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第四十二話 嫉妬とは

 

 王族自らが探していた女性──ルピナスに、これ以上アプローチをしようとする男性はおらず、続々とルピナスの周りからは人が引いていった。


 セリオンに対して気まずさはあるものの、困っているのを見兼ねて助けてくれたのだろうと、ルピナスは丁寧に頭を下げる。


 するとセリオンは、慣れた手付きでルピナスの手を取った。


「ここだとゆっくり話せないから、移動しないかい?」

「申し訳ありません。バルコニーにキース様が──」

「五分程度なら大丈夫さ。ほら、行こう」

「えっ、お待ち下さい……っ」


 セリオンは基本的に人の話を最後まで聞くし、余程のことがない限り無理強いはしない人間だ。

 だから、こんなふうに手を引かれてどこかへ向かうことになるだなんてルピナスは夢にも思わなかった。


(キース様に心配をかけてしまうかもしれないから、この手を振りほどきたいけれど……)


 魔術師のセリオンに対して、ルピナスは騎士見習いだ。いくら男女の差があっても鍛錬をしているのだから、全力を出せば振り解くことは出来ると思っていたのだが。


「……っ、いたっ」


 ──絶対に離さない。そんな思いが伝わるほど力が込められていたためか、振り解くことは叶わず、その代わりにルピナスの口からは掠れた声が漏れた。


 ちょうど目的地──キースと先程までいたのとは離れた位置にあるもう一つのバルコニーに到着したためか、セリオンはルピナスからパッと手を離す。


 バルコニーにいた先客は、セリオンの顔を確認すると、暗黙の了解で場所を移していた。


「済まない……痛かったね……」

「……いえ。それで、話とは何でしょう? 先程助けていただいたことは大変有り難いのですが、今日はキース様の同伴者として参加しているので、あまり時間は取れませんが……」

「ああ、分かっているよ。言いたいことは二つあるから、手短に済ませよう」


 そう言ってセリオンは、自身が事前に持っていたグラスをずいと突き出した。

 意図を理解したルピナスがコツン、とグラスとグラスの縁を合わせると、同時にセリオンが口を開く。


「一つ目はリリーシュのことだ。舞踏会の中盤、短時間だけこの会場に顔を出すらしいから、可能なら会ってやってくれないか?」

「王女殿下が……?」


(ということは、今日は仮面を付けていらっしゃるのね)


 ここアスティライト王国では、社交界デビューの年齢に満たない王族も、舞踏会などの社交場に一時的に参加することがある。

 所謂、今後のための練習だ。王族とはいえ人間なので、どれだけ一流の教育を受けていても、場馴れをしていなければ何か不手際を起こす可能性があるからである。


 しかし一方で、まだ社交界デビューを迎えていないため、公の場で顔を晒すには早いという理由から、仮面をつける習わしがあるのだ。


「ああ、君が来ると知ってから、毎日この日を待ち望んでいたよ」 

「そうでしたか……かしこまりました。それで、もう一つは何でしょうか?」


 また、あの我儘に見えて心優しいリリーシュに会えるのは、嬉しき限りだ。

 しかし、今はキースを放っている最中なので、あまり会話に時間をかけている暇はない。


「これは──話というより提案なんだが」

「はい」


(一体、どんな提案だろう)


 転生魔法を何故使ったのかという疑問は、未だにはぐらかされたままだ。

 だが、こんなに人が居て、かつ急いでいる状況でセリオンが転生魔法について話すわけはないと思っていたルピナスは、それ以上の衝撃はないだろうからも、完全に気を抜いていた。


「今度、一日だけで良い。私に君の時間をくれないか?」

「…………? と、言いますと?」

「デートをしてほしいんだ。もちろん、二人きりで」

「…………!?」


(デートって、どうしてセリオン様が私を……)


 デートの概念は理解している。今思えば、以前キースと街へ行ったことも上司としての思いやりではなく、デートだったのかもしれないが、今は一旦それは置いておくとして。


(前世では冗談で求婚されたことはあるけれど、デートには誘われたことなかったのに。一体どうして……)


 ルピナスが疑問を表情に浮かべていたことに気が付いたセリオンは、一瞬悲しそうに笑った後、いつもどおりの表情に戻った。


「デートを受けてくれるなら、そのときに()()()()について話すと約束するよ。ずっと気になっているだろうからね」

「……っ、それは本当ですか?」

「本当さ。……返事を聞いても?」


 どうしよう、とルピナスが考えたのは、何もセリオンのことだけを思ってではなかった。


 好意を真っ直ぐ伝えてくれるキースが少なからず嫌な思いをするのだろうかと思ったら、直ぐには返事が出来なかったのだ。


 それにもう一つ、友人のアイリーンがセリオンに好意を持っていると知っている手前、デートというのには抵抗があった。


(けれど、どうしてセリオン様が転生魔法を使ってまで私を生まれ変わらせたのか、どうしても知りたい。……知らなきゃ、いけない)


 だから、ルピナスは控えめにコクリと頷いた。


 キースには転生魔法についての話をするからと説明すれば良い。

 アイリーンには互いに他意がないことを事前に伝えるべきか、それとも他意がないのだからデートのこと自体を言わないほうが良いのか。それはまた後に考えようと、そう思って。


 いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべるセリオンに「また詳細は後日連絡するよ」と言われたことにも同じように頷くと、セリオンがくるりと背を向けた。


 そして慣れた手付きで、エスコートするため、手を差し出す。


「もう痛い思いはさせないから安心してくれ。キースのところまで送るから、行こうか」

「……はい。ありがとうございます」


 ルピナスがそっと手を取ると、セリオンは誰にも聞こえないような声でポツリと呟く。


「──フィオリナ。ようやく、ようやくだ」


 もちろん、その声はルピナスにも聞こえなかった。

 単純にセリオンの声が小さかったことと、どうして転生魔法を使ったのかという疑問が、今後解消されるということで頭がいっぱいだったから。


 だから、気配に敏感なルピナスは、このときばかりは気が付かなかった。



「あのお方と、ルピナス様がデート……?」



 バルコニーの入口あたりで咄嗟に隠れ、そう困惑気味にポツリと呟いた桃色のドレスの存在に。

読了ありがとうございました。

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