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第二十四話 そのメイドはぽつりと呟く

 

 姉から婚約者を奪った妹のレーナは、フンッと馬鹿にしたように鼻で笑った。

 ドルトは、もはやそんなレーナに驚きはないようで、やや眉を顰めている。


 そんな二人を部屋の端で待機しているメイドのラーニャは、じぃっと見つめていた。


レーナ様(あの悪女)、ルピナス様が家を出ていかれてからすぐに本性を出したけれど、ドルト様(あの最低男)の呆れたような顔に気づいていないのかしら)


 レーナは本来、我儘で、人を馬鹿にすることをなんとも思わないような女だ。ドルトを婚約者にしたのだって、侯爵家の人間で、ルピナスには分不相応だと思っただけのことだ。そこに愛はなかった。


 しかしドルトは違ったのだろう。

 ルピナスが出て行ってから、やっと自由にレーナと愛が育めると思っていたのだが、そんな日はやってこなかった。


 だからだろうか。本来のレーナの姿を知ったドルトは表面上婚約者としてレーナに接していたものの、日に日にメイドたちにちょっかいを出すことが増えてきているのだ。

 ラーニャもその一人だったので、非常に迷惑だった。


「いや、本当なんだよレーナ。今日御前試合が行われていて、僕の親戚が見に行ったみたいなんだ。優勝者の名前はルピナス・レギンレイヴだって」

「そんなわけないじゃありませんか! お姉様が優勝? 名誉騎士? 人違いに違いありませんわ」


(それは確かに。ルピナス様は運動はそれほど得意ではなかったし、剣なんて一度も……)


 レーナの言い分に賛同するのは癪だが、ラーニャも人違いだろうと思った。

 聞き間違いか、もしくはルピナスの名を騙った何者かに違いないだろうと。


「いや、間違いないよ。髪の毛の色や瞳の色を聞いたらルピナスの特徴に当てはまっていたんだ」

「……ハァ。ドルト様、お姉様の特徴なんてどこにでもある平凡なものじゃない」

「そ、それもそうか。そう、だよね。物凄く美しくて凛とした女性だとも言っていたから、そんなはずは……ない、か」

「──は? 物凄く美しいですって?」


(ん? 美しい……? それは……)


 ドルトの発言に、ラーニャの中の、その人はルピナスではないだろうという考えは揺れる。


(……本当にルピナス様かもしれないわね。ルピナス様って、磨けば輝く原石だもの。派手な顔ではなかったけれど、顔が整っていたことは間違いないわ)


 ラーニャは二人にバレないようにうんうんと頷く。


 しかしそんなとき、パリン、という陶器が割れるような音に、ラーニャはハッとしてレーナたちを見つめた。


 どうやら、レーナがティーカップを床に叩きつけた音だったらしい。


「私以上に美しい女なんていないわよ!! それもあのお姉様よ!? 傷物のお姉様が私よりも美しいわけないじゃない!! あーー! 気分が悪いわ! もう帰ってちょうだい!!」

