16 戸籍抄本
外には、放ったらかしになっていたレンタカーがあった。俺は車に乗り、レンタカーを返し終わると、指定した公園へ向かった。歩いて行っても、ここからでも家からでも、ものの十五分ほどで着く。指定した公園は、さほど広いものではない。公園らしく滑り台や鉄棒、砂場などがある。外側が高い木で覆われていて、日中は日陰の範囲が広い。俺は辺りを見渡した。すると、木陰になっているベンチに二十台の男性が座っている。あれが健太だろう。会うのは始めてだった。男はカジュアルな格好をしていた。公園にはその他、人の気配はなかった。公園どころか、公園周りの細道にも、ひと気はない。男は、俺に気付くと俺に向かって無言で軽く手を上げた。俺も、それに答えて軽く手を上げて近づいていった。
「ありがとう、隆君……来てくれて……」
健太の表情はどんよりと暗く沈んでいた。顎に薄っすらと見える無精髭が疲れを感じさせた。俺は健太の隣に腰掛けると、タバコに火を点けた。健太は一度、大きく溜め息をつくと、脇に抱えていた薄っぺらな鞄から一枚の紙を取り出した。
「いつのものかは分からないのだけど……」
そう言って健太が取り出したのは、戸籍抄本だった。俺はその中身に驚愕した。家族の欄に目を移すとそこには父、勝。母、奈保。奈保?……。俺の知らない名前だった。俺の母親の名前は京子。さらに驚かされたのは子供の名前だった。長女、真奈。次女、愛子。愛子?……。これはどう言う事なのだろうか。愛子とは、大山愛子なのだろうか……。
そして俺の存在はどう言うことになるのだろうか……。京子と勝の関係は?……。
「これは、いったい……」
俺は言葉を失い、ただただ書類を炯眼するだけだった。
「これを見て京子さんに電話したんだけど繋がらないんだ。それどころか家に行ったら誰も居ないし、病院へ行って調べてみたら入院もしてなかったんだよ」
健太の言葉は俺の耳を掠めるだけだった。俺の耳は集中力を失い、まともに聞く耳を持たずにいる。
「隆君……。聞いてくれているかい?」
健太は俺を気遣い、片手を俺の肩へやさしく添えた。精神的ショック状態にある俺の様子を無言で見守っていた。しばらくすると、俺を宥める様に健太は話し始めた。
「母親が違った事は真奈も最近知ったんじゃないかと思う。前から知っていたのなら、きっと俺に話してくれていたはずだから……。奈保さんと愛子って子がどこの誰かは分からないけど、隆君は京子さんの子だよ」
そう言って健太はもう一枚の抄本を見せた。それは最近の物で奈保と愛子の名前は無く、京子と隆に代わっている。過去、家族に何があったと言うのであろうか。
俺は自分の存在を否定されたようで、気持ちの整理がつかずに、いつまでもベンチに座り込んでいた。