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最低魔力の魔導技術士  作者: 恋熊
1章 新米の魔導技術士
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1話 魔導技術士

 




 ブゥンッ!ブゥンッ!


 空を切る音が聞こえる。


 午前4時から日が昇る今までずっと辺りに聞こえるこの音は、1人の少年がその間、欠かさず木の模造剣を振り続けた音だ。


 この辺りで唯一の人間の国、ルドウィール魔導王国。その国境のギリギリ外の林で、女の子の様に長い黒髪を後ろで縛った少年は、ひたすらに剣を振り続けていた。


「9千9百……1!」


 少年はひたすらに剣を振るう。まるで周りが見えていないかの様に。少年はいつまでも振り続ける。ただ目の前を見据えて、模造剣を振り被り、綺麗に、真っ直ぐ振り下ろす。


 少年のこの素振りの音は、周囲の住民の日課になっており、この音を気にする者はもう居なくなっていた。それだけの日数、少年は毎朝剣を振り続けていた。


「い……ちっ!まん……!」


 毎朝、4時から1万回、模造剣の素振り。それが少年の日課だった。木で作られた模造品とはいえ、その剣の重さは1キロはある。そんな剣を、少年は毎朝1万回も振り続けている。そして、最近は毎回、大体同じ時間に素振りを終える。素振りの音がしなくなった時間帯を目安に町の人々が動き出すくらいだ。


「はぁ……!はぁッ……!」


 呼吸を整えるために、少年は動きをスローモーションにする。やがて、どんどん息は整っていき、少年は上体を起こす。


「今日でこの町ともおさらばか」


 そう。少年は、田舎とも言われる人口の少ないその町を出て、王都を超え、戦争の最前線、戦争都市と呼ばれるグロリアへと旅立つ。


 ルドウィール魔導王国は、大陸で唯一人間が生きられる環境下にある国で、古くから魔術を駆使して繁栄してきた国家である。人口は約30万を超え、国として多くの民を支え続けてきた。王都ガールヴァルを中心部に、魔術によって通交、食糧生産、様々な技術が支えられてきた、それがルドウィール魔導王国なのだ。


 そんな魔導王国の北方1万キロメートル先。そこには、人間の命を脅かす危険な生命体がいる。体を鋼で覆い、その体の形は種類によって様々ではあるものの、全てが2メートルを超える鋼の巨躯を持った、金属の生命体。その体は魔術で動いているとされ、その生命体自体も魔術を使うという、人間の敵とされる、魔導生命体。それが魔導獣(ギメル)魔導獣(ギメル)は生物が持っているエネルギー、魔力を求め、ありとあらゆる生物を虐殺する。


 人間は虐殺される事を恐れ、対抗する為に、魔導獣(ギメル)がやって来る方向に防衛戦を張り、そこから300キロメートル先の平原を戦場として、日々戦っている。そんな人間の拠点となるのが、魔導王国最北端の戦争都市グロリアなのだ。グロリアにはありとあらゆる最新鋭の戦闘技術・戦闘用設備が整っている。人間を魔導獣(ギメル)から守る最前線こそがグロリアなのだ。


「今日、俺はグロリアに行くんだ!」


 少年、レノン=カルヴレストは1枚の便箋を取り出す。それは、グロリアへの招待状だった。とても危険な仕事でありながら、子供なら誰もが憧れ、鍛錬を重ねてなろうともがくもの、それが、最前線で魔導獣(ギメル)と戦う魔導守護騎士。そんな騎士が数多く呼ばれ、数多くの戦士が戦場に出るために最も過酷な鍛錬を積む都市、それがグロリア。そんなグロリアへの招待状を、レノンは勝ち取ったのだ。


 子供の頃から修行を積んで数年、そして、諦めて転向して地元の専門家の元で学んで数ヶ月。レノンはついに、自身の夢を叶える切符を手に掴んだのだ。


「行くぞ!グロリアへ!」


 レノンは思わず大声を上げてしまう。しかし、高まってしまった興奮は中々抑えられない。レノンは、憧れの騎士の街へ呼ばれたのだ。例え、魔導守護騎士の装備を整備する魔導技術士として呼ばれたとしても。


 レノンの興奮は、中々治らなかった。






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