Trick or Treat ガタガタと運ばれて
Trick or treat
Trick or treat
暗闇の中でも、祝祭の音楽がにじむように聴こえてくる。
田舎町の広場の中心で、大きな焚火を囲むように楽隊が奏でているのだ。
豊穣の秋が終わりを告げて、雪に覆われる冬が始まりを告げる。
季節のキリかわりと同時に、生と死のはざまが交わるこの夜。
夜通し行われる新年を祝うお祭りの華やかな賑わいは、年に一度の大きな催しだった。
三日三晩続く祝祭の締めくくりである今夜は、夜道をお化けに扮装した子供たちが練り歩き、かがり火を掲げている家を訪れてお菓子をもらうのだ。
お化けに仮装できるのは十三歳までの子供なので、年長の子供が幼い子の手を引いて、この日ばかりは夜更かしも許されているので、ランタンを手に夜道をはしゃいで歩く。
木の実がふんだんに使われた焼き菓子や、バターの香りも豊潤なサクリとしたクッキーや、甘い甘い飴玉がふるまわれる、子供たちにとっては一年で一番お楽しみの夜だった。
嬉しくて、楽しくて、ワクワクがつまった夜の冒険は、特別なのだ。
それなのに、今。
ガタガタと音を立てて揺れる粗末な馬車の荷台で、大きな麻袋に詰めこまれたメイはガタガタと震えていた。
出荷されたばかりのカボチャみたいに身動きがとれない。
麻袋にはメイ一人しか入っていないが、狭い荷台の中なのでいくつかすすり泣く声も聞こえる。
ガタガタと疾走する硬い車輪の音が大きすぎて外の様子は全くわからないが、一緒に夜道を歩いていた他の三人の子供たちもそれぞれ麻袋に詰め込まれているのだろう。
夜道を歩く子供たちのために、中央広場以外にも大人たちが散らばって見守っているけれど、それでもすべての道を見張れるわけではない。
ましてや、大人たちも祝祭で浮足立っている。
路地の闇からスルリと現れた黒い服の盗人が、子供を数人、麻袋に詰めて路地裏へと連れ去っても気付かなくてもしかたなかった。
そういえば、とメイは思い出す。
お祭り会場でふるまわれる肉をかじりながら大人たちが、近隣の村や町で子供が消える事件が起こっていると話していた。
きっと、その悪い奴らが、この荷台の馬車を操っている連中なのだ。
祝祭の開始の演説で、領主様は直接その事にも触れていた。
祝祭の夜歩きを今年は控えようという話もあったらしいけど、領主様がせっかくのお祭りだからやめる必要はないと後押ししたのだ。
お祭りの夜は自由に歩き、いろんな家からお菓子をもらっておいでと言っていた。
ただ、夜歩きの一番最後に領主の館へくるんだよ、必ず君たちを家まで送り届けるからね、と。
ヒョロリと細身で異様に迫力のある三白眼をした人相の悪い領主様だけど、その声はとても優しかった。
その隣に控えていた奥方様も、メイと同い年で幼馴染のジャックも、ヒョロリとした痩身と鋭い三白眼で、みんなの安全を守ると追随するように告げた。
唐突な誘拐に混乱しながらも、祝祭が始まる前のことをメイは思い出していた。
顔は怖い一家だけれど、領主様たちは嘘をつかない。
メイたち四人が領主の館に訪れない事にもうすぐ気づいて、きっと探し出してくれる。
だから、大丈夫、きっと大丈夫だと、メイはギュッとジャックからもらったカボチャのブローチを握りしめた。
オレンジ色のカボチャを模した可愛いブローチは、誕生日プレゼントとしてジャックから贈られたものだから、今のメイには御守りと同じだった。
信じて待っていれば、必ずジャックが助けてくれるから、泣いたりしない。
陽の光の下だと艶のある七宝焼きに見えるのに、夜闇の中だとゆらりと赤く燃える炎のように輝いていた。