2
「アカリ、俺お菓子買ってくるけど、なんか買うモンある?」
「何々? 奢ってくれるの?」
「好きな味のチロリチョコを奢ってやるよ」
「やったあ! キナコ味がいいなあ」
「……分かったよ。 ちょっと待ってろ」
ちょっとした冗談のつもりだったけど、素直に喜ばれると、それはそれで嬉しいな。
結局2人でコンビニに寄ったけど、アカリは何か手に取る訳でもなく俺の後ろをついて店内を歩いている。
何が楽しいのか上機嫌で、店内のBGMにあわせて鼻歌まで歌っていた。
「ねね、ダイキ」
「どうした?」
もうすぐ家にたどり着くという帰り道、ふと思い出したようにアカリが俺を呼んだ。
「あの二人、なんか進展有ったかな?」
「なんもねえだろ? あいつらは当分あのままじゃね?」
ジュンタとブンコの事はちょっと気にはなるけど、あんまり俺たちが入らない事をするのは気が引ける。
「おまえ、あんま余計な事すんなよ?」
「当たり前じゃない。 あの子たちは見守るのが至高よ。 しかもすぐ傍で」
「見てるだけ?」
「どうせその内くっつくわ」
じゃあ、その時俺たちは?
ひと思いに聞いてしまおうかと思ったが、なんだか今までの関係が狂ってしまうのが怖くて何も言えなかった。
「じゃあね」
そう言って、アカリに腕をそっと触れられた。いつの間にかアカリの家の前に着いていたらしい。
「おう」
一言だけ返し、玄関の前でアカリが小さく手を振るのに軽く右手をあげて返しながら、すぐ傍の自分の家に入った。
*
その夜の事だった。自分の部屋で課題を四苦八苦しながらこなしているとスマホが震え、RINEが届いた。アカリからだ。
”私のキナコ?”
”家にある”
”り”
1分程で、我が家のインターホンが鳴り、2階にある俺の部屋からは何を話しているのかまではよくわからないが賑やかな声が聞こえ、階段を上る軽い足音が聞こえた。
カチャリと軽い音とともにドアが空く。
「私のきな粉に会いに来たの」
「ノックしろよ」
アカリが俺の部屋に入ってくる時に、今まで一度だってノックされた覚えが無い。それどころか勝手にベッドに寝転ぶ始末だ。アカリにしても、俺にしてもいつも通り。まったく遠慮のない幼馴染の距離。
だけど。
「おまえ、スカートでそれやめろよ」
ゆったりとした半そでのパーカーに淡いピンクのスカートを履いている幼馴染の生足に、思わず視線を這わせてしまった俺は、気恥ずかしくなって普段言う事が無いような事を言ってしまった。
「何よ? 見たいの?」
別に、本当に見たいわけじゃない。見たいか見たくないかと問われれば、見たい。見たいが、見たいわけじゃないけれど、どうしてか口をついて出てしまった。
「見たい」
「…………」
アカリの切れ長な目がまんまるになった。こんな顔を見るのは久しぶりだ。
最近の友人たちのいちゃつきぶりに俺も毒されてしまったのかもしれない。
「……やっと私に興味が出てきたの?」
……何?一瞬アカリが何を言っているのか分からなかった。けど、興味?
「今まで私が散々ボディタッチしても、無防備なカッコで部屋に来ても、なーんにも無かったダイキが」
「いや、それは……」
「ジュンタ達を見て、私の事、意識しちゃった?」
めっちゃ図星。
「いやあ……ふーん……そうかあ……」
勝手に何やらフムフム言いだしてる。不本意だけど、俺がアカリの事を気にしてるのは事実。だけどなんだか素直に認めるのも癪な気がする。
「その、あれだよアレ! 見えそうだから注意をだな……そう! 注意っ! そんなはしたない事しちゃダメでしょっていうアレだよっ!」
「ほーん……これ、キュロットですからあ」
ニヤニヤして俺の事を見てやがるが、ずいぶん上機嫌そうだ。
「でも、そうかあ……私の努力も無駄じゃなかったねえ」
努力?今まで何の努力をしてたんだ?
「よし! 明日からもっといくから、覚悟しといてね?」
「お、おぉ?」
それだけを言い放って、チロリチョコ一個を持ってさっさと去って行った。