書籍第二巻 発売記念 SS
最近は一日の寒暖差が激しく、体調を崩す者が多かった。
騎士たちは日々体を鍛えているが、やはり病に完全に打ち勝つのは難しいらしい。
「……ゴホッゴホッ」
例に漏れず、ルピナスも風邪を引いていた。
なんてことない風邪だが、久しぶりの体調不良に体は悲鳴を上げている。
フィオリナだった頃は風邪を引いてもこんなに辛くなかったので、正直参っていた。
「ハァ……こんなに体がだるいのはいつぶりだろう……」
咳、鼻水、頭痛に発熱、起き上がるのもやっとの状態に、ルピナスは自室のベッドに横たわりながら、独りごちた。
「ルピナス、大丈夫か?」
そんな時、扉が開いたと思ったらキースが入室してきた。
「は、い……なんとか……ゴホゴホッ、大丈夫、です……くしゅんっ」
「全然大丈夫じゃなさそうだな」
キースは部屋の椅子を片手に抱えてルピナスの側によると、ベッドの横に椅子を置いて腰掛けた。
額に伸ばされたキースの手が冷たくて気持ちがいい。
「……って、キース様、お仕事は大丈夫なのですか……?」
空はまだ茜色に染まり始めた頃だ。彼は騎士団長として夜遅くまで働いていることが多いため、もしかしたら一旦仕事を抜けてきてくれたのだろうか。
「いや、今日の分の仕事は全て終わらせてきた」
「え? でも、お忙しかったんじゃ……」
「どうにか終わらせたんだ。……ルピナスが心配だったからな」
「キース様……」
どうにか終わらせた、なんて口では簡単に言うけれど、とても大変だっただろう。
マーチスに頼ることだってできただろうが、おそらくキースの性格上、それはないとルピナスは思った。
「ありがとうございます、キース様……くしゅんっ、なんだか少し、元気が出てきたような……」
キースの優しさのおかげで、少し体が楽になった気がする。
ルピナスは本当にそう思ったから、笑顔でそう告げたのだけれど。
「そんな真っ赤な顔をして何言ってるんだ。コニーに病人用の食事を準備するよう頼んであるから、それができるまで少し寝ていろ。良いな?」
頭を撫でられ、布団を直され、優しい声色で寝るよう命じられてしまえば、「はい」と頷くほかなかった。
(そういえば昔、よくキース様を看病してたなぁ)
瞼閉じれば自然と眠気が襲ってくる。そんな中で脳裏に過るのは、幼かった頃のキースだ。
(あの頃のキース様、とっても可愛かったな……。病人食を食べさせてあげたり、体を拭いてあげたりしたっけ……)
あの頃は、今のような関係になるだなんて夢にも思わなかった。
そもそも、前世の記憶を持って生まれ変わるなんて、今でも信じられないくらいだ。
けれど、フィオリナはルピナスとなり、キースと再会し、愛し合うようになった。これは、変えようのない事実だ。
「……ふふ、キース様、大好きです……」
「……っ」
半分夢の中に誘われたルピナスが呟いた告白。
キースは彼女の熱が移ったかのように頬を赤く染め、愛おしさのあまり、そっとルピナスに口づけた。
その後、目覚めたルピナスはキースにあーんをされたり、汗をかいただろうと体を拭かれることになったりして甘い空気が訪れるのだが、それはまた別の話である。
読了ありがとうございました!
皆様の応援のおかげもあり、『傷物令嬢と氷の騎士様2』の発売日を無事迎えることができました……!
本編の改稿に加え、ボリュームたっぷりの番外編付きです!感動の完結巻、よろしくお願いします(´;ω;`)♡