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第十七話 アイリーンという少女

 

 結論だけ言えば、ルピナスは御前試合に出場出来ることとなった。

 マーチスが不参加となったため代わりに誰を参加させようかと悩んでいたところ、騎士見習いに入ったルピナスが相当の実力者だったので、キースとマーチスは迷わず決めたらしい。


 御前試合は出場枠が決まっているので、選ばれなかった騎士から批判の声が上がるのではと思ったが、それは一切なく、「近衛騎士に一泡吹かせたルピナスの実力をもっと見せつけてこい!」と背中を押される始末だった。

 もちろん、コニーも全力で応援してくれるらしい。



「まさか、こんなことになるなんて」


 少しの驚きと、胸が高鳴るほどの高揚感。強者と手合わせできる貴重な機会をもらえることに喜びを感じながら、ルピナスは今、一人で厩舎に来ている。


 御前試合の十日前ということで、一時的に騎士見習いの激務を減らしてもらい、体調を整えたり鍛錬に励む時間を作ってもらっているのだ。


 先程まで複数人と手合わせをしていたのだが、全員休憩するというので、ルピナスは休憩を兼ねて馬たちとふれあいに来ていた。


「ふふ、ラルフにジョニー、皆可愛いね〜どこまでいけるかは分からないけれど、頑張るから応援しててね!」


 御前試合はトーナメント制だ。馬上戦では危険が伴うとして、地上で一対一、木刀で行う。

 国を守る騎士たちが実戦以外で怪我をしていては元も子もないからである。


 年に一度だけ行われ、一般観客も入る御前試合はそれはそれは盛り上がる。

 アスティライト王国の中でも大きな催物の一つと言っても良いだろう。


(ルピナスの身体は体力があまりないから、出来るだけ短期決戦をしないと。連戦になると不利だもんね)


 馬と触れ合っていても、御前試合のことを考えるとどこか落ち着かない。


 本来の仕事を他者に協力してもらっていることもあるし、とりあえず鍛えなければ、とルピナスは馬たちに別れを言って騎士団塔の周りを走り始めた。



 すると、近衛騎士団塔の近くに来たときだろうか。


 人影が見え、近衛騎士だった場合はまた面倒なことになるかもしれないからとルピナスが踵を返そうとすると、鈴が鳴るような声で「あの……!」と声をかけられたのだった。


「あっ、貴方は……この前の」

「騎士様……! 以前は助けていただいてありがとうございました……! あ、そういえば名乗っていませんでしたね。近衛騎士団塔内のメイドをしております。ラステリオン伯爵家の三女、アイリーン・ラステリオンと申します」


 アイリーンと名乗る少女は、優雅なカーテシーを見せる。近衛騎士が愛人になれというだけあって、大変見目麗しい。


 真っ白な肌に埋め込まれたような大きなエメラルドの瞳、唇はほんのりと桃色に薄付き、鼻は少し小さめで、顔なんて見たことがないくらいに小さい。

 仕事の関係か髪の毛は纏めているものの、プラチナブロンドが美しく、メイド服が浮いているように見えるほどだ。


(ここまでの美女は前世でも見たことないかも。って、ハッ! 私も名乗らないと!)


 伯爵家の令嬢に挨拶をさせて、自分が棒たちなんてあり得ない。

 ルピナスは見習い用の騎士服を着ているためカーテシーとしては見栄えが悪いが、致し方ないだろうと膝を曲げて頭を下げる。


「騎士見習いのルピナス・レギンレイヴと申します。ご無事で何よりです」

「ルピナス様とおっしゃるんですね! レギンレイヴといえば……確か子爵家の?」

「はい。そのとおりです。社交場には出ておりませんでしたので、お初にお目にかかります」


 ルピナスがそう言うと、アイリーンは一瞬だけ何かを思い出したように目を見開いた。


(きっと、私が傷物令嬢って呼ばれている女だって分かったのね)


 評判を気にする貴族だ。気まずそうに去って行くだろうか、それともまじまじと見てくるのだろうか、はたまた同情の瞳を向けられるのだろうか。


(どれでも仕方ないか。……けど、大丈夫よルピナス。私にはもう、味方はラーニャだけじゃないもの)


 キースやマーチス、コニーなどの第一騎士団の人たちのことを思い返し、ルピナスはアイリーンから視線を逸らすことはない。


 しかしそんなルピナスの杞憂はどこへやら。アイリーンはルピナスの両手を束ねるようにキュッと掴むと、ずいっと顔を寄せ、頭を下げる。


「この数日間、ずっとお礼が言いたかったのです! けれどなかなか勇気が出せず、直接伺うことが出来ずに申しわけありません……!」

「いえ、大したことはしておりませんので、頭を上げてください……!」


 ルピナスの言葉に、眉尻を下げながらゆっくりと顔をあげるアイリーン。


(なっ、なんて可愛らしい……私が男なら絶対に惚れてる)


 それにしても、この態度はどういうことだろう。傷物令嬢だということを一切気にしていないような態度に、知らないふりをしてくれているのだろうかとルピナスは少しだけ居心地が悪い。

 気を遣っているのならば申し訳ないので、自身から「傷物令嬢という言葉はご存知で……?」と問いかけると、ルピナスの手を掴むアイリーンの手が一層強くなった。


「存じております。しかし今、何一つ関係ないですわ……!」

「そ、そのとおりです」

「むしろこんなに格好良いルピナス様の傷ならば、愛でたい所存です!!!!」


(……めで!?)


 見た目も相まって大人しそうな令嬢かと思いきや、圧が凄いのでルピナスはたじろいでしまう。


「あああ! 申し訳ありません……! 私、普段はわりと大人しいのですが、偶にスイッチが入ったように興奮してしまって……!!」

「そう、なんですね。驚きましたが、とても嬉しかったです。ありがとうございます」


(──関係ない、か。それはそうかもしれないけど、それを行動に出せるって、素敵な人)


 貴族令嬢とこんなふうに話すのも初めてな上、こんなに肯定してもらえて嬉しくないはずはない。


(これ、もしかして、前世で叶わなかった夢が一つ叶うんじゃ?)


 ルピナスは前世で、女性の友人がいなかった。騎士になるまでは友達を作る暇なんてなくて、騎士になってからは周りに話すような女性がいなかったからだ。


 アイリーンだって、あのとき助けなければこんなふうに話す機会はなかっただろう。


 だからルピナスは、思ったことを口に出してみることにした。


「あの、アイリーン様とお呼びしても?」

「もちろんです。ルピナス様! あの、良ければ──」

「もし、良ければで良いのですが──」


「「私とお友達になっていただけませんか?」」

読了ありがとうございました。

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