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第四話 前世の記憶を思い出す

本日もう一話更新します!

 

(何この記憶……誰の……っ。戦ってる……? 騎士……? ……そうだ……この記憶は……()だ……)


 そう自覚した瞬間、頭の中がパーンと弾けるような感じがして、その後すぐさま痛みは消えていった。


(そうだ……全部思い出した……私は……フィオリナだ)



 ──フィオリナとは、ルピナスの前世の名前だ。


 歴代初の女性騎士で、しかも貴族が殆どを占める騎士団において、平民という立場で実力だけでのし上がった。

 単純な力技では男性に劣るものの、持ち前のすばしっこさと相手の力をいなす剣さばきの技術で、騎士団の中で屈指の実力者だった。


(騎士の中でも花形と言われる近衛騎士団に配属されてから、王族を護衛中に死んでしまったのよね)


 西暦から逆算して、フィオリナとして死んだあと、すぐにルピナスとして生まれ変わったのだろう。


 フィオリナの記憶とルピナスの記憶が完全に混じり合わない不思議な感覚だったが、二つの人格はそれほど掛け離れていなかったので、混乱することはなかった。

 ルピナスは小さく息をふっと吐き出してから、ギロリと魔物を睨み付ける。


 フィオリナとしての記憶を思い出したからなのか、魔物は先程とは違い、少し怯えたような表情を見せた。


(どうして生まれ変わったのか。どうしてこのタイミングで記憶を思い出したのか。……うーん、分からない。それに、この傷は──)


 ルピナスが傷物令嬢として、家族から虐げられた原因である左肩をするりと撫でる。


 ルピナスとして生を受けたとき、生まれつきあったこの傷は、フィオリナとして生きていたときに付いたものに酷似している。

 前世の記憶を思い出すなんてことが起こったのだ、この傷も前世で負ったものだと考えてもおかしくはないだろう。


 焼けるような痛みを思い出し、この傷を負ったときの()()()のことを思い出し、ルピナスは小さく苦笑する。


(この傷は私にとって恥でもなんでもない。むしろ誇らしいのに……この傷のせいで虐げられるなんて……流石に嫌な気分ね。今なら家族や、元婚約者をギッタギタにできるけれど。……私利私欲のために剣を振るうのは、騎士としての矜持に反する)


 ルピナスとしての苦痛な人生を思い出し、一瞬奥歯を噛みしめる。


 フィオリナとしての記憶を取り戻す前は、自分自身でもこの傷を憎んでいた。醜いと思っていたし、家族から愛されないのも、傷物だから令嬢としての人生を歩ませてもらえないのも、ある程度は致し方ないと思っていた。


 ──けれど、今は違う。


(人からいくら醜いと思われようが、傷物だといわれようが、この傷は、騎士としての誇り)


 そう思ったら、苛立ちはすぐさま消えていく。


 そして考えること僅か数秒。よし、とルピナスは自身の両頬をバァン! と叩く。フィオリナとして生きていた頃は、気合を入れるときに良くこうやっていたものだ。


(考えるのは後! 今はこの状況を乗り切る──って、まずい!!)


 ルピナスが凄んだことで魔物は怯んだように見えたが、どうやらターゲットを変えたらしい。

 反対側から走ってきている男性はまだ距離があり、魔物のすぐ近くで倒れている人間に鋭い眼光を向ける魔物の元へ、ルピナスはとにかく走り出した。


(この身体、あし、遅い……! 鍛えてないんだから仕方ないけど、息もすぐに切れそう……!)


 フィオリナとして生きていた頃と今とでは、体の作りが違う。

 肉体が違うということだけではなく、前世では騎士としての務めを果たすため、毎日訓練に励んでいたから。

 虐げられていたことで一般的な令嬢よりも肉体労働はしていたとはいえ、前世とは比べられないほど軟弱だ。


(けどそんなことも言ってられない……! って、あの隊服、騎士のものじゃない!)


 よくよく見れば、反対側から魔物に向かって走ってきている男性も、倒れている男性の服も、騎士にしか与えられない騎士服を着ている。

 フィオリナが死んでから十八年の時が経っているので多少デザインは変わっているが、概ね変わっていないので間違いないだろう。


(おおよそ、倒れている彼は王都の警備中に突然現れた魔物に対峙して、怪我を負わされて倒れているのかな。あの走ってきている騎士の青年は、騒ぎを聞きつけてやってきたと)


 やっとのことで状況が飲み込めたルピナスは、今の自分で一番の全力疾走で駆けていく。 


(急げ……! 間に合え……!)


『騎士たるもの、恐怖に負けるな。自身の身を挺してでも護りきれ』


 それが騎士として生きてきたフィオリナの、そして今はルピナスの、曲げられない考え方だ。



「ギィィィィィ!!」

「……っ、まち、なさいよね……!!」


 襲いかかろうとする魔物が大きく鋭い爪を振り上げたとき、ルピナスは魔物と倒れている男性の間に割り込んだ。

 そしてすぐさましゃがみこんで、その男性の手元にある剣を拾う。


「緊急事態なので、お借りしますよ、と……!」


 十八年ぶりに、ズシリとした重さの剣を握る。前世では、片手で簡単に扱えていたそれも、今の身体では筋力が足りないのと、ブランクがあるため覚束ない。


 だから、ルピナスは剣を両手で握ることで重さを分散させると、振り下ろされた魔物の爪をまともに受けるのではなく、受け流すことで対応した。


(前世だったら、この程度の魔物なら一太刀で倒せたけれど、今は力を受け流すのでやっと……! けどそれじゃあ、勝てない……!)


 魔物の攻撃を受け流しながら、ちらりと横を見る。こちらに向かってきている騎士の男性は直ぐそこまで来ていて、美しいグレーの瞳と目が合った。


(……あれ? 何だか見覚えが……って今はそれどころじゃない!)


 とにもかくにも、倒れている男性を護りながら魔物を倒すことは、ただ戦うよりも難易度が高い。今の実力ではそれは達成出来ないと瞬時に判断したルピナスは、大きく息を吸い込んだ。


「私が魔物をどうにかします! 貴方は倒れている人を連れて距離を取ってください!」

「──なっ」


 そう言って、ルピナスは魔物と戦いつつ、倒れている男性から距離を取るようにして走り出す。

 魔物もルピナスのことを完全に敵視しているようで、勝手についてきた。


「おい待て! 君は逃げろ……!」


(久々の実践……丁寧に、慎重に、そして、全力で)


 集中しているルピナスに男性の声は聞こえていない中、ルピナスは魔物の一瞬の隙をついて背後に回る。

 それから低空飛行をしている翼に向かって剣を振りかざすと、魔物は耳を塞ぎたくなるような鳴き声をあげてから、ふらふらと地面に落ちた。


「ごめんね。一撃で仕留めてあげられなくて」


 ポツリとそう呟いて、ルピナスは魔物に剣を突き立てた。


(よし、これで敵はいない。後は)



 そして直後、ルピナスは倒れている騎士と、何やら見覚えがある騎士の元までパタパタと走ると、いきなり自身のワンピースをビリビリと破くのだった。

読了ありがとうございました。

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