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第五十一話 ラーニャと久しぶりの再会

 

 毎日見ていたお仕着せとは違うものの、その姿は間違いなく実家で唯一心の支えになってくれたラーニャのものだ。


 ルピナスは勢いよく駆け寄ると、そのまま目一杯ラーニャを抱き締めた。


「ラーニャ!! 会いたかった〜!!」

「私もです……! って、いたたた!! ルピナス様お力がつよっ……」

「わー! ごめんねラーニャ……!」


 ひ弱なルピナスの体は、鍛錬により日に日に強くなっている。剣術だけでなく、単純な力もついたことから、やり過ぎてしまったらしい。


 ルピナスはバッとラーニャから腕を解くと、顔を見合わせて満面の笑みを向ける。


「ラーニャとまた会えるなんて夢みたい!!」

「私もです……! それにしてもルピナス様、お噂は耳にしていたのですが、一層美しくなられましたね……いえ、私は分かっていましたとも! 元からルピナス様が磨けば輝く原石だということは! その機会がなかっただけで、今はこんなに……はぁ〜〜!! ラーニャは嬉しいです!! それに剣術の心得があっただなんて知りませんでした……名誉騎士の称号を賜ったとのこと、本当におめでとうございますぅぅ!!!!」

「ラーニャ〜〜ありがとう〜〜……!!」


 何だか感動してしまって、再び抱きつく。今度は力加減をして抱き締めれば、ラーニャも「失礼して……」と言いながら抱きしめ返してくれたので、ルピナスの頬は緩みっぱなしだったのだが。


「……感動の再会に水を差す様で悪いが、少しだけ俺から説明をしても良いだろうか」

「……ハッ! キース様申し訳ありません……!」

「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」


 そうして、ルピナスとラーニャはキースの向かい側のソファに腰を下ろすことになった。


 未だに頭の上から花が飛びそうな程喜んでいるルピナスの姿にキースが優しい眼差しを向けると、整った唇が開いた。


「まず、ラーニャにはこれから第一騎士団のメイドとして働いてもらうことになった」

「えっ!? 良いのですか!? 今までうちはメイドを雇っていなかったのに……」

「そんなものは先代の騎士団長が勝手に決めたことだからな。メイドを置くことに関しては国王からも許可は取ってあるし、騎士見習いや新人騎士の負担も減るし、何も不都合はないだろ」


 キースからの朗報に、ルピナスは隣のラーニャを見やる。

 どうやらラーニャには既に話が通っているらしく、コクリと頷かれた。


「じゃあ、これからはラーニャと一緒に働けるの……?」

「はい。またルピナス様と一緒にいられるなんて、夢みたいです!」


「嬉しい……!」と歓喜の声を上げたルピナスは、隣のラーニャとキャッキャと手を取り合った。


 しかもキースの話では、騎士団のメイドは重労働だということで、給与もかなり良いらしい。


 聞くところによると、レギンレイヴ邸よりも破格な金額だったので、これでラーニャと仕事場と給与に関する心配は無くなったわけである。


(キース様、きっと実家の事業が傾いていると知って直ぐにラーニャのことを考えてくださったのね……頼んでいたとはいえ、ここまでしてくださるなんて……)


 さも当たり前だというように、偉ぶることもなく、感謝を強要することもなく、温かい眼差しを向けて説明をしてくれるキースに、ルピナスは感謝の気持でいっぱいになる。


「キース様。お忙しいはずなのに、ラーニャのこと本当にありがとうございます」

「……当然のことだ。好きな女性に頼まれたことを叶えてやりたいと思っただけだから」

「〜〜っ!?」


(今! 隣に! ラーニャが! いるのに!)


 団員たちの前や、舞踏会に参加したときもそうだが、キースは隙あらばルピナスを口説いてくる。


 ラーニャも反応に困ってしまうのではないかと、ルピナスが気まずそうにそろりと視線を寄せると、視界の端に映ったラーニャの顔は、それはもうにんまりと微笑んでいた。


「噂通り、ルピナス様は大変愛されておられるのですね」

「噂!?」

「はい。一週間前の舞踏会以降、一介のメイドにも伝わるくらいには、ハーベスティア公爵令息様がルピナス様のことを溺愛しているという噂が広がっております」


「うっ、うっ、嘘でしょう……!?」と団長室にはルピナスの羞恥を孕む声が響き渡った。


 以前よりも喜怒哀楽が激しくなったルピナスを見て、「なんだか少し性格が変わりましたね……?」と呟いたラーニャだったが、おそらく環境の変化だろうと、それほど深く考えることはなかったのだった。



 ◇◇◇



 ラーニャが第一騎士団で勤め始めてから、早二週間が経とうとしていた。


 ルピナスの知り合いということもあって団員たちと馴染むのは早く、特に騎士見習いと新人騎士はラーニャのお陰で騎士本来の仕事に費やせる時間が増えたため、感謝が大きかった。



 そんなとある日の夕方。ルピナスがマーチスたちに付いて行っていた街の巡回警備から帰ってくると、直ぐ様近衛騎士団塔に向うべく、長い廊下を走っていた。


(ハァッ……夕飯の準備も手伝いたいし、急がなきゃ!)


 ここ数日、王都は平和そのものなのだが、その周りの郊外にある周辺の森で頻繁に魔物の叫び声が聞こえるという話を住民から良く聞いた。


 郊外の周りにある森を住処にしている魔物たちがもし活性化しているとなれば、何かの機会に郊外や王都にも被害が及ぶかもしれない。


 結界を張ってあるとはいえ、ときおり破られることもあるため、この情報は近衛騎士団とも共有しなければというキースの判断の元、その役目を買って出たのがルピナスだった。


(そういえば、近衛騎士団塔ならアイリーン様に会えるかも!)


 実は、ラーニャが第一騎士団に来た日、アイリーンに手紙を書いたのだが、何故か未だに返信が来ないのだ。

 当初は忙しいのかと思っていたが、流石に二週間ともなると何かあったのではないかと、アイリーンは心配だったのである。


(けれど、いきなりアイリーン様を訪ねるのは迷惑よね。それに、まだ仕事中かもしれないし)


 そもそも、配達ミスで手紙が届いていないだけかもしれないし、アイリーンがうっかり忘れているだけかもしれない。

 とはいえ、舞踏会以降一度も顔を合わせていないので、ほんの少しでもアイリーンの顔が見られると良いなと思っていたルピナスだったが、もう少しで目的地に到着というところで、見知った後ろ姿が視界に入った。


 メイド服が浮いてしまう程の艷やかなプラチナブロンドの彼女を、ルピナスが見間違うはずなかった。


「アイリーン様?」

「…………!」

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