表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人命令書  作者: YJ
38/40

38 声

 「夜テレビを見ていたら耳元で聞こえたのよ。プリンスホテルへ行ってって。なんのことだかわからなかったわ。最初は行く気はなかったのだけど、聞こえた声がなんだったのか、何度か言われたことを思い出していたら、行かなきゃ駄目だって思えてきたの。一度だけ行ったことのあるところだったけど、不思議な事に道に迷うことなく、まるで行き慣れたところへ行くように自然に着くことができたわ。回転扉を通ってロビーへ入ったら勝さんを見つけたのよ。そのまま立ち止まって勝さんを見ていたら後ろから女性が現れて勝さんの背中にぶつかって逃げていったのよ」


 奈保さんは頭だけ俺の方へ向き直した。悲しい目をしている。俺は何を言っていいのか分からずに奈保さんの目を見つめた。


 「真奈の時もそうなのよ。聞こえたの。電車のホームへ行ってって。私、見ちゃったのよ。自分の娘が殺される瞬間を。真奈は突き落とされたのよ。きっと同じ女性だったわ」


 俺は黙ったまま何も言い出すことが出来なかった。しばらくの沈黙の後に奈保さんは困り顔になり、軽く苦笑いを浮べた。


 「あの声は、愛子だったのかもしれないわね。私に何をして欲しかったのかしら……」


 奈保さんの瞳から涙がこぼれ、頬を伝った。自分の娘が殺される瞬間を思い出してしまったのだろうか。辛い出来事を嘆いているのは当たり前だろう。


 「愛子さんは何かを伝えたかったのかもしれませんね」


 俺は重くなってしまっていた自分の口を開いたが、気の利いた言葉は出てこなかった。奈保さんはまた顔の向きを変え、そのまま俯いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