34 顛末
自分の意識はなかった。俺はマルボに突進し、胸倉を掴んでそのまま壁に叩きつけていた。
「警察は何やってんだ。保護してたはずだろ」
俺はマルボに怒鳴りつけた。次の瞬間、刑事が俺の襟首と左腕を掴み、全力で引っ張った。俺は後ろに倒れこみ、床に尻餅をついた。
「なにやってんねん。わけわからんわ」
俺を見下ろしながら言った刑事の怒号にも似た大声が部屋に響いた。
「隆君。落ち着いてください」
マルボが襟元を直しながら言った。彼は手帳をめくりながら言葉を続けた。
「亡くなったのは、十六年前です」
俺の頭の中で強い光が爆ぜた。思考が停止して、頭の中身が空っぽになり、真っ白になった。だが次の瞬間には、そのショックからか落ち着きを取り戻していった。高鳴っていた鼓動が次第に正常に戻っていくのがわかった。俺は過去を振り返った。そもそも愛子の姿を見たのは、と考え始めた。
最初は彼女の家で見て、次はホテルで、その後部屋へ連れて行き、親父の車でと。だが親父は女の子と一緒にいたことはないと言う。事実、ホテルの写真にその姿は写っていない。しかし俺は確かにその姿を写真で見たのだ。だが今、全ての写真においてその姿は綺麗に消えてしまっている。自分のことを愛子と名乗ったあの女性は誰なのだろうか。あの子が偽者だったにせよ何らかの理由があるはずであろう。それに、なぜ写真から姿を消す事が出来たのか。考えれば考えるほど複雑に糸が絡まる思いだった。解こうとしてもその糸は前にも増して余計に解けなくなっていく。解こうとしない方が良かったと後で後悔するようだった。俺は何度も首をかしげた。結局のところ手にしていた写真は全て持って行くことにした。マルボが勝手に俺の部屋から持ち出したものだから、当然と言えば当然なのだが。何気なく壁に掛けてあった時計を眺めると十二時を指していた。刑事が家まで送ってくれると言ってくれたので、その言葉に甘える事にした。起った出来事の顛末を聞かされたところで、まるで自分ではない他人に起った出来事のように俺には思えていたのだった。