二踏目『私の足を踏んだら、嬉しそうにしてやがりましたわ』
また、そのナルシス王子のご両親、つまり、王様と王妃様との思い出も忘れられません。
お二人とは、最初にお城を訪れた際に少し離れてではありますが顔を合わせたのが、初対面で、その時は、『救国の乙女に心からの感謝を~』とか、『この国の力となってくれることを期待している』とか、周りの偉そうな人たちに囲まれながら、穏やかな微笑みを浮かべ話していらっしゃったのを覚えていますわ。
そして、二回目は、ナルシス様の『目が! 目がぁああああ!』事件のあとでした。
王様に呼び出され、私は王の間にやってくるなり、言われました。
「救国の乙女よ。貴女はいつになったら、この国を救ってくれるのだ? こちらもただ貴女を置いておき、食事や部屋を与えるわけにはいかんのだよ」
王様、イェーゴ=イスト様は、少し嘲るような笑顔を浮かべながら仰りやがりましたわ。
「そこのところ、どうなのですか? 救国の乙女様」
少し馬鹿にした調子で『救国の乙女』を強調しながら、イェーゴ様が尋ねてきます。
「……とは言われても、私も天の声により連れてこられたもので何をすればいいかも……」
正直、私にも何故私が選ばれたのか、何を為すべきなのか分かりませんわ。
なので、思ったことを伝えると、今度はいつの間にか近づいてきていた王妃様が、
「痛っ!」
「あら~、ごめんなさいね。足を踏んでしまっていたみたい」
王妃様、サディー=イスト様がニヤニヤしながら、私の足を踏んで笑っていらっしゃいました。
足を踏むことが出来る距離まで近づくなんて、距離感を肥溜めにでも置いてきたのかしらと思いましたが口には出しませんでしたわ。
「ごめんなさいね、でも、この『導きの靴』があなたの足まで導いたのよ~、だから、今私は踏まざるを得なかったの。分かるでしょ」
導きの靴。それは不思議な魔法の道具で、持ち主の行くべき道を指し示してくれるものらしいのです。
そして、そのサディー様の持つ靴の導きと、イェーゴ様の類い稀な豪運により、この国は非常に発展したと友人からは聞きました。
が、痛いものは痛い。
私は、顔を歪めながらもなんとか笑顔を作り、
「サディー様、導きであるのならば仕方ありませんね」
耐えました。
すると、サディー様は気にくわなかったのか、顔色を変え、
「可愛くない娘だこと。まあ、良いでしょう。それより、」
それより靴どかしやがれですわ。
「救国の乙女が何もせずにのんびり日々を過ごしているというのも外聞が良くありません。なので、」
サディー様はそこでようやく足をどけると、イェーゴ様に目配せをされました。
「これから週に何度か、城下を巡り、民の不満を聞いてくるよう」
イェーゴ様の言葉は決定事項の報告、つまりは、命令でした。
サディー様の言うようなのんびりした日々を色んな事情で私は決して送れていなかったのですが、私自身も救国の乙女として何もしていないことは気にかかっていました。
なので、その命令を引き受けたのですが、これがまた大変でやがりましたよちくしょーでしたわ。
不満を聞く。
私の仕事はただこれだけでした。
聞くだけでした。
聞いて大変ですね、ということしか出来ませんでした。
何故ならば、その不満を城の人に報告しても、改善してもらえなかったのです。
理由は、こっそり教えてもらったのですが、王様は、怒りのはけ口として、言わば、生贄として私を城下に向かわせたのです。
となると、不満を伝えたにも関わらず、改善してもらえない人々は怒ります。
そして、その怒りは私に向きます。
延々と謝り続ける時間。
「何が救国の乙女だ、何も出来ないじゃないかバカヤロー!」
そんな言葉を吐き捨てられながら、私は思ったのです。
この国救わない方がいいんじゃね、ですわ、と。
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