五踏目『怒りで地団駄踏んだら、イビリババアがおちましたわ』
なんかよく分からない声が聞こえた次の日、私は再びイビリ―先生の授業を受けるべく重たい足を引きづりながら、授業の部屋へと向かうことにしました。
「フミ様ぁ、気持ちは分かりますが、行かないともっと怒られちゃいますよぅ」
ネムが、一人慌てながら私を促します。
バタバタと動き回るので、ネムの胸についているスライムがぼいんぼいん跳ねています。
いや、多分これを見た方が絶壁先生、もとい、イビリ―先生怒りますわ。
「ネム……間違えた。駄肉胸メイド、落ち着きなさい」
褐色のメイド、シクスが物静かにナイフのような言葉を突き刺します。
「シクスちゃん! 間違ってないよ! ネムが正しい方だよぅ!」
シックスは、筋肉絶対主義であるのでネムを度々馬鹿にします。
いや、シックスもかなりの平野なので嫉妬もあるのかもしれません。
「フミ様……もとい、筋肉女神様、どうされました?」
「シクス、人を変な女神にしないで」
シクスは出会った頃、私の胸を見てからほっとない胸を撫でおろし、そして、地団駄を見てから、崇拝するようになりました。解せぬですわ。
二人のメイド。
勿論、私が田舎の実家に居た頃に比べれば信じられない程の贅沢ですが、救国の乙女としては二人はあまりにも少なすぎると友人に言われましたわ。
別にそれ自体は構わないのですが、彼女たちが私にあてがわれたことで、随分と不当な扱いを受けているらしいのですわ。
一度、王様に私の担当を外すように進言しようかと提案したら、ネムは優しく微笑みながら首を振り、シクスは無表情で滂沱の涙を流しながら拒否されました。
変な二人ではあるけれど、私にとっては救いの存在。
今日も彼女たちがいるから、私は頑張れます。
「いいえ、なんでも。では、行ってきますわ」
「「行ってらっしゃいませ、フミ様」」
そして、イビリ―先生の教えを受ける部屋まで辿り着き、私は二度深呼吸を行い、ドアをノックしようとします。その時でした。
「全く! あの田舎娘は、牛からでも生まれたのかしら! いつまで経っても弱音を吐かなくてかわいくないわあ!」
イビリ―先生の声でした。
「本当に、厄介ですわね」
イビリー先生の声に応えているのはメイド長のようでした。
「まともに勉強も出来ない癖に、何を張り切っているのだか!」
まともに授業しない癖に何を言っているのだか。
「田舎のブタはさっさと田舎でブタとよろしくしてればいいのよ!」
都の嫌味ババアは独り寂しくしてればいいのでは。
「汚い小娘が!」
汚い言葉。
「心労でどんどん胸が痩せていくわ! なんか昨日よりへこんでないかしら?」
心労じゃないだろうがですわ。でも、もしかしたら胸がへこんでるのは私のせいかもしれません。ごめんあそばせ。
「メイド長、あの小娘のメイド、一度私の元に連れてきなさいな。この子達も腹が立つのよ。無駄に胸があってモテるメイドも、褐色の癖に男共にモテてその上嫌そうにしているメイドも。二人ともイビリ倒して、その顔歪めて、モテなくてここにいられなくしてやるわ」
……は?
どん!
「ん? 何か聞こえたかしら?」
私の事は良いですわ。
どん!
「大砲のような音。訓練ですかね?」
けれど、あの子達のことは別ですわ。
どん!
「魔法じゃない? ちょっとなんか揺れてないかしら?」
腹立ちますわ。
どん!
「も、モンスターじゃないですか!? 大型の!」
デスですわ。
どんん!
「この入り口から音がしない!?」
デスですわ!
どんんんんんん!
「なななななななななにいい!?」
バカなゲス共デスですわ!
私は気合と共に怒りをぶちまけます!
「ふんんぬううううううううううううううううううう!」
「禁忌の力『憤怒』を行使します」
何か聞こえましたが、知るかですわ。
どんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!
私の渾身の地団駄が床を打ちますわ。
そして、意を決して私が部屋に飛び込もうとすると、地面が割れましたわ。
そして、割れた地面に扉が吸い込まれましたわ。
そして、その先にいたメイド長と、イビリ―先生も真っ逆さまに落ちていきますわ。
下は、騎士団の皆様が訓練前なのか集まっていましたわ。
イビリ―先生はやっぱり臭かったのか皆に避けられ、脳天から突き刺さって、スカートがひっくり返り中身ぶちまけて、騎士達からひかれていますわ。
ああ、スッキリ、ですわ。
です、が、
私が視線を戻すと、私が地団駄踏んだところから真っ直ぐに大きな割れ目。
そして、その割れ目は壁に広がり、目の前には城下町が。
部屋がぶっ壊れましたわ。
そらもう、ぼっかーんと。
何故、ですわ。
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今日いくつか連投し、第一部完結までは毎日更新の予定です。