表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある悪魔の疑問

作者: あいきゃんふらい(揚)

 とあるところに、一体の悪魔がいました。悪魔は人々から『何か』をもらって、その人の願い事をかなえるのを仕事にしていました。



 ある日、悪魔が呼ばれました。それは演奏家でした。彼は悪魔にこう言いました。


 お願いです、僕に素晴らしい演奏を奏でることのできる手をください。次のコンクールで優勝したいんです。対価ならいくらでも差し上げます。金でも、銀でも、宝石でも。何でも何でも差し上げます。全てを失う覚悟です。


 その悪魔にとって、そんなにちっぽけな願いなど、取るに足りませんでした。悪魔は指をパチンと鳴らして、そして彼の願いを叶えました。


 ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。これで僕は優勝できる。大金を手にすることができる!


 

 代償として悪魔は、演奏家の『耳』をもらいました。演奏家の良い『耳』は、高く売れるからです。

 彼は、自分の素晴らしい演奏を聞く事はありませんでした。



 ある日、悪魔が呼ばれました。それは女優でした。彼女は悪魔にこう言いました。


 お願いです、私にすれ違う人が通り過ぎるほどの美しい顔をください。どうしても一緒になりたい方がいるんです。対価ならいくらでも差し上げます。金でも、銀でも、宝石でも。何でも何でも差し上げます。全てを失う覚悟です。


 その悪魔にとって、そんなにちっぽけな願いなど、取るに足りませんでした。悪魔は指をパチンと鳴らして、そして彼女の願いを叶えました。


  ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。これで私は一緒になれる。何時までも何時までも!



 代償として悪魔は、女優の『目』をもらいました。女優の美しい『目』や高く売れるからです。

 彼女は、自分の美しい顔を見る事はありませんでした。



 ある日、悪魔が呼ばれました。それは料理人でした。彼は悪魔にこう言いました。


 お願いです、俺にどんな人も満足させられるような技術をください。そうじゃないと、クビになってしまうんです。対価ならいくらでも差し上げます。金でも、銀でも、宝石でも。何でも何でも差し上げます。全てを失う覚悟です。


 その悪魔にとって、そんなちっぽけな願いなど、取るに足りませんでした。悪魔は指をパチンと鳴らして、そして彼の願いを叶えました。


 ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。これで俺はコンテストで優勝できる!



 代償として悪魔は、料理人の『舌』をもらいました。料理人の素晴らしい『舌』は高く売れるからです。

 彼は自分の料理を味わう事はありませんでした



 ある日、悪魔が呼ばれました。それは幼い少女でした。彼女は悪魔にこう言いました。


 お願いです、皆に平和な世界をください。兄弟や母が、戦争で父が死んで悲しんでいるんです。対価ならいくらでも差し上げます。金や、銀や、宝石はないけれど。でも、何でも何でも差し上げます! 全部、全部あげます!


 その悪魔にとっても、そんな願いは難しいものでした。悪魔は少女に、言いました。


 一度だけなら止められる。でも、ずっと止めさせる事は難しい。


 少女は悪魔に言いました。


 それでも良いんです。お姉ちゃんが、弟が、妹が、お母さんが悲しまないなら。お兄ちゃんや、お父さんが死なないのなら、それで良いんです!


 悪魔は指をパチンと鳴らして、そして少女の願いを叶えました。


 ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。これで皆、笑いあえる!



 代償として悪魔は、少女の『命』をもらいました。少女の純粋な『心』は高く売れるからです。

 彼女は皆と笑いあう事はありませんでした。




 悪魔は思いました。何故彼らは、自分たちは感じることがない幸せを、感じる手段を犠牲にしてまで作り出すのだろう、と。どうせ、また元通りになってしまうのに。

 『耳』を代償にピアノの名手となった彼。彼の願い事は美しい音色を生み出し、人々の耳に新たな音を伝えました。けれど、彼が老いて、ピアノが弾けなくなると、人々の耳に音を届けることができなくなりました。

 『目』を代償に美貌を手に入れた彼女。彼女の願い事は美しい顔で人々の目を喜ばせました。けれど、彼女が朽ちてからは、そんな美貌で人々を喜ばせる事も出来なくなりました。

 『舌』を代償に凄腕の料理人となった彼。彼の願い事は美食家たちの舌を唸らせました。けれど、彼が果ててからは、そんな料理を美食家たちに振る舞う事も出来なくなりました。

 『命』を代償に一時的な世界平和を作り出した彼女。彼女の願いは少しだけ、世界を平和にしました。けれど、彼女が死んですぐに、世界は元通りになりました。




 なぜだろう、と、悪魔は思いながら、次の召喚を待っています。

 ストックが尽きたので、しばらく投稿しません。

 多分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