書籍第一巻 発売記念 SS
傷物令嬢と氷の騎士様
novelスピラ様より10/17に発売いたしました!
↓に詳細がありますので、ぜひ書籍版もよろしくお願いします♡
何もしていなくても汗が吹き出すような夏のある日。
騎士団の外部訓練場で、そろそろ夕食の支度をしなければならないと、騎士見習いの男の二人は早めに訓練を切り上げた。
「なぁ、ポニーテールってやばくねぇか?」
なんとも頭が緩そうな発言をしたのは、その騎士見習いの内の一人である。その男の視線の先には、騎士服に身を包み、コニーと剣を交えているルピナスの姿があった。
「確かに、分からんでもない。束ねられた髪の毛が揺れてるのを見るだけで、なんかこう気分が高揚すんだよなぁ」
もう一人の騎士見習いの男もルピナスを見ながら、うんうんと頷く。
「だよな。ポニーテールってこう、惹かれちまうんだよなぁ。……可愛いなぁ……。ポニーテールのルピナスさん」
その言葉を最後に、騎士見習いの二人は騎士団棟の中へと入って行く。
「…………」
そんな二人の後ろ姿を、鬼のような形相で見つめているキースの背中を、突如現れたマーチスがバンッと叩いた。
「ちょっと〜キースったらぁ! なんなのよ、そのめちゃくちゃ怖い顔はぁ!! ……って、ぐふぉ!!」
キースは額に青筋を浮かべて、騎士見習いたちに視線を送りながら、マーチスの頭を掴んでぽいっと地面に投げ捨てた。
◇◇◇
「……はい? キース様、どういうことですか?」
夕食を済ませて自室に戻ったルピナスは、湯浴みも済ませてキースとソファで寛いでいた。結婚をしてからキースと同じ部屋で暮らしているのだが、ここ最近ようやく新しい生活環境に慣れてきたところだ。
お互いに多忙なので、夜にこんなふうにソファでまったりすることはあまり多くない。
つまり今日のこの時間は貴重なのだが、とあるキースの問いかけに、ルピナスののんびりとした心地はどこかへ消えていった。
「だから、今日はルピナスの首筋に沢山キスマークを付けても良いかと聞いている」
「いや、ですから! なんでそういう話になるのかってことを聞いているのです! キース様!」
ルピナスの肩に手を回しながら、淡々とした口調で話すキースに、ルピナスは困惑していた。
(結婚してから、そういうことは何度もしているし、キスマークを付けられたことだって一度や二度じゃない……。けれど、沢山ってなに!? 事前に確認するってなに!?)
キースは雰囲気を作るのが上手だ。だからいつも、気が付けばベットでそういう雰囲気になっていた。
だからこそ事前に身構えなくても良かったのだが、今日は一体どうしたのだろうか。
「キース様、なにかあったのですか……?」
「……それは……」
キースはサッと視線を逸らす。
その姿に、ルピナスは彼がなにかを隠していることに確信を持つと、ソファにに座ったまま体をねじり、キースの方を向いた。
そして、両手でキースの両頬を挟むようにして押さえると、じっと彼の目を見つめた。
「理由を言わないと、今日はそういうことしません」
「……!」
キースの眉毛がピクリと動く。それからキースは、参ったと言わんばかりに眉尻を下げてから、おずおずと口を開いた。
「今日、見習い騎士の奴らがルピナスのポニーテール姿を見て可愛いと言っていた。だから、首筋にキスを沢山つければ、髪の毛を上げられなくなると思った」
「はい?」
「心が狭いのは自覚しているが、俺はそれが嫌だった。俺以外の男が、ルピナスを可愛いと思うのが嫌だったんだ」
「……っ」
申し訳無さと、照れと、縋るような思いが混ざりあったような、そんな声色で話すキースの言葉の意味を、理解できないほどルピナスは鈍感ではなかった。
いや、厳密に言えばルピナスは恋愛ごとにかなり疎いのだが、さすがにここまで真っ直ぐな言葉を向けられたら、勘違いなどできなかった言うべきだろうか。
「それは、嫉妬ですか……?」
「ああ、そうだ。やっとルピナスと思いが通じ合って、夫婦にまでなっても、こんなことで嫉妬するくらい、俺は小さな男だ。……嫌いになったか?」
氷の騎士様だなんて異名がついているとは思えないような、まるで捨てられた子犬のような目。不安そうな声。
ルピナスは首をブンブンと横に振ってから、キースの頬を優しくすりすりと撫でた。
「嫌いになんてなりません。だって、好きだから、嫉妬するんでしょう?」
「……ルピナス」
「そうだ! 明日からはお団子ヘアーにしますね! それならポニーテールとは違いますし! ですから、見えやすいところへのキスマークはやめてくださいね! 剣を振るう際に、髪の毛を下ろしたままだとさすがに邪魔なので」
「ああ、分かった」
コクリと頷いて、先程より明るい表情になったキースのに、ルピナスも顔を綻ばせる。
(初めは何事かと思っていたけれど、キース様にこんなふうに嫉妬してもらえるのは……少し、嬉しいな)
へへ、とルピナスは笑い声を漏らす。それから、キースに顔を近付けると、ルピナスは彼の唇にそっと口付けた。
「キース様、直ぐに嫉妬する貴方も、大好きですよ」
「……っ、そんな可愛いことを言うと──」
「……え?」
──次の日。
ルピナスは宣言通り、髪の毛を後頭部で纏めたお団子ヘアーをしていた。しかし、夏用の騎士服ではなく、夏以外の時に着用する長袖の騎士服に袖を通していることに対して違和感を持ったのは、マーチスだ。
「ねぇ、ルピちゃん、その騎士服じゃあ暑くなぁい? 夏服の替えはどうしたのぉ?」
「……えっ、えっと」
ぶわりと、ルピナスの顔が赤くなる。
マーチスはなにか思いついたような顔をすると、近くに部下たちと剣を交えているキースに呆れた目を向けた。
「大体分かったわぁ〜。詳しいことは聞かないけれど、昨夜は大変だったわねぇ」
「〜〜っ」
首筋以外にいくつもある赤い華。
ルピナスはしばらくの間、夏の暑さに苦しみ続けた。
【傷物令嬢と氷の騎士様】
novelスピラ様より10/17に発売いたしました!
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【聖女の妹の尻拭いを仰せつかった、ただの侍女でございます】
も発売したばかりですので、引き続きよろしくお願いします!
どちらも有償特典のアクリルコースター、定価でイラストペーパー付きのものもあります!(傷物令嬢はSSも)
詳しくは公式サイトをご覧になってから、お手にとっていただければなと思います(*´艸`*)
ぜひ作者と作品を応援してください……!!