14 陽光
「いつまで寝てんのよ! 早く起きて」
俺は、愛子の声で目を開けた。明るい光が目に入り、咄嗟にもう一度、目を閉じた。
「何時だと思ってんのよ」
再び浴びせられる愛子の声に、俺はゆっくり肩目を開けて時計を見た。まだ七時だ。いつもの俺は早くとも、精々起きるのは十時なのに……。
「朝ご飯作ったんだから、起きてよぉー」
愛子は、駄々を捏ねる様な甘い声で、俺に訴えてくる。俺が目を開けると、愛子の顔は素早く俺の顔に接近した。髪を後ろで束ねたその表情は可愛く、俺の胸は鼓動を早くしていた。これまでの出来事の事とは裏腹に、なんて平和な朝なんだと、どこか拍子抜けすら感じる。まるで同棲でもしているようだ。
「ね、起きて」「はい、はい」
俺の体を軽く揺らし始める愛子に、相槌を打ちながら気だるい体を持ち上げた。
「冷蔵庫にあったもので作ったからね」
愛子はニコニコしながら俺の隣に腰掛けた。ソファの前のテーブルにはスクランブルエッグとソーセージ、あとは食パンが並べられている。俺は普段、気の向いた時しか自炊しないため冷蔵庫の中には、たいした物は入っていない。テーブルに並んでいるものは冷蔵庫の中身、殆どと言ってよかった。簡単に出来る料理とは言え、美味しかった。意外な美味しさに、俺は愛子を見直してしまっていた。こんな家庭的な面を持っているとは、夢にも思っていなかったからだ。それと言うのも昨日の『救世主』発言から、この子は変わった子だと自分の中で決め付けていた。それと、付け加えるなら、親父と関わる人間に、これまで真っ当な人間に、出会った事がなかった事もある。
ほんのひと時でも安息を感じ、幸せを感じた朝食だった。