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【番外編更新中】耽美令嬢は不幸がお好き ~かわいそかわいい従者を愛でながら、婚約破棄して勘違い男たちにお仕置きします~  作者: 神野咲音
第一章

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ヴィクトリアの無力

 どうやって屋敷に帰ったのか、記憶が曖昧だ。


 ただ、ユージェニーがずっと付き添ってくれていたことは覚えている。


 気づいたら応接間で父と座っていて、事の顛末を話してくれたユージェニーが退出するところだった。


 ヴィクトリアの父、アルフレッド・リーヴズ・アイラは、公爵家の厳格な家長でありながらも、父としてヴィクトリアを心から愛してくれている。今は領地にいる母とも仲睦まじく、ヴィクトリアが思う理想の夫婦だった。


 ヴィクトリアが拾ったリアムのことも、厳しくも優しく見守り、育ててくれた。


 つまり父は、今回のギルバートの暴挙に、とてつもなく怒っていた。



「ヴィクトリアから報告は受けていたが、まさかここまで愚かな行動に出るとは」



 アルフレッドの声は震えている。



「お父様……」


「お前は何も間違っていない、ヴィクトリア。我が家の従者であるリアムを、あれは無理強いして連れて行った。王族としての権利を乱用したばかりか、暴力で脅すなど……!」



 それだけでも許せんのに、と父は続ける。



「アイラの事業を停止させた、だと? 第三王子如きにそのような権限があるはずがない! だが下の者は、王家に従えと言われれば従わざるを得ないだろう」



 ヴィクトリアが進めていた植物園の事業は、許可が出た時点で既に手を離れ、アルフレッド主導で始まろうとしていた。


 それが今日になって突然、土地が買い取れない、という話になった。正規の手続きを踏んで進めていた話が、急に止まったのだ。買おうとしていたスラムの土地は王都の一角で、行き場のない貧しい者たちが勝手に住み着いていた場所だから、王宮の役人たちはどちらかというと喜んでいたはずなのに。


 訳が分からないまま屋敷に戻って、その理由を知ったアルフレッドはこうして怒り狂っている。



「わたくしが……、もっとうまく立ち回れば良かったのでしょうか。殿下の横暴を許してしまっていたから……」


「常識で物を考えられる人間は、このようなことは起こさない。馬鹿の考えることを想像できなかったからといって、お前が落ち込む必要はないんだよ、ヴィクトリア。それはお前が、賢く正しいことの証左しょうさなのだから」



 聞きようによらずとも物凄く不敬なことを言っているが、今のヴィクトリアは気づかない。悄然しょうぜんと俯く肩を、父が優しく叩く。



「よく聞きなさい。リアムのことも、植物園のことも、陛下に話を通してみよう。リアムがいない以上、お前には侍女と護衛を付けなくてはならない。しばらくは学園以外はどこにも行かず、屋敷で大人しくしていなさい。ヴィクトリアが焦って行動を起こせば、それこそ向こうの思うつぼだろうからな」


「でも……、植物園はともかく、リアムが血の契約を交わしてしまっていたら、わたくしたちにはどうすることもできません。王族の契約を解消するには、それ相応の理由が必要ですわ」



 リアムは確かに無理やり連れて行かれた。だがあの場で、脅されたとはいえ、リアムは自分からギルバートの従者になると口にした。双方の合意の下、主従関係を結んだのだと判断されるだろう。


 そうなれば、たとえ国王であっても、リアムを解放することは難しくなる。


 アルフレッドは少しだけ沈黙して、優しい声で言った。



「やれることはしよう。だから、ヴィクトリアは待っていなさい」



 その言葉が、リアムを取り戻すことはほぼ不可能だという意味だと、ヴィクトリアは知っていた。






 リアムがおらずとも、ヴィクトリアの学園生活は大きく変わらなかった。変わったところといえば、リアム一人が担っていた従者としての仕事を、侍女一人と護衛二人が分担することになったことか。


 彼らは随分と周囲を警戒していて、ヴィクトリアの傍を片時も離れなかった。


 教師も学生たちも、リアムがヴィクトリアではなくギルバートについていることに怪訝そうな顔をしたが、ヴィクトリアが何も言わないので口を噤んだままだった。


 ただ、親しい人たちにはヴィクトリアの不調が伝わっていたようだ。普段通りを心掛けていたつもりだが、ユージェニーなどにはひどく心配されてしまった。


 確かに父が言う通り、ヴィクトリアは何もしない方がいい。リアムを取られたことが、こちらにとって不利益になるのだと思わせてはいけない。こちらが常に上にいるのだと示さなければ、ヴィクトリアの目的である婚約解消には不利になる。ギルバートがアイラ公爵位を名乗るには不適切だと、突き付けなければならないのだから。


 ギルバートとポーラに従うリアムは、ヴィクトリアについていた時のように暗い顔をしていない。ただ、何も映さない瞳で、人形じみた感情のない顔で、そこにいるだけだ。


 それを見るたびに、ヴィクトリアの胸が軋む。けれど彼を助けることは、できない。


 自分の無力さに吐き気がした。


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