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第十三話 トラブルに首を突っ込む

日間ランキング20位ありがとうございます!

皆様のおかげです……!

 

 騎士見習いとしての生活は、早くも五日が経った。

ルピナスが助けた団員は既に退院したようだった。


 ルピナスの一日といえば、早朝に起き、まずは騎士たちの訓練に参加する。それが終われば急いで朝食を作り、食べ、洗い物を済ませ、騎士団塔内の清掃をする。


 そうするといつの間にか正午になろうとしているので、また急いで昼食準備等をし、午後からは騎士たちの雑務を手伝うのが殆どだ。


 ときには王都の巡回に着いて行ったり、手合わせをしてもらえることもあるが、あまりにバテると夕飯作りに支障をきたす為、ペース配分が大切である。


 かくいうルピナスも、五日目でようやくペース配分を掴めたところだった。



「コニー、今日の掃除の場所ってどこだっけ?」

「訓練場のロッカールームは昨日したから……今日はながーい廊下だよ」

「わあ、今日は地獄の日なのね」


 ルピナスの身体は、貴族令嬢にしては体力がある方だ。実家で虐げられ、使用人の仕事をしていたからである。


 しかし騎士見習いとしてはまだまだであり、昨日までは朝起きたら身体がバッキバキであまり使い物にならなかった。

 とはいえ、騎士見習いを始めたばかりの者としては、むしろ動けている方だと団員たちは口にしているのだが。


 そして今日は、騎士団塔内の全廊下の日だった。新人騎士は午前中に任務が入っているため、ルピナスとコニーの二人で全てを清掃しなければならない。


「ま、嘆いても終わらないし、さっさとやっちゃおう! それで余った時間、手合わせしようよ!」

「う、うん! けどルピナスと手合わせも、それはそれで体力が……いや、何でもない……!」


(……? コニーどうしたんだろう?)


 いくら体力や筋力が落ちているとはいえ、前世が騎士だったルピナスとの手合わせは、神経がすり減ってそれはそれは疲れる。


 そんなことを露も知らないルピナスは、一瞬にしてげっそりとした顔になるコニーを心配そうに覗き込んだ。


 するとコニーは、「うわぁっ」と声を上げて尻餅をつく。


「ど、どうしたのコニー!!」

「顔が近いよ!! ルピナスは美人なんだから、もう少し距離感に気をつけてね!」

「えっ、……ご、ごめんなさい……?」


 騎士団に来てから、ルピナスの容姿について、良い意味で指摘されたのはこれが初めてではなかった。


(やっぱり、ルピナスってかなり美人……よね?)


 見習い騎士になってからは激務なのだが、実家のストレスがないことと、疲れているためか朝まで爆睡するので隈は消え、毎日お風呂に入れることで体は清潔で、髪の毛も美しくなった。  


 特にマーチスからもらった美容商品は効果覿面で、化粧をしているわけではないのに、ルピナスは見違えるほどに美しくなったことは第一騎士団で話題になっている。


(多分元から綺麗だったのね。簡単なお手入れや睡眠でここまで変わるなんて。フィオリナのときは本当に平凡な顔だったから、鏡を見るたびにびっくりしちゃう)


 妹のレーナのような派手さはないが、ルピナスは透き通るような、そしてどこか儚さも兼ね備えた美人だ。


 この姿で家族に会っても、一瞬ならば気づかれないかもなとルピナスは思いながら掃除をしていると、ようやく長い廊下の半分を拭き終わったところだった。


「それにしても、昨日のルピナスの料理、皆に好評だったね!」

「コニーや他の皆が手伝ってくれたおかげだよ」

「味付けは全部ルピナスだったでしょう? 本当に美味しかった! 正直これからの味付けは全部ルピナスに任せたいよ」

「そんなに? ありがとう!」


 前世は平民だったこと、見習い騎士として料理をしていたこと、そしてキースを護衛しているとき、公爵邸の美味しい食事にありつけたことで、ルピナスの料理の腕は中々のものだ。 


