6 ホテル
料亭から出てきた松岡の車をタクシーで追った。車は都内のプリンスホテルへ着き、松岡は一人でホテルへ入っていく。その姿を尻目に、俺はロビーで女が現れるのを待った。
女は帽子にサングラス姿で現れた。スタスタと歩いて行き、エレベーターに乗った。俺は、その姿を隠し撮りした後、すぐさま尾行を始めた。この手の尾行は慣れているため、なんの問題もない。女は、二十七階の二七〇三号室へ姿を消した。俺はそっとドアへ近づき様子を伺う。ドアへ耳を付けると、中から微かに話し声が聞こえる。慎重にドアノブへ手をかけると、幸いなことに鍵を掛け忘れたのか、鍵が掛かっていない。自分の幸運を神に感謝した。
「よし……」
俺は大きく一度、深呼吸した。息を整え終えると大胆にドアを開け、素早く中へ侵入した。ばっと色々なものが目に飛び込んでくる。絨毯に机、椅子、シャンデリア、ベッドに腰掛ける二人の姿。
「おい! 誰だお前!」
松岡の怒号が響いた。
俺は、二人を確認すると連写で写真を撮り、走ってその場を逃げた。全力疾走してエレベーターに飛び乗る。うまくいった。そう思うと少し落ち着けた。松岡にしろ、女にしろ、あまりの出来事に呆然として、俺の後を追うことはできないだろう。予想以上に上手くいき、薄ら笑いを顔に浮かべていた。周りの人が見たら、気持ち悪い顔をしていたかもしれない。俺は、一仕事終えた開放感から真っ直ぐ家に帰らなかった。街を彷徨う様に居酒屋を梯子した。酒を何杯も飲み、家に着く頃には、すっかり深夜になっていた。家に着くと早速、慣れた手つきで写真を現像し始める。一時間ほどで現像が終わり、出来上がった写真を見て、俺は予期せぬことに驚愕した……。
「大山 愛子……」
間違いない。ほろ酔いの俺の目にも、はっきりとわかった。松岡の隣に写る女性は大山愛子だった。俺は慌てて、以前盗撮した愛子の写真を引き出しから取り出すと、現像した写真と見比べる……。
「間違いない……」
窓から街灯の光が所々差し込んでいる。部屋の電気を点けずにいたために、その光だけで部屋は薄暗かった。そんな部屋の天井を俺は無意識に薄目で見上げた。
「どうなってんだ……。偶然か?……」
返答の無い独り言。遣り切れない思いが心に生まれて、俺を激しく困惑させた。




