラマンの仕事も、元々は姉が俺の撮った写真を褒めてくれたことがきっかけでもある。掛け替えの無い人は、居なくなってから気付くなんて事はあるが、姉が今いなくなったら、俺は自分のことをきっと責め、猛省することだろう。なぜもっと手紙の事を気にかけなかったのかと。俺はどこかで安心していたのかもしれない。嫁いで行った姉は大丈夫なのだと。
俺は自分の財布から姉の携帯電話の番号が書かれたメモを取り出した。震える手でデスクの上に置かれた固定電話のボタンを押す。受話器からコール音が何度も聞こえるが、一向に電話に出る様子はない。一旦、電話を切ると続けて、姉の嫁ぎ先へ電話をかけることにした。不安を隠しきれずに動揺する胸を抑え、落ち着き無くコール音を耳に入れた。
「はい、もしもし岡田です」
岡田は今の姉の名字。受話器からは男の声がした。旦那さんだろうか? 実のことを言うと俺は姉の旦那さんに会ったことも話した事も無い。少し気まずい感じがした。