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第四十七話 リリーシュは切り替えが上手い

 

「おっ、王女殿下ですって……!? それにお姉様の友人って……!」


 ガタガタと歯を震わせて顔を真っ青にするレーナに、リリーシュは「貴方の常識って面白いのねぇ」と愉快そうに言葉を吐いた。


「仮面のことといい、敬称呼びでさえしてはいけないことといい、淑女ならば知っていて当然のことですのに。ふふ、それにもう私の耳に入っていましてよ? ()()()()のルピナスに対して、えらく悪態をついたらしいわね」

「あっ……あっ……」


(王女殿下、以前とは全く雰囲気が違うわ……公私をしっかりと分ける方なのね。それにしても、王女殿下の中では既に私は友人に……? って、それはとりあえず後か)


 見たことがないほどの怯えた表情のレーナは、流石に王族まで出てくるとは思わなかったことが窺える。しかも、それが今まで虐めてきたルピナスの友人だというのだから、焦るのは至極当然のことだった。


「私、ルピナスには一度助けていただいたことがあってね? とっても感謝しているの。今日だってルピナスとお話しするのを楽しみにしてきたんだけれど、いつの間にか彼女が騒ぎに巻き込まれていて驚いたわ」

「そ、それ、は……その……」

「うふふ。そんな怯えないで? 私は王族だけれど、今日の私の発言は王族としての力はないの。まだ社交界デビューをする年齢に満たない、ただの子供だもの」


 リリーシュの発言に嘘はなかった。今日、リリーシュは王女としてこの舞踏会に参加しているものの、その発言に王族としての力はない。


 だが、それは建前である。というよりは、リリーシュ本人が本当にそう思っていたとしても、周りの貴族はそう思わないのだから、その発言には力があるということだった。


 リリーシュはそれを分かった上で、「これは私個人の気持ちだから、お気になさらないで?」と言って優雅に笑った。


「私、貴方のことだぁーっいきらい。これから二度と顔も見たくもないわ。ふふっ」

「え、えっ、と、あの……っ」

「ただの子供の戯言だと思って聞き流してちょうだい? 未だに名乗りもしない常識なしさん?」

「……あっ、ああああっ……!」



 ──それからは、まるで一瞬の出来事だった。


 素早く現れた衛兵に捕らえられたレーナは、ルピナスを睨みつける元気もなく、会場外へと連れられて行った。



 そして騒ぎを見ていた貴族たちが散在した直後、ルピナスは王族専用の控室に、リリーシュによって通されたのだった。


 因みに、リリーシュの指示でキースは部屋に入ることは許されず、必要最低限の挨拶は終えたとして、控室の前で待機している。


「ルピナス久しぶりね! ふふんっ! 貴方が私に会いたいと思って、こんな席を用意したわ!」


 控室とは名ばかりの、豪華絢爛なその一室は、前世を含め、今まで見たどの部屋よりも豪華かもしれない。

 絵画やツボ、クッションやティーカップに至るまで、全て一級品で揃えられていることは明白で、ルピナスはいつもよりも神経を研ぎ澄ませてリリーシュの向かいのソファに腰を下ろしたのだった。


 それから手早く使用人たちがお茶を用意すると部屋の後方に待機し、同時にリリーシュが仮面を外したので、ルピナスは丁寧に頭を下げた。


「とても素敵なお部屋ですね。ありがとうございます。……王女殿下、ともうお呼びしても?」

「ええ、構わないわ。というか、もうお友達なんだからリリーシュって呼んでも良いのよ!」


 かぁっと頬を赤くして、言葉尻強くそう言い放ったリリーシュは、誰が見ても照れているのだと分かる。


 セリオンから、以前助けたことでリリーシュが友人になりたがっているということは聞いていたので、ルピナスは有り難くも王女の友達になることについては深く詮索することなく、目の前の照れた少女に微笑んだ。


(女友達が増えるなんて夢みたい……!)


