レントの偽善
「大使、今回の我々の保護国、フレクスへの侵攻は遺憾です。
直ちにフレクスからの撤退をジパングは要求します。」
レント内務大臣は埒が明かないのでノーザンのベテス駐ジパング大使を呼び出していた。
「大臣の立場は良く判ります。
ただし、我々ノーザンもフレクスのテロ行為には多大な被害を被っており、座視できなかったのです。
その上の行為ということで、ご了承いただきたいのですが」
ここで、ベテスは言葉を区切った。
「事前には非公式にお伝えしたと思いますが・・・・」
薄ら笑いを浮かべた。
「実はベテス大使、状況が変わったのです。
王が、いたくお怒りで、これ以上の占拠を続けるなら、ノーザンに対して攻撃もありえると」
「マルサス王がですか。しかし、そこは大臣がそこは説得いただく場面だと思うのですが」
「大使、正直にお話しします。
昨日お呼びして、お話ししたとおりなのですが、スウ王女および、ローヤルは無事にジパングにお引渡し願いたい。そうでない場合は全面戦争もありえます」
「ご冗談を」
ベテスは笑おうとした。
「冗談ではないんです。」
レント内務大臣はまじめな顔でベテスを見つめた。
「今回の件、国民の怒りも大きいです。何より、オリオンの怒りが」
「オリオンの怒りですと、あの、レスター伯以下何千人が殺されたという」
胡散臭そうにベテスは言った。
ノーザンでは2109艦隊の消滅の言い訳にジパングが使っているのではないかと、いまだに疑っていた。
「あなたは、当事者で無いからこの恐怖わからないのです。しかし、人類の叡智を集めて作ったオリオンシステムはいまだに健在です。悪いことは言いませんから直ちに撤退していただきたい。」
「しかし、ここまで来ての撤退などありえません。」
ベテスは言った。
「では、わが軍もフレクスに出兵するのみです。」
「内務大臣、本気ですか?」
「オリオンの意向に逆らうことは出来ませんから」
「お待ち下さい。直ちに本国に掛け合います。」
「良かった。そう言って頂けると思いました。」
レントはにこっと笑った。
「いつまでにお返事いただけますか。」
「一週間以内には」
ベテスは答えた。
「遅いですな。3日以内にお願いします。」
「3日ですと。時間がなさ過ぎます」
ベテスが抗議した。
「大変なのは判っています。そこを何とかお骨折りいただきたい。両国が全面戦争になるかどうかの瀬戸際なのですぞ」
「判りました。善処しましょう。」
ベテスはあたふたと内務省を後にした。
「ノーザンはこの案を呑みますかね」
ベントの後を見ていたゼーマンが聞いた。
「聞かんだろう」
あっさりとレントは言った。
「しかし、やれるだけはやった。後は現場に任せるしかあるまい。
ラッセルも間もなく着くんだろ。」
レントは頭上のジパングの図を見た。
マルサス王の指示は果たしたという感覚はあった。
いくら傭兵部隊が強力だといっても、いくらラッセルが向こう見ずだといっても、
二軍には勝てないだろう事はわかっていた。
二人が死んだとしても、言い訳はつくという自信もあった。
「ローヤルとスウのお二人の幸運を祈ろうではないか」
笑ってレントは言った。
しかし、この二人にこれから散々引っ掻き回されることになるとはレントは思いもしなかった。