33 真実
写真を横目で盗み見ていた親父の表情が変わるまでに時間はかからなかった。
「お前、あの時の」
勢い良く起き上がろうとした親父は、すぐにベッドに沈んだ。俺は殴られるんじゃないかと身構えたが、親父にそんな力はなかった。親父は悔しそうな表情を浮かべると横目で写真を眺め続けた。写真には写っていなかった。愛子の姿が。そんな馬鹿なことって。
「これ、違う写真でしょ。ここに愛子が写ってるはずだ」
俺は写真を指差して注目させた。ここ、ここ、と言って。親父の写っている写真の親父の隣の部分を執拗に指差した。三人は不思議なものを見るような顔で俺の顔と手元の写真を交互に何度も見返した。
「親父、一緒にいたよな。ホテルで大山愛子と一緒にいたよな」
強い口調で親父に言った。親父の目が鋭く光、いないと一言つぶやいた。
「嘘だ……。この写真も偽者だ。確かに写っていた」
頭が混乱して取り乱していた。この前まで写っていたものが消えるはずがない。偽造としか思えない。
「あの」
マルボの声だった。
「あの」
「なんや」
刑事が口を出した。
「ちょっといいでしょうか?」
「だから、なんやねん」
刑事は苛立ち、落ち着きをなくしていた。
「大山愛子さんっていうのは、大山奈保さんの娘さんの事でしょうか」
「だから、なんや」
刑事の口調は荒さを増した。
「亡くなられています」
マルボは手帳を見ながら、さらりと流すように言った。