金曜日のよしこさん
「よしこさん、俺と付き合ってください」
「嫌です。君を男として見れない」
今日は金曜日。一週間ぶりに登校してきたよしこさんに屋上で愛の告白をした。
「だいたい君、彼女いなかったっけ?」
「三日前に別れました」
「へー、短かったね。付き合った期間一週間くらい?」
「そうですね。別れた原因は性格の不一致というやつです」
「それで次は私ってわけ? 切り替えが早いというかなんというか……」
冷蔵庫に一ヶ月くらい入れっぱなしにした、腐ったキャベツでも見るような目。しかしこんなことにはなれている。俺、佐久間祐一はよしこさんに最低な男として認識されているのを知っている。さっき言ったみたいに、一週間女の子と付き合って別れ、次の日には別の子と付き合っている、みたいなことを繰り返しているからだろう。
「長続きしないのって君に問題があるんじゃない? 飽きっぽいとかそういう……」
「かもしれませんねえ。飽き性なのは認めます」
風が一瞬強く吹いた。俺たちはわっ、と言って身を屈める。よしこさんはスカートをおさえている。しかし、スカートの隙間からは真っ白なパンツが覗いていた。
その直後、雨がポツリポツリと降り出した。
「もう校舎の中に入りましょう。なんだか本格的に降りそうよ」
「よしこさん、なんで金曜日しか学校こないんですか?」
「え? 今はそんなことを話してる場合じゃないわ」
「このままじゃ出席日数足りないでしょ? 卒業できるんですか? もう3年生なのに」
「……」
「答えてください、よしこさんっ!」
雨がざっと降り出した。俺たちはその場に立ち尽くしたままだ。降ってくる雨粒をまともに受けて、全身びしょ濡れになっている。
「私はあなたみたいに家が裕福でもないし、勉強ができるわけでもないし、女を取っ替え引っ替えできるくらい顔がいいわけでもないわ。私があなたに金曜日にしか登校しない理由を話したところで、私は傷つくだけよ。だってあなたには本当のところ、少しも私のことが理解できないだろうから」
「……」
「早く校舎に入りましょう。もうびしょびしょよ。風邪引いちゃうわ」
俺はよしこさんの腕をとって引き寄せ、強く抱きしめた。
「なっ、何するのよ、離しなさいよ!」
「離さない! 俺は、よしこさんにどんな理由があっても、それを俺が理解できなくっても! あなたを傷つけはしない!」
よしこさんは驚いた様子で少しの間固まっていた。それから俺の頬に軽く口づけをして、
「ありがとう」
とささやいた。
俺は彼女の身体を解放して、一緒に校舎の方へと歩き出した。雨はもう、やんでいた。
「あ、見て」
よしこさんが指差す方を見ると、虹がかかっていた。
俺たちは足を止め、しばらくの間虹を眺めていた。
「また金曜日に会いましょう」
よしこさんは屋上の扉を開けて、一人で階段を降りていった。心なしかいつもより足どりが軽そうだ。
俺は次の金曜日を楽しみに、また退屈な一週間をやりすごすことになる。
屋上から校舎の入り口の方を眺めていたら、よしこさんが出てきた。ちょうど校門のあたりまで歩いてから、こっちを振り返った。
目があった。
俺は笑いながら大きく手を振った。よしこさんは恥ずかしそうに、でも小さく手を振り返してくれた。
終わり