「はい。リリーシュ様。大変嬉しいです!」

「そ、そう? そうよね! ふふ! ならこれからたくさんお茶会に呼んであげるわね! 暇なときは遊び相手になってあげても宜しくてよ?」

「それは大変楽しみです」


 俯いて「ふふふっ」と笑うリリーシュに、ルピナスは何て可愛い……胸をキュンキュンとさせながら、先ずは大事な話をしなければと「先程の件なのですが」と、話題を切り替えた。


「王家主催の舞踏会で問題を起こしてしまい、大変申し訳ありません」

「ルピナスが頭を下げる必要はないわ! 貴方の妹とその婚約者がやったことだもの。とはいえ、貴方の実家には、かなり影響が及ぶかもしれないけれど……」


 少しバツ悪そうに言うリリーシュに、ルピナスは間髪入れずに答えた。


「それは致し方ありません……! それに私は傷物として、家族には疎んじられてきましたので、その辺りはリリーシュ様には気にしないでいただきたいのです。むしろ、助けていただいて本当にありがとうございます! 正直とてもスッキリしました」

「……そう? それなら良かったわ! ふんっ! 私の大切な友人を傷付けるなんて、見過ごせないもの!」


(なんて友人思いな……それに可愛い……こんなに可愛いふんっ、を聞いたことない……)


 ときおり偉そうに鼻を鳴らすのだが、それがまた可愛い。

 ルピナスは口元がニヤけるのを抑えながら、その後リリーシュと様々な話をした。


 ときおり頭の片隅に、これから実家がどうなるのか、実家が傾いた場合、メイドのラーニャはどうなってしまうのか。

 そんなことを考えたが、それを口に出したのは、リリーシュと別れてから、キースと馬車に乗って帰路に就いたときであった。



「ルピナス、何か考え事か?」

「──えっ、と」


 公爵家の馬車は非常に乗り心地が良い。それでも微かにガタンゴトンと揺れる馬車の中、ルピナスはキースと今日あったことについて話していた。


 改めて謝罪と感謝を済ませ、これからのことで頭を悩ませていたルピナスは、キースに問われて上擦った声を上げる。


「その、レーナが王家主催の舞踏会で騒ぎを起こしたことで実家がどうなってしまうのかと考えていました」

「君を苦しめた家族を気にしているのか?」

「いえ。私はそこまで優しくありませんよ。以前お話ししたメイドのラーニャが、これまで通りのお給金をいただけるのかが気になって」


 そこでルピナスは、ラーニャの状況を掻い摘んで説明した。


 今後どうなるかは分からないが、裕福なことだけが取り柄のレギンレイヴ家が傾けば、まずしわ寄せが行くのは使用人たちなのは間違いないことから、ルピナスはそこだけが心配だったのだ。


「なるほどな。病気の弟がいて仕送りを……」

「はい。もしも使用人を解雇になったときに、直ぐに新しい職場に出会えるとも限りませんし……どうしたら力になれるかと……。まあ、まだ何も決まっていないのですが」


 控えめに笑って見せるルピナスに、キースは顎にやっていた手を膝の上に下ろした。


「それなら、いざというときは彼女のことは俺に任せてくれ。悪いようにはしない。ルピナスに親身になってくれたんだ、何か手伝わせてくれ」


 キースの言葉に「けれど……」と声を漏らしたルピナスだったが、ラーニャのことを思えば甘えるべきだろうと頭を下げた。


「ありがとうございます、キース様」

「ああ。……で、憂いはそれだけか? 他には?」

「他には……」


(実は、アイリーン様に会えなかったのよね……)


 セリオンにデートに誘われた件について、やはりアイリーンには事前に伝えようと思っていたルピナスだったが、どうやら騒ぎの最中か、もしくはリリーシュと控室にいる間に帰ってしまったらしいのだ。


(仕方ないわよね……また騎士団塔の連絡通路で会えるかな。会えなかったら手紙を書けば……うん、そうね)


 自己完結を済ませたルピナスは、ニコリと微笑んでキースに向き直った。


「いえ、ありません」

「そうか。それなら、少し話があるんだが」

「はい、何でしょう……って、何故隣に座るのでしょうか……?」


 僅かに頬を緩ませながら自身の隣に腰を下ろしたキースに、ルピナスの胸は激しく音を立てた。

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