20 港
いつものレンタカー店へ着くと、すぐさま車を借りてアクセルを全開に踏み込んだ。十分ほど車を走らせると、例の港へ着いた。辺りを見渡すと一台の車が目に入った。どことなく見覚えのあるような車。近づこうと一歩踏み出したら想い出した。あれは……勝の車だ。なんでこんなところに。俺は勝の車へ近寄って中を覗いた。前部座席には、誰も乗っていない。スモークの貼られた後部座席の窓を覗き込むと、そこには愛子が寝かされていた。両手はロープで縛られている。
「愛子! 愛子!」
俺は、窓を叩きながら叫んだ。だが、愛子は起きなかった。何度も叫んだが、愛子に変化は見られない。俺の感情は次第に高まり、窓を殴っていた。その刹那、背中に視線を感じて俺は振り返った。俺の目の前には、勝がいた。
「隆……か?」
勝は悲しそうな顔で、俺を見ていた。
「愛子をどうするつもりだ!」
俺は、勝を厳しい目で睨み付けて言った。
「愛子? 誰のことを言っている。どうしたんだ、そんなに慌てて。それにしても久しぶりじゃないか」
勝は落ち着いた口調で大げさに両腕を広げて言った。とぼけているのか、そんな風には見えない。
「さっき母さんに会ったよ」
「京子には会わないほうがいい何を仕出かすかわからない。彼女は病気なんだ。お前の身が危ないかもしれない。ずいぶんとお前の事を探していてな、少し気が狂い始めているところがあるんだ」
そんなことはない。その表情、立ち振る舞い、口調。どこをとってもおかしな行動は見られなかった。事実としてあるのは、俺の家から愛子を連れ去ったのは、目の前にいる勝だと言うことだ。勝が、その場しのぎの嘘をついているとも思われる。勝はジリジリと俺に近づいてきた。俺は勝から目を離さずに無言で炯眼した。すると俺の視野、勝の背後十メートル程の倉庫の物影から人が姿を現した。