表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人命令書  作者: YJ
39/40

39 あの日

 俺は逃げるようにして大山家から出て行った。暗闇に足を突っ込んでしまった気分だった。心が沈んでいるのがよくわかる。大空の中心に輝く太陽の光がいつも以上に明るく感じた。

 奈保さんが聞いた声は愛子の声だったのだろうか。そして、二件の事件の犯人も愛子だったのだろうか。死者の霊体が事件を引き起こした、そんなことが本当にあるのだろうか。仮にそうだったとして奈保さんに何を伝えたかったのだろうか。愛子はもう二度と俺の前に姿を現す事はないのだろうか。愛子は存在していない人間。だが、俺の心にある愛子は確かに存在した。そう思うと心の一部をもぎ取られた気分になった。脳裏にはあの子の顔や仕草、触れた感触までもが鮮明によみがえってくる。本当にもう会えないのだろうか。何をするでもない、何を伝えるのではないが、もう一度会いたくなった。もう一度会って彼女が何をしたかったのか、何を伝えたかったのかを知りたくなった。俺は彼女と関連しているであろう場所へ向かってみることにした。まずはあのホテルへ、そして電車のホーム、港へ行ったが彼女の姿はない。どこかでわかってはいたがこれで諦めがついた。もう彼女は居ないのだ。港から街へ歩いた。あの日と同じように日が傾き、オレンジ色の空を太陽が演出している。あの日と同じ自動販売機でコーヒーを買い、あの日と同じように車止めに腰を下ろし、ポケットからタバコを取り出すと、火を点けてタバコを吸って白い煙の行き末を目で追った。煙はすぐに姿を消してオレンジ色の空が視界を占領した。次第に暗くなっていく空を眺めていたら、あの日の言葉を思い出した。


 『私を救えるのはタカシさんだけだよ』。

 『どうなっても知らないからね』。


 愛子の言葉だ。彼女の言葉が胸を刺激した。確かに彼女の言うとおりになってしまったのかもしれなかった。彼女の救えるのは俺だけで、俺は彼女を助ける事は出来なかった。どうなっても知らないと言われたが、俺は自分の思うままに警察へ行き、そして彼女は消えてしまったのだ。俺は近くの公園の噴水のわきに腰掛けた。辺りは薄暗くなり、少し肌寒かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