30 不覚
「京子がなんでそんなことを」
親父は刑事に聞いた。
「そんなんこっちが聞きたいがな」
刑事は顔を潰して苦い表情で笑った。
「でもな、精神的におかしなことなっとるみたいやで。証言があやふやなことが多すぎんねんな。なんかあったんか」
「その点でちょっと。以前からありまして」
親父の沈んだ声に三人は彼を注目した。
「隆が家を出てから、あいつの様子は次第におかしくなっていきました。最初は気にしていませんでしたが、半年前に真奈が結婚してからはエスカレートしていきました。時々、発狂したり、物を投げつけたりと。一度ちゃんとした医師に診てもらうように勧めましたが、京子は頑なに拒否したためにそのままの状態になっていました。私もここ半年忙しかったためにあまり家に帰ることができず、その間、京子が自宅で何をしていたのかはあまり把握できていません。まさかこんな手紙を作っていたとは……」
「どうやら、精神科の先生に診てもろうた方が良さそうやな」
親父は両目を閉じて無言で肯いた。そして話を切り替えた。
「他の事件はどうなってるんですか。私がホテルで刺されたのと、真奈が駅で突き落とされたことは。あれも京子だったんですか」
「そのことやけどな。ホテルの一件と駅の一件。二件とも同じ目撃者がおったんや……。マルボ」
刑事に呼ばれて、マルボは鞄から写真を取り出した。
「この方やで」
それは四十代ぐらいと思われる女性の写真だった。その写真を見て親父の顔色が変わったのが俺には、はっきりと分かった。