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殺人命令書  作者: YJ
18/40

18 告白

 二年半ぶりの再会だった。京子の表情は、どことなくくたびれていて随分と老け込んだ印象をあたえた。顔に刻まれた(しわ)が深みを増している。


 「ここで何しているんだ。愛子を何処へやった」


 「知らないわよ。愛子って誰? 隆の彼女? 母さんはあなたの事をずっと心配して探していたのよ。やっとのことで居所が分かって来てみたらドアが開いていたから……」


 「嘘をつくな」「嘘じゃないわよ」

 

 俺も京子も声を荒げた。京子の目が真剣に俺の眼差しを捕らえている。俺の右手のナイフが鈍く光っていた。


 「あんた、車にひかれて入院してるって聞いたけど、どうなんだよ。姉さんはあんたを心配して病院へ行ったんだぞ」


 「健太さんにも聞かれたわ。私が車にひかれて入院しているとか。私は車にひかれてないし、入院もしてないわ。でも真奈のことは本当に……」


 京子は急に涙目になり、口ごもった。


 「真奈のことは本当に……本当に申し訳ないことをしたわ」


 京子の口元が震え始め、信じられないことを言った。


 「私が殺したの」


 俺は言葉を失った。何かが俺の胸の辺りを素通りして心を奪って言った感覚がした。すっと通り過ぎて心に穴を開けていった。体の力が抜けて、構えていたナイフは乾いた音を立てて床に落ちた。


 「脅されていたの。変な手紙が届いて、真奈を殺しなさいって。ほかって置いたら同じような手紙がまた届いて、今度は殺さないと私と隆、勝さんも殺すって書いてあるの。確かに車には、ひかれそうになったわ。それで私、怖くなっちゃって。真奈は、あなたとは違うのよ。私の本当の子じゃないの。あの子を見ていると()()さんを想い出すの。あの子の本当の母親。小さい頃は気にならなかったのに、あの子、年々奈保さんに似てきて……。私にとって隆、あなたがすべてなのよ。どこで何をしてるのかも分からないし。私、怖かったのよ。」


 俺は右手でポケットにしまっていた抄本をぎゅっと握り締めていた。思いもよらぬ告白だった。京子の頬に涙が流れていた。涙は頬を伝うと床へ滴が落ちた。今まで、こんな姿の京子を見たことは一度も無い。その表情を見ていると自分の目にも涙を感じた。衝撃的な事実を白日の下へさらされ、言葉にはならない複雑な感情が俺の心を鷲掴みにする。俺の胸は焼けるように熱くなっていた。



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