 コニーだけではなく、普段食事は何でも良いと豪語していたキースさえも「美味い」と言っておかわりしていたのは記憶に新しい。


「掃除や洗濯も丁寧だし、雑務もテキパキこなすし、訓練だってついていけてるなんてルピナスは凄いよ! というか、皆言ってるけど、剣術だけなら、もう団長と副団長の次くらいに凄いんじゃない? 自慢の同期だよ〜」

「コニー……貴方って人は……良い子過ぎない?」


(まあ、キース様とマーちゃんの実力はまだしっかりと見たことがないけれど、コニー以外にも三番目に強いと思うって言われたし、多少自惚れても良いのかな)


 ルピナスは内心そう思いながら、ルピナスとしての人生も、フィオリナとしての人生も、全て役に立っていることが何より嬉しかった。



 そんなふうにコニーと話しながらも手を動かし続けて二時間経った頃だろうか。


 ようやく最後の場所──連絡通路に差し掛かったルピナスは、キースからの忠告と過去の経験を思い出す。


(近衛騎士との共有部分だから、あまりここには近付きたくはないけど、これも仕事だしね)


 前世では、騎士見習いの頃も騎士に昇格してからも、近衛騎士には変に絡まれたことがある。


 平民だとか女だとか、変えようがないことを得意げに愚痴愚痴と言われたものだ。

 フィオリナとしては勝手にしてくれという気持ちが強かったことと、当時フィオリナの実力は近衛騎士団にも轟いていたので、あちらが度を越すことがなかったのだが。


 毎回大事になることはなかったけれど、面倒だったのは確かだ。


(今会ったらコニーも標的にされるかもしれないし、キース様にも忠告されたし、人が居ない今のうちに早いこと掃除しちゃいましょう! ……って、ん?)


 しかし、そんなルピナスの意気込みは早々に叶わなくなる。


 連絡通路の少し奥──近衛騎士団塔から、高圧的な男の声と怯えたような女の声が聞こえたからだった。


「ねぇコニー、あれって……」

「近衛騎士と、メイドの女の子だね……何か揉めてるのかな?」


 第一騎士団は家事雑用は見習い騎士と新人騎士で請け負っているが、近衛騎士団は家事雑用をこなすメイドが配置されている。


 というよりは、実のところ、メイドを雇っていないのは第一騎士団くらいだった。

 前世で騎士だった頃よりも昔、先代の騎士団長が極度の女嫌いでメイドはいらないと国王に進言し、何故か今の今まで根付いてしまっているのである。


 現在近衛騎士に絡まれているのも、メイドで間違いないだろうと、ルピナスはじぃっと様子を観察した。


「声は控えめだけど、ものすっごく嫌がってない? あの子。多分相手が近衛騎士だから強く言えないんじゃあ」

「あっ、男の方が何か言ってるよルピナス!」


 ルピナスとコニーは、揃って前のめりになって聞き耳を立てた。


 ──「お前のせいで服が濡れたが、俺の愛人になれば許してやると言ってるんだ! 確か、以前の水害によりお前の実家は困窮していたな? 俺の愛人にならないなら、父に頼んで圧力をかけて実家を潰すぞ!!」


「……あの男、なんてクズなの」

「さ、流石に可哀想だから誰か呼んでくるよ! ルピナスはここに居てね!? 絶対関わっちゃ駄目だからね!?」

「けれどコニー。今ほとんどの騎士は任務で出払って──」

「それでも! 一人くらいいるよ! だからルピナスは無茶しないこと! 分かった!?」


 ルピナスは普段、楽しそうに剣を握る。まるで初めて剣を習い始めた子供のように。いくら疲れていても、鍛錬に手を抜かないことを、コニーは知っている。

 それは戦闘狂だからではなく、自己鍛錬が好きなのだろうと、剣を扱うことが好きなのだろうと、そうコニーは解釈しているし、実際それは合っていた。けれど。


「ルピナスのあんなに怒った目、初めて見た……急がなきゃ!」


 何か大事になるかもしれない。コニーは直感的にそう感じ、誰か頼りになる騎士は居ないかと全力で走った。

読了ありがとうございました。

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