15 軟禁
俺は頭を切り替えて軟禁の説明に入った。愛子には軟禁するとは言わないが、いかにも自然に愛子をこの世から抹殺する。
「この家から出るのは危険だから、しばらくの間はここに居てもらうよ。それと誰が見ているのか分らないから、カーテンはいつも閉めて窓際には立たない。分かったね」
「はい」
愛子から素直な返事が聞けたが、逆に素直すぎて不安を感じた。俺は警戒しすぎなのだろうか。張り詰めるような緊張感が体から涌き出るのを感じていた。
『トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……』
「なんだよ、こんな朝早くに」
俺は箸を置き、面倒臭く電話の受話器を取った。電話は、姉の夫の健太からだった。
「隆君、すぐにでも会ってくれ。真奈の荷物を片付けていたら気になるものを見つけたんだ。隆君にも見てもらいたい」
「なにを見つけたんだ」
俺が問うと、健太は言葉を詰まらせた。
「電話じゃちょっと…… 直接見てほしい、頼むよ」
慌てた気持ちを無理やり押さえ込んでいるような落ち着きの無い話し方で健太は訴えていた。俺は家の近くの公園で落ち合う約束を健太と交わした。
「いってらっしゃーい」
俺は愛子の声に拍子抜けした。現状の緊迫感には関係なく、愛子は自分の世界を生きているように感じてしまう。だが、その声は俺の心に張り詰めた糸を、ほんの少し緩めてくれ、心のゆとりを与えてくれていた。
「大人しくしてるんだぞ、お前は居ない事になっているんだから、誰か着ても相手するなよ」
「はーい。あ! これ持って行って!」
何かを思い出すように愛子が差し出したのは携帯電話だった。
「私は二つ持ってるから、一個持ってって。そっちのアドレスに『愛子』って入れといたから寂しくなったら掛けてね。私が掛けちゃうかも……てへ」
愛子は、はにかみながら俺を見つめていた。俺は携帯電話の存在をすっかり忘れていた。自分が持ち歩いていないために気付かなかったのだ。
「言い忘れていたけど、携帯電話が掛かってきても出ちゃ駄目だぞ。メールも駄目、それと、そこの電話も駄目だ」
俺は指差し確認するように、愛子の携帯電話とデスクの上に置かれた電話を指差した。
「はーい」
愛子はニコニコと笑顔で俺に手を振っていた。俺は携帯電話と昨日買ってきた折りたたみのナイフを懐に忍ばせて家を出た。玄関のドアと南京錠に鍵を掛け終えると、何気に郵便受けを開けた。郵便受けは、新聞が入っているだけで手紙は入っていなかった。犯人は何処かで愛子の監視をしているんだろうか。三通目の手紙が届いてから、ちょうど一週間目の朝だった。