29 証拠品
「まずはこれからですかね」
マルボはビニール袋の中からナイフを取り出した。隣にいた高田刑事が説明を始めた。
「勝さんを指したナイフや。ナイフに付着しとった血が勝さんの血と一致。一応、指紋を取ってみたら京子さんと隆君の指紋が出たが、マルボの報告によるとナイフは隆君が昨日の深夜に購入した物で部屋から京子さんが持ち出したんやな」
刑事は時折アクセントを変えた言い方で俺に問いかけた。それに対して俺はそうです、とだけ答えた。続けてマルボはビニール袋の中から紙切れを取り出した。
「これが松岡先生宛てに送られたものです」
マルボは両手で手紙を広げてそこにいる全員に見えるように構えた。手紙にはこう書かれている。
『松岡 隆 を殺しなさい 年齢二十歳、住所――
一週間以内に実行しない場合は、あなたの家族がどうなっても知りませんよ』
「俺を……」
俺は親父の顔を覗き込んだ。親父の厳しい表情が緩んだ。
「私がお前を? 殺すわけないだろう」
親父は困り顔になり、眉毛を八の字にさせた。
「松岡先生のところにはこれも含め似たような内容の物が全部で三通届いています」
マルボは他のビニール袋も次々と開けた。
『岡田 真奈 を殺しなさい 年齢二十三歳、住所――』
『松岡 勝 を殺しなさい 年齢四十五歳、住所――』
『松岡 京子 を殺しなさい 年齢四十三歳、住所――』
そして俺のところへ届いた。
『大山 愛子 を殺しなさい 年齢二十歳、住所――』
この手紙に関して、マルボは俺の出したゴミの中から取り出したのだと付け加えた。
「これによるとやな、松岡京子さんに岡田真奈さんを殺せという内容の物。岡田真奈さんに松岡勝さんを殺せという内容の物。松岡勝さんに隆君を殺せという内容の物。それと隆君のとこに大山愛子さんを殺せという内容の物。そして大山愛子さんのとこに京子さんを殺せという物が届いとったって言うこっちゃ。この五枚の手紙で一周繋がるようなっとる。手紙を調べたところ全ての手紙に京子さんの指紋が付いとったわ。それに自宅のパソコンに手紙の内容のファイルが残されとったし、プリンターのインクも一致しとるから、手紙は京子さんが出しとった言うこっちゃ。まだDNA鑑定中やけど、結果は出とるやろ」
まさか家族皆のところへ手紙が届いていたとは予想外だった。そして愛子のところへも。その予想に反して水面下では事件の全てが調べられていた。もう事件は解決している。この時はそう思っていた。