「わ、分かったから扇子で叩かないでおくれ!」


 そうして、急いで帰ろうとする最中、ドルトは床が濡れていることを失念していたのか、つるんっと滑って盛大に転けた。

 その時に紅茶がレーナの顔面にべしゃっと飛び、二人はほぼ同時に「ぎゃあっ」と声を上げる。


 ラーニャはそんな二人を見て、誰にも聞こえないような声でポツリと呟いた。



「ザマァみろ」



 ◇◇◇



 一方同時刻、第一騎士団の食堂では。


「ねぇ、ルピちゃん、本当に副賞これで良かったのぉ?」

「はい! 他に思い付きませんでしたし!」


 マーチスの問い掛けに、ルピナスは晴れやかな笑顔でそう答えた。


 ──現在、ルピナスを含めた第一騎士団の団員たちは、食堂で祝勝会を開いていた。

 もちろん、主役は御前試合で優勝し、せっかくの副賞に大量の食材と酒が欲しいと国王に告げたルピナスである。


「ルピナス最高!」「酒最高!」「やっぱりルピナスが最高ーー!」なんて言って、団員たちは完全に出来上がっている。

 コニーは既に潰れているようで、テーブルに伏せて眠ってしまっていた。


「けどあのときの王様の反応ったら笑えるわよねぇ」


 ほろ酔いなのか、うっとりした表情で優勝直後のことを思い出すマーチスに、ルピナスは「確かに」と笑いを漏らした。


『ここ数年副賞が地味でつまらんからキースを不参加にしたのに! 金や領地はいらんのか!? 派手なものを欲しがってくれ!!』


 なんて、一国の王様が言う台詞とは思えないだろう。


(お金はちょっと欲しいけど、国のために使ってほしいし、領地は管理できないもの)


 財源にも限りがあるのだから安く済んで良かったと思うのが普通だろうに、アスティライト王国の国王は少し変わっているようだ。


「ルピナス、隣座って良いか?」


 そんなことを思っていると、酒が入った瓶を持って現れたキースに、ルピナスは大きく頷いた。


「キース様お疲れ様です! はい、もちろんです!」

「失礼する。それと、改めて優勝おめでとう」

「ありがとうございます……!」

「いや~ん二人だけの空気作らないであたしも混ぜてよぉ! ルピちゃんおめでとおおお!」

「あははっ、マーちゃんありがとうございます!」


 ガバっと抱き着いてくるマーチスを、ルピナスは抵抗なく受け入れる。


(あれ、マーちゃんにはドキッとしない……)


 決勝戦の前、キースき抱きしめられたときは感じたことのない胸の高鳴りがあったというのに、どうしてだろう。

 ああ、そうか。きっと戦いの前で高揚していたからだったのか、とルピナスが自己完結をすると、「マーチスさっさと離れろ、吊るすぞ」とキースが引き剥がしてくれたところだった。


「いやぁ〜ん! いったぁ〜い!」


 いつの間にやら頭に三段重ねのたんこぶが出来たマーチスをルピナスが心配そうにしていると、そんなルピナスにキースが話し掛ける。


「いつものことだ。マーチスのことは気にしなくて良い。ところでルピナス。君は酔っていないように見えるが酒が強いのか」

「いえ、一口も飲んでいなくて」

「何故? 君の祝いなのに」

「あーえっと、今まで飲んだことがないので、やめておこうかと」


「皆さんの介抱もありますし」とルピナスは続ける。


 前世では酒豪で酔い知らずのルピナスは、介抱だってお手の物なのである。

 ルピナスになってから飲んだことがないので、不安というのも多少あるが。


「主役の君がそんなことを心配しなくて良い。あいつらは寝かせておけば良いから、そこを心配しているなら一口どうだ」

「あらあらまあまあ! 女の子にお酒をグイグイ勧めるなんてルピちゃん逃げてぇ!! この男獣よぉ!」


 だいぶマーチスも酔いが回ってきたのか、顔が真っ赤になっている。


(けど発言は普段とそう変わらないような……)


 つまりマーチスは普段から酔っ払っているのと大差がないということなのか。


 ルピナスはそんなことを考えながら、マーチスの首根っこを掴もうとするキースに、「足のこともありますので!」と強めに言い放った。


「──そうだな。怪我をしているから今日はやめて、また今度にしよう。失念していた、悪かった」

「いえ、お気遣いありがとうございます!」

「そういえば怪我といえばぁ、式典が終わってからのキースの行動ったら、ぶぶっ! ルピちゃんもびっくりしたわよねぇ」

「そ、その話はやめましょうマーちゃん……!」


 しかしルピナスの制止は届かず、しかもキースも助け舟を出してくれず、マーチスは御前試合の最後にある式典が終わってからのことを、ゆっくりと話し出すのだった。

読了ありがとうございました。

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