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第二十話 キースを知る機会

 

 それから二人は適当な店に入って昼食を摂った。


 まるで揃えたように同じ紺色の服を着ているからか、店主に「仲の良い夫婦だね〜」なんて言われたときは反応に困ったものだ。

 キースの面子に関わるために必死に訂正するルピナスに、キースは可笑しそうに口角を上げた。



 食事までご馳走になり、本当に頭が上がらないと思いつつ、ルピナスはキースの隣を歩いて街を見て回る。


(昔から密かに将来が楽しみだったけれど、本当に素敵になって……そりゃあモテる。……あ、想い人がいるからモテても意味無いのか)


 しかし、それならこの状況はどうなのだろう。

 想い人がいる中で、二人で出掛けていても良いのだろうか。


(まさかキース様はそういうことを考えていない? 確かに私のことは部下の一人だとしか思っていないだろうけれど、勘違いされてはキース様に申し訳無さ過ぎる)


 どこで誰が見ているか分からないし、念には念を入れた方が良いだろう。

 そう思ったルピナスが徐々に距離を取って後方に下がると、無意識に身に染み付いた護衛騎士のときの癖──適度な距離を保ち、薄く気配を消す。


 するとピタリとキースは足を止めた。


 続いてルピナスが足を止めると、キースはくるりと振り返って「ははっ」と声を上げて笑う。


「またその距離の取り方。護衛するつもりか? 騎士団長の俺のことを」

「……つい癖っ、もあるけどそうじゃなくて、キース様の想い人に勘違いされては大事だと思いまして……!!」


(危ない危ない。けれど、こんなふうに声を上げて笑ったキース様は、生まれ変わってから初めて見た。嬉しいな……)


 しかし、そんなキースの表情は、直ぐにくしゃりと歪められる。

 苛立っているというよりは、切なそうなその表情に、ルピナスは何かまずいことを言っただろうかと額に汗をかいた。


「……なるほど。そういうことか」


 そう言うとキースは、人の流れに逆らってルピナスの目の前まで歩く。

 切なげな表情のまま、今すぐに泣き出しそうなその声に、ルピナスは何も言えなかった。



 ──『俺の好きな人は、もう死んでいるんだ』



 ◇◇◇



 衝撃の事実を聞いた後、キースはすぐにいつもの様子に戻ったように見えた。

 その人が亡くなってから時間が経っていて、切り替えができるようになったのか、それともルピナスに気を遣わせまいとしたのか。


 どちらにしても、変に気遣うのはキースにとって喜ばしいことではないだろう。 


 ルピナスはそう思って、あまり気にする素振りは見せずに、街を見て回った。


 雑貨屋や本屋はもちろん、騎士である二人の相棒と言える剣を見るため、武器屋もいくつか回っていると、いつの間にやら日が落ちていたのだった。



「キース様、今日は誘ってくださってありがとうございました! 大変楽しかったです……! それに改めて、食事に洋服も、ありがとうございます」


 ガタゴトと馬車が揺れる中、騎士団塔に戻ってからではゆっくり話せないかもしれないと、ルピナスは少し早口にそう言って頭を下げる。

 向かい合わせに座るキースの横にある洋服や靴は、間違いなく宝物だ。


「……俺が勝手に買ったんだから気にしなくて良い」

「気にしないのは……流石に無理かと……」

「…………それなら、今度の御前試合では、第一騎士団の人間として、恥じないように戦ってくれ。それで十分だ」

「それはもちろんです……! 推薦していただいたお二人の顔に泥を塗るわけにはいきませんので」


 御前試合はキース率いる第一騎士団と、近衛騎士団、辺境地に滞在している第二騎士団から選出された騎士に出場権が与えられる。


 今年は辺境地での任務が多忙らしく、第二騎士団は参加しないと事前に通達が来ていた。

 つまり第一騎士団と近衛騎士団だけでトーナメントが行われるのだ。


「そういえば、近衛騎士の彼はその後どうなったのですか?」


 ふと気になって、ルピナスはそう問いかけた。


 以前、ルピナスはアイリーンと友人になった。

 そのとき話した際、近衛騎士の処遇がどうなったのだろうという話にもなったのだが、当時はまだはっきりとした処罰が下っていなかったのである。


 一応当事者であるルピナスは、どうなったのかと密かに気にしていたのだ。


「半年間給与無し。三ヶ月近衛騎士団塔内の共用トイレの清掃。被害者へ誠心誠意謝罪すること。次に何か問題を起こしたら騎士資格の剥奪だ。民を守るべき騎士のあの愚行は、本来なら騎士の資格が剥奪されていてもおかしくないが、君が馬鹿正直に雑巾のことも話したから、多少罪が軽くなったみたいだ。まあ、本人はこってり絞られて相当反省しているらしい」

「そうでしたか! ……それなら、もう変なことはしないでしょうし、アイリーン様が安心して働けるなら何よりです」

「アイリーン?」

「ああ、アイリーン様はそのメイドの子の名前で、つい先日お友達になりました! 女友達を作るのが夢だったので、一つ叶いました」

「…………」


 前世から女友達を作ることが夢だったルピナスが、叶って嬉しいと弾けるような笑顔で言うと、そんなルピナスをキースがじっと見ていた。


「キース様、どうかされました?」

「……いや、昔、同じようなことを言っていた人がいるから驚いただけだ」

「えっ」


 ──もしかしてそれは、私だろうか。 


 キースの言う昔が何歳の頃を指しているかは分からないが、ルピナスはわりとどうでも良いことでもキースにはよく話していたので、その可能性は大いにあると思った。


(そんな些細なことまで覚えてくださっているなんて……さすがキース様は聡明でいらっしゃる)   


 しかし反応することは出来ないルピナスは、「そうですか」と当たり障りのない返しをする他なかった。


 そんな中、窓からの景色を見たルピナスは、そろそろ騎士団塔に着くことに気が付く。


(この時間が終わるのが、少しだけ寂しいな)


 フィオリナであることを告げれば、今日のように二人で過ごす時間は増えるだろう。キースのことを弟のように愛おしく思うルピナスにとって、それは至福の時間に違いない。


 けれど今日、ルピナスはキースの儚い恋愛事情を知ってしまった。

 愛する人がこの世に居ない上に、フィオリナではその人の代わりにはなれない。だというのに、正体を明かして、過去の辛い記憶を思い出させるなんてあってはならないのだ。


(うん。気を引き締めよう。フィオリナだってバレないように)


 ルピナスが何度目かの決意を胸に外を眺めると、キースが口を開いた。


「ルピナス、御前試合、頑張れ。君の活躍を期待している。だが決して無理はするなよ」

「……っ、はい! 私は……キース様の部下になれて本当に幸せものです」

「君は──。いや、何でもない。御前試合はトーナメント制で試合の開始時間には厳しいから、遅れないようにな。……もし、何かトラブルに巻き込まれたら可能であれば俺を呼べ。良いな」

「はいっ!」



 ──そう、キースからきちんと釘を刺されていたというのに。



 ◇◇◇



「誰か私を助けなさぁぁい!」

「えっと、そのようなところでどうされました?」


 ルピナスはまたもや、トラブルに巻き込まれることになる。

読了ありがとうございました。

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