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刀の道、空の旅、戦場の風。  作者: 緒方白秋
第二章 空の旅
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〇 第弐話 『北域守護』-4

「私もこのような話をしたいがために、皆さまをこの北域守護の本部へとお連れしたわけではありません。私は都の武人たちに、我々北域守護の力を知っていただきたいのです。……遮白(シャハク)よ。ここへ」

「はっ」

 埜群(ヤグン)が綺麗に整列した北域守護の兵から、先頭に立っていた一人を呼び寄せる。

 遮白と呼ばれたその兵士は、埜群の横に並ぶと、両手を合わせて深く一礼した。

「……女だと……?」

 都の武官の一人が、つい、といった様子で声をあげる。当然のことではあるが、帝都では女は武官にはなれない。帝が発布している武官登用の決めごとにも、はっきりと『女人(にょにん)(きん)ズ』と書かれている。そもそも、なろうとする者もいない。

 だが、埜群がみなの前に立たせた北域守護の遮白という兵は、間違いなく女性であった。

 彼女は切れ長の瞳を、不信の声をあげた武官に向けたが、薄紅の口は真一文字に引き結ばれたままで、何かを言うことはなかった。

「彼女は遮白。ただ、性別で侮られないようお願いいたします」

 埜群はその遮白という女性の代わりに、言葉を続ける。

「彼女は北域守護で、百人の隊を率いています。これは、女性としては異例のことでありますが、その実力を疑う者は北域守護の兵にはおりません。こういってはなんですが、恐らくここにいる者の大半よりは強いでしょうね」

 都から来た武官たちはみな、埜群の言葉に息を巻いた。女よりも劣っていると言われれば、それは帝を下に見た先ほどの発言よりも、武官にとっては遥かに許し難い言動であった。

 そしてまた、仔繰もその言葉に興味を示し、ようやく空から目を離して、埜群とその横に立つ長身の女を見やった。

 そしてその時を見計らっていたかのように、埜群と目が合うのだった。

「さあ。ずっとつまらない話で飽き飽きしていた者もいるようですので、ここでひとつ、試合と行きましょう。御前試合……、とは、いかに私でも口が過ぎますので、将前(しょうぜん)試合とでも呼びましょうか」

 埜群は前へと進み出ると、都の武官たちを押しのけて、その最後尾まで迷いなく一直線に歩を進めた。

「都にいる友人から聞きましたよ。刀神(とうしん)に教えを受け、心眼(しんがん)を破った鬼の子。私はあなたの実力を見たい。協力してくれますか?」

 仔繰(コクリ)の前までやってきた埜群は、いつの間にか握っていた木刀を、わざとらしいほど恭しい態度で仔繰に差し出した。

「いいぜ。これ以上あんたが意味のわからない長話を続けるなら、ここを出て行こうと思っていたところなんだ」

 その長話をまったく聞いていなかった仔繰は、挑戦的な笑みを浮かべながら埜群から木刀を奪い取るように受け取った。そして、そんな仔繰の乱暴な態度に対して、埜群も満足そうにうなずく。

 だが、もちろんそれに納得できるのは、埜群と仔繰の本人たちだけである。

「待ってください。将前試合だなんて、大層なことを言っておいて、試合をするのが女と見習いの子供なのですか?」

 そう声をあげた筆頭武官に続いて、都の武官たちから次々に文句が出る。

「その女の実力を我々に見せるのに、相手がガキなんて、ずいぶんと弱腰ですな」

「先ほどのお話のとおり、北域守護の実力は我々とずいぶんと違うようだ」

 そんな武官たちの怒りを、埜群はまったく意に介さずに、肩をすくめた。

「私は、将軍という立場にはありますが、実際には直接的な武の競い合いでは、多くの者に後れを取ります。おそらく、試合では遮白にも劣るでしょう」

 その言葉に、遮白はとんでもないと頭を振るが、そこにいる誰もが埜群に気を取られており、誰もそのしぐさを見てはいなかった。

「しかし、審美眼には自信があります。この中で誰よりも強いのは、間違いなくこの仔繰という少年ですよ。今、文句を言ったあなたがたでは、束になってもかなわないでしょうね」

 埜群が平気な顔で言い放った言葉に、武官たちは更に憤るが、埜群はそれこそ驚きだというように言葉を続ける。

「本当にこの中に、仔繰少年の実力を理解できる者はいないのですか?」


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