2話 戦争都市グロリア
戦争都市と呼ばれる事からも分かる通り、グロリアはとても危険な都市だ。最前線は魔導獣との戦闘をし、そんな危ない戦闘を行なっている魔導守護騎士が常駐し、戦闘訓練や休息を取る。それ以外の人々も戦闘のための装備や設備の点検・整備を行い、仮想戦闘や騎士同士の模擬戦闘なども行われる。
基本的には騎士や魔導技術士は国直属の兵士ではなく、1人1人が各々の判断で戦いに必要な行動を取り、それに対して自分で責任を負い、自分で金を稼ぐ。それがこの都市の生活形態だ。
グロリアという都市そのものが、戦争のためにある都市なのだ。
その為、グロリアの出入りには厳重な検問が設置されている。グロリアに民間人が入ってくるのも、グロリアから戦争経験者が出て行くのも、非常に危険だからだ。
「検閲、完了しました。問題ありません」
レノンは検問所の検査官にに招待状を渡し、手紙が本物かどうか確認をしてもらっていた。そして、本物であると確認を終えた後、検査官に手紙を返してもらう。
「少しの間、お待ちください」
検査官は奥に引っ込み、レノンに少しここにいるように告げる。そして数分後。
「お待たせいたしました」
検査官はレノンにバッジを渡す。それは、グロリア内部での身分を表すバッジだ。バッジの色によって、魔導守護騎士、魔導技術士など、それぞれの身分を証明するものとなる。また、バッジには一定の期間のみ滞在を許可するバッジもあり、滞在者とこの都市の市民を見分ける為に、滞在者と市民のバッジは形が違う。勿論、レノンがもらった魔導技術士のバッジは市民のバッジだ。何らかの理由がない限り、レノンはこの都市から出られない事を意味する。
「ありがとうございます」
レノンはバッジを身につけ、中に入る。具体的な身分証については、中に入って、魔導技術士の資格を取ってからだ。それまでレノンは魔導技術士見習いという身分になる。
いずれにしろ、レノンはこのグロリアの住民として認められた、ということだ。
「〜〜!」
レノンは嬉しそうにバッジを握りしめる。ここからがレノンのスタートになる。レノンは検問をくぐる。
そこには、今まで見たことのない景色が広がっていた。
レノンのいた町ではレンガ造りの建物は何軒かあっても、道は舗装されずに土で埋め立てられていた。高い建物も、最大で2階建てだった。それに対し、グロリアの街並みはレンガ造りの建物群に、道もレンガで舗装されている。更には、北方には2階建ての建物よりも明らかに高い門が建てられている。建物も、何階建てか分からない様なものが多い。
レノンは、故郷の町で国営の放送を見ていたのを思い出す。必死に戦い、戦場を駆け抜けた騎士が、勝って戦場から街に舞い戻り、祝賀会を開く姿が放送には映っていた。または、騎士同士の闘技場での模擬戦闘が国民の娯楽として放送される事もあった。ここは、そんな放送を撮っていた実際の土地なのだ。そう思うと、レノンの胸がかあっと熱くなってくる。
自分は、憧れの土地に舞い降りたのだと。
レノンは熱い胸をぎゅっと握りしめて、一歩を踏み出す。
ーーそして。
「……そもそも、どこに行けばいいんだっけ?」
戦争都市グロリアに到着早々、レノンは迷ってしまった。
◆◆◆◆◆◆
とりあえずレノンは歩いた。歩いて歩いて歩いて歩いた。どこに行けばいいかなど考えず、ひたすらに歩いた。
そして気が付けば、レノンは魔導守護騎士が北方へと繰り出す為の門の前まで来てしまっていた。
見上げると、門はどこまでも上に伸びている。門の先は見えるものの、その頂点は小さ過ぎて目ではギリギリ見る事しか出来ない。
「でっけぇ〜〜〜〜!」
レノンは思わず声を出してしまう。ここから騎士達は戦場へと繰り出すのだと、感動で胸が打ち震える。
しかし、周りの甲冑を着た戦士らしき人達がレノンをギロリと睨み、レノンは思わず手で口を覆う。ここは戦場へと繰り出す戦士達が訓練や休息を取る為の最前線。そんな場所で観光気分の人間がいれば、その士気は落ちてしまう。
レノンは周りの人間に睨まれているのをヒシヒシと感じ、たまらずその場から逃げてしまう。
そして、また迷ってしまうのだ。
「う〜ん、招待状に場所は書いてあったはずなんだけどなぁ」
招待状には、レノンの言った通り、街の地図と、案内が赤い線で示してある。しかし。
「この感じだと、まず入る検問を間違えたな」
この街に入る為の検問は全部で10個ある。レノンは数ある検問の内示された検問に入ったと思ったが、どうやら1つずれた検問に入ってしまっていた様だ。
グロリアまでの道のりは親切な人に聞いてやって来たものの、そんな間違いを犯してしまっていたらしい。
しかも、グロリアに入ってからは外に人がいたにも関わらず誰にも尋ねずに適当に道を進んでしまった。恐らく、グロリアに着いた興奮でそんな事も忘れていたのだろう。
「でも、ここなら大体位置は分かるな」
今は北の門の近くだ。それなら地図のどの辺りなのか割り出すのは難しくない。レノンは地図を凝視する。
「じ〜……」
レノンは地図を凝視する。
「じ〜……」
……レノンはーー。
「……分からねえ」
結局、迷子だった。
「あれぇ……?おかしいな……」
レノンはもう一度地図を見直す。しかし、何度見たところで分からない。
「とりあえず、動くしかないか」
レノンはとにかく立ち上がる。そして、どちらが目的地かも分からないまま歩き出す。
「うわっ!」
「きゃっ!」
そして、人とぶつかってしまった。
「あぁ、ごめん!」
「ふぇぇ、こちらこそごめんなさい!」
目の前にいるのは、お淑やかな女の子だった。彼女は尻餅をついていた。
背は低過ぎず高過ぎず、女性としては少し低い女の子。その綺麗な黒髪は腰程まで伸びていて長く、前髪も、顔が隠れるほどに長い。そんな彼女の身体はグラマラスで、特に胸はかなり大きい。顔と同じくらいに大きかった。
「俺はレノン=カルヴレスト」
レノンは女の子の手を引っ張り、起こしてやる。
「ふぇぇ、私は、セリア=アーバンリアスです」
女の子は、いや、セリアはそう名乗った。その彼女の首元には、魔導修練騎士のバッジが輝いていた。