アスワンの黒い死神
「あああ、暇だ」
宇宙船のコクピットでチタは叫んでいた。
この3日間、オーシャンブルーの小衛星の影に隠れて、ずーと過ごしていたのだ。
「まあ、そういうな、チタ。これも任務だ」
バルナウが、慰める。
「陛下も酷だよな。俺の愛するスウ王女が目の前の星でにっくき恋敵の男といちやいちゃしているのを守れなんて。」
目の前のスウの立体ホログラムを見ながら、両手を握り締めてチタは言った。
「お前のロリコン趣味もどうしようもないな」
呆れてバルナウが言った。
「俺だけじゃないぞ。陛下もスウ王女は良いと言っていたぞ!」
「お前に合わせてくれただけだろ」
「そんな事は無いぞ」
むきになってチタは言った。
「わかったって」
かみつかれそうな勢いに慌ててバルナウは手を振った。
この二人、銀河の中で恐れられているアスワンの誇る黒い死神部隊の精鋭であった。
その機動歩兵を繰る腕前は銀河の中でも1、2を争うといわれ、機影を見たときは死ぬ時だと言われていた。
その二人の会話とも思えない話の内容だが・・・。
40代のバルナウはナンバー5、29のチタはナンバー8。
チタは黒い死神の中でも一番若かった。
「しかし、スウも大人になったな。3年前にキア王子と来た時はまだ、子どもだったのに」
バルナウが懐かしそうに言った。
「くっそう、バルナウはそのとき既に死神部隊にいたものな。
俺は一衛兵でしかなかったらに。」
チタは悲しそうに言った。
「でも、その時に声をかけてもらったんだろ?」
からかってバルナウが言った。
「そうなんだ。やさしいスウ王女は俺が扉を開けて差し上げると「ありがとうございます」ってにこっと笑ってくれたんだ
。」
あさっての方向を見ながらチタは言った。
しまったという顔をバルナウはした。
スウの話しとなるとチタは見境がなくなるのだ。
「しかし、スウはそのときからローヤルに首ッたけって感じだったぜ。ローヤルは迷惑がっていたけど」
バルナウは何も考えずに言った。
「おのれ、ローヤルめ、そのスウ王女といちゃいちゃしてやがって。」
チタはローヤルの顔を思い浮かべながら歯軋りした。
「でも、誰も、いちゃいちゃしているかどうかはわからないだろ」
「そんなモン決まっているだろ。この惑星は海しかないんだぞ。無人島で二人だけでいちゃいちゃしているに違いない。」
チタは立ち上がってバルナウに食って掛かった。
そして、オーシャンブルーを睨みつけて
「おのれ、ローヤルめ。もし、スウ王女に手を出していたらぎったんぎったんにしてやる。」
手に握ったホログラム発生装置を金属くずにしながら、チタは叫んでいた。